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ペラヘラ祭りと裏ペラヘラ
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さて、翌日はヌワラエリヤのペラヘラ祭りです。
ペラヘラ祭りといえば、日本の紀行バラエティー番組などでもよく紹介されていますが、あれはキャンディのペラヘラです。
キャンディのペラヘラはスリランカ仏教の至宝といえる、仏歯(ブッダの糸切り歯)を着飾った象に乗せ市内をパレードするもの。
夜になると電飾された、ディズニーランドのエレクトリカルパレードみたいな象が何十頭もねりあるくそうです。
(しかし近年では、動物愛護の観点から縮小傾向にあるとか)
一方、こちらヌワラエリヤのペラヘラはぐっと小規模です。
着飾った象もせいぜい三頭ほどしか出ませんし、パレード全体も小さい。
それでも、見物の人々はたくさん集まっています。
このころは内戦のせいで観光客が激減していたスリランカですが、今までいったいどこに隠れていたんだろうと思うくらい、たくさんの西洋人観光客がカメラを構えています。
私は、ボブ、マイケル、メンクラの3人組とともに夕方までペラヘラ見物を楽しんでいました。
「さあ、そろそろ夕食にしよう。メンクラの家に行くぞ」
ボブが言います。
私は彼らの自宅に招かれるのは初めてです。
祭りが行われている通りを離れてしばらく歩くと、キリスト教の教会が見えます。
メンクラの家は協会のおそらくは敷地内に建てられた、粗末な木造の掘っ立て小屋でした。
ちなみに彼らは3人ともクリスチャンでした。
ラスタは大別するとキリスト教の一派ともいえますので、矛盾はないのかもしれません。
料理はもちろん、メンクラが作ります。
メニューはインディアーッパと呼ばれる、ビーフンのような麵を短く刻んだもの。
それにビーフカレーをかけます。
スリランカはヒンドゥー教徒がそれほど多くありませんので、ビーフカレーは特に珍しいものではありません。
しかしメンクラの作ったカレーはもちろん美味しいものでしたが、ビーフは水牛肉でしかも煮込みが足りないのですごく固いです。
スリランカカレーは日本のカレーのように長時間煮込みません。
というわけで、これからスリランカ旅行される方には、あまりビーフカレーはお勧めでないことを記しておきます。
食事が終わって美味しい紅茶をいただいて、一息ついたころ、ボブが口を開きます。
「さあ、そろそろ祭りに行こうか」
外はもう日が暮れています。
ヌワラエリヤの象はキャンディのように電飾が施されていませんが、夜の部があるのでしょうか?
「いや、観光客向けのペラヘラはもう終わったよ。これからが本物のヌワラエリヤの祭りの時間なんだ」
メンクラの家を出て、4人は郊外への道を歩きます。
私たちだけではありません。暗い夜道をゾロゾロと大勢の人々が歩いています。
すべてスリランカ人で、西洋人観光客はひとりも見えません。
郊外に出るとあたりは森以外何も見えません。
何もない郊外の道を、大勢の人と自動車が同じ方向に進んでいます。
「トミー、あれに乗せてもらおう」
ボブが言うなり、後ろからやってきた小型トラックを手を振って止めます。
私たちはトラックの荷台に乗り込み、さらに暗い道を行きます。
20分ほどは走ったでしょうか。
真っ暗な道の向こうに、賑やかな明かりが見えます。
どうやらあそこが目的地のようです。
トラックを降りると目の前には大きな野外ステージがあります。
ステージの上では黒人バンドのように見える、安っぽいタキシードを着たスリランカ人バンドが演奏しています。
曲はアメリカン50's特集のようです。
チャック・ベリー、リトル・リチャードやビル・ヘイリーなど、おなじみの名曲が次々演奏されます。
ステージの前にはたくさんの椅子が置かれていますが、観客はまさに老若男女。
子供からお年寄りまでの男女が何百人も居ます。
さらに音楽に合わせて踊り狂う人々。アラックのボトルがそこら中にあります。
どうやら飲み放題らしいです。これが裏ペラヘラか!!
私はこの場に居るおそらく唯一の外国人でしたので、非常に目立ちます。
踊り狂う群衆に腕を引っ張られ、踊りに参加しました。
踊っている最中にもアラックのグラスを次々に押し付けられます。
私はかなり下戸ですので、これには少々閉口しました。
「トミーこっちに来いよ」
一緒に踊ってたボブたちに助けられ、ひとまず群衆から抜け出します。
「トミーは酒はダメなんだな。じゃあ、こっちでいこう」
ボブが例の太巻きガンジャに火を着けました。
ガンジャをキメて、50'sアメリカンポップスで踊り狂う。
とてもここがスリランカとは思えない時間を過ごしました。
ボブとマイケルはステージの袖をたたきながら大声で叫んでいます。
「ボブ・マーリー!ボブ・マーリーをやれ!」
狂乱の祭りは明け方まで続きました。
私たちはヘロヘロになりながら、メンクラの家に戻り、しばらく泥のように眠ります。
それでも10時ごろには目を覚まし、3人を起こします。
「起こして悪いけど、僕は12時までにチャックアウトしなきゃいけないんだ」
それを聞いてボブが言います。
「そうか、今日コロンボに帰るんだったね。わかった、帰る前に立ち寄ってくれよ」
「わかったそうする」
宿に戻り荷物をまとめ、宿の奥さんに挨拶します。
「トミー、ペラヘラは楽しめた?」
「はい、裏のペラヘラも楽しみました」
「あはは、そっちに行く外国人はほとんどいないわ。あなたラッキーね」
メンクラの家に行くとすでに表で3人が待っています。
「トミー、駅に行く前にちょっと寄っていこう」ボブが言います。
・・・どこに?と聞くひまもなく、3人は歩き出す。
タバコや食糧品、雑貨などを売る店の店頭にテーブルが置かれています。
私たちが腰かけると、店の親父が出てきます。
私たちはコーラを注文しました。
「トミー、ヌワラエリヤは楽しんでもらえたかい?」ボブです。
・・・もちろんです。
バッドボーイズなんていってましたが、ほんとうに友達のように接してもらえてうれしかった。
「また、来てくれるよね?」
マイケルが言います。
無口なメンクラは例によって笑みを浮かべながら黙っています。
「メンクラ、君の料理の腕は最高だよ。プロになれるよ」
「うん、いつかレストランを開くから、トミーも食べに来て」
メンクラにしてはかなり長いセリフを言ってくれました。ありがとう。
「ところで、そうそう。トミー、最終日にツイてるよ」ボブです。
「え、なにが?」
「ちょっと待ってね」
そう言って店の親父を呼びました。
「トミー、紹介するよ。この親父がこないだ言ってた破壊王の弟」
・・・え?
「でね、帰ってきてるんだよ、その破壊王が」
親父が口を開きます。
「その日本人が兄貴に会いたいってのか?ちょっと待ってろ」
・・・いや、会いたいなんて言ってないし。
親父は店の奥に向かって
「おーい兄着!ひさしぶりに挑戦者が来たぞ~!」
・・・いや、違うって!!
ペラヘラ祭りといえば、日本の紀行バラエティー番組などでもよく紹介されていますが、あれはキャンディのペラヘラです。
キャンディのペラヘラはスリランカ仏教の至宝といえる、仏歯(ブッダの糸切り歯)を着飾った象に乗せ市内をパレードするもの。
夜になると電飾された、ディズニーランドのエレクトリカルパレードみたいな象が何十頭もねりあるくそうです。
(しかし近年では、動物愛護の観点から縮小傾向にあるとか)
一方、こちらヌワラエリヤのペラヘラはぐっと小規模です。
着飾った象もせいぜい三頭ほどしか出ませんし、パレード全体も小さい。
それでも、見物の人々はたくさん集まっています。
このころは内戦のせいで観光客が激減していたスリランカですが、今までいったいどこに隠れていたんだろうと思うくらい、たくさんの西洋人観光客がカメラを構えています。
私は、ボブ、マイケル、メンクラの3人組とともに夕方までペラヘラ見物を楽しんでいました。
「さあ、そろそろ夕食にしよう。メンクラの家に行くぞ」
ボブが言います。
私は彼らの自宅に招かれるのは初めてです。
祭りが行われている通りを離れてしばらく歩くと、キリスト教の教会が見えます。
メンクラの家は協会のおそらくは敷地内に建てられた、粗末な木造の掘っ立て小屋でした。
ちなみに彼らは3人ともクリスチャンでした。
ラスタは大別するとキリスト教の一派ともいえますので、矛盾はないのかもしれません。
料理はもちろん、メンクラが作ります。
メニューはインディアーッパと呼ばれる、ビーフンのような麵を短く刻んだもの。
それにビーフカレーをかけます。
スリランカはヒンドゥー教徒がそれほど多くありませんので、ビーフカレーは特に珍しいものではありません。
しかしメンクラの作ったカレーはもちろん美味しいものでしたが、ビーフは水牛肉でしかも煮込みが足りないのですごく固いです。
スリランカカレーは日本のカレーのように長時間煮込みません。
というわけで、これからスリランカ旅行される方には、あまりビーフカレーはお勧めでないことを記しておきます。
食事が終わって美味しい紅茶をいただいて、一息ついたころ、ボブが口を開きます。
「さあ、そろそろ祭りに行こうか」
外はもう日が暮れています。
ヌワラエリヤの象はキャンディのように電飾が施されていませんが、夜の部があるのでしょうか?
「いや、観光客向けのペラヘラはもう終わったよ。これからが本物のヌワラエリヤの祭りの時間なんだ」
メンクラの家を出て、4人は郊外への道を歩きます。
私たちだけではありません。暗い夜道をゾロゾロと大勢の人々が歩いています。
すべてスリランカ人で、西洋人観光客はひとりも見えません。
郊外に出るとあたりは森以外何も見えません。
何もない郊外の道を、大勢の人と自動車が同じ方向に進んでいます。
「トミー、あれに乗せてもらおう」
ボブが言うなり、後ろからやってきた小型トラックを手を振って止めます。
私たちはトラックの荷台に乗り込み、さらに暗い道を行きます。
20分ほどは走ったでしょうか。
真っ暗な道の向こうに、賑やかな明かりが見えます。
どうやらあそこが目的地のようです。
トラックを降りると目の前には大きな野外ステージがあります。
ステージの上では黒人バンドのように見える、安っぽいタキシードを着たスリランカ人バンドが演奏しています。
曲はアメリカン50's特集のようです。
チャック・ベリー、リトル・リチャードやビル・ヘイリーなど、おなじみの名曲が次々演奏されます。
ステージの前にはたくさんの椅子が置かれていますが、観客はまさに老若男女。
子供からお年寄りまでの男女が何百人も居ます。
さらに音楽に合わせて踊り狂う人々。アラックのボトルがそこら中にあります。
どうやら飲み放題らしいです。これが裏ペラヘラか!!
私はこの場に居るおそらく唯一の外国人でしたので、非常に目立ちます。
踊り狂う群衆に腕を引っ張られ、踊りに参加しました。
踊っている最中にもアラックのグラスを次々に押し付けられます。
私はかなり下戸ですので、これには少々閉口しました。
「トミーこっちに来いよ」
一緒に踊ってたボブたちに助けられ、ひとまず群衆から抜け出します。
「トミーは酒はダメなんだな。じゃあ、こっちでいこう」
ボブが例の太巻きガンジャに火を着けました。
ガンジャをキメて、50'sアメリカンポップスで踊り狂う。
とてもここがスリランカとは思えない時間を過ごしました。
ボブとマイケルはステージの袖をたたきながら大声で叫んでいます。
「ボブ・マーリー!ボブ・マーリーをやれ!」
狂乱の祭りは明け方まで続きました。
私たちはヘロヘロになりながら、メンクラの家に戻り、しばらく泥のように眠ります。
それでも10時ごろには目を覚まし、3人を起こします。
「起こして悪いけど、僕は12時までにチャックアウトしなきゃいけないんだ」
それを聞いてボブが言います。
「そうか、今日コロンボに帰るんだったね。わかった、帰る前に立ち寄ってくれよ」
「わかったそうする」
宿に戻り荷物をまとめ、宿の奥さんに挨拶します。
「トミー、ペラヘラは楽しめた?」
「はい、裏のペラヘラも楽しみました」
「あはは、そっちに行く外国人はほとんどいないわ。あなたラッキーね」
メンクラの家に行くとすでに表で3人が待っています。
「トミー、駅に行く前にちょっと寄っていこう」ボブが言います。
・・・どこに?と聞くひまもなく、3人は歩き出す。
タバコや食糧品、雑貨などを売る店の店頭にテーブルが置かれています。
私たちが腰かけると、店の親父が出てきます。
私たちはコーラを注文しました。
「トミー、ヌワラエリヤは楽しんでもらえたかい?」ボブです。
・・・もちろんです。
バッドボーイズなんていってましたが、ほんとうに友達のように接してもらえてうれしかった。
「また、来てくれるよね?」
マイケルが言います。
無口なメンクラは例によって笑みを浮かべながら黙っています。
「メンクラ、君の料理の腕は最高だよ。プロになれるよ」
「うん、いつかレストランを開くから、トミーも食べに来て」
メンクラにしてはかなり長いセリフを言ってくれました。ありがとう。
「ところで、そうそう。トミー、最終日にツイてるよ」ボブです。
「え、なにが?」
「ちょっと待ってね」
そう言って店の親父を呼びました。
「トミー、紹介するよ。この親父がこないだ言ってた破壊王の弟」
・・・え?
「でね、帰ってきてるんだよ、その破壊王が」
親父が口を開きます。
「その日本人が兄貴に会いたいってのか?ちょっと待ってろ」
・・・いや、会いたいなんて言ってないし。
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