空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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バッドボーイズ VS バッドボーイズ

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ボブに後頭部を殴打された若者は、振り返るなりボブに掴みかかります。

ボブはその若者の髪の毛を掴んで、停車しているバスのボディに頭をガンガン打ちつける。

他の3人の若者たちはそれを止めようと、ボブに躍りかかろうとしています。

マイケルとメンクラ、そして私の3人も走って加勢に駆け付けます。

・・・4対4。戦力は互角です。

あれ?いつの間にか私もバッドボーイズの一員になっています。

このままでは大乱闘勃発は避けられません。

しかし威勢よく走ってきた私たちを見て、相手の4人は少し怯んだ様子を見せました。

これは精神的優位に立っているかも?

よし、得意のはったり技を見せてやる。

私は相手の4人の前に躍り出ると、両手を拡げてクルリと回転しながら跳びあがります。

もちろんこんな大きな予備動作の技、素人相手でもめったに当たるものではありません。

しかし私は彼らの眼前で大きく脚を回して、ゴム草履の底で自分の手のひらをパーンと音をたてて蹴りました。

これもカンフー雑誌"Inside Kung fu"で覚えた「旋風脚」の応用です。

私は空手デモのとき、適当な道具がない場合には、よくこの技を使用していました。

顔の前で大きな音を立てるので、わりとインパクトあるのです。

さて、このときの4人は目の前で行われた意味不明な軽業にキョトンとしています。

そこで私は「おりゃああああっっっ!!!」

と裂ぱくの気合を上げて、大げさなカラテ・ポーズを取ります。

「トミーは空手の達人だぞ!お前ら4人なんかトミーひとりで十分だ」

マイケルが大声で無責任な威嚇をします。・・が、それは効果があったようでした。

4人は脱兎のごとく逃げだしたのです。

「待てコラ~!」追いかけようとするボブを、マイケルとメンクラが抱きとめて制止しました。

うん、彼らはとても良い仲間だ。

・・・・

「トミー悪かったな。せっかく楽しんでもらおうと思ったのに、とんだトラブルに巻き込んじゃって」

私の宿まで送りがてらボブが詫びます。

「いや、楽しいピクニックだったよ。スリランカに来ていちばん楽しかった。ありがとう」

「そう言ってももらえると、俺も肩の荷が下りるよ」

するとマイケルが言います。

「トミーはやっぱり日本人だなあ。空手が使えるんだ」

「マイケルが僕ひとりで4人相手にできるなんていうからさ、もし彼らが掛かってきたらどうしようって焦ったよ」

ははは・・・とマイケルが笑いながら

「そのときはもちろん、僕らも戦ったさ。でもトミーの空手にビビってあいつらが逃げてくれたから、みんな怪我なしですんだしよかったよ」

確かに無事が一番です。

「でも空手ってのはすごいもんだよな」これはボブです。

「ヌワラエリヤにも空手の達人が居てさ、ひとりで5人相手に戦えるんだぜ」

へえ・・・この街にそんな使い手が居るのか?

「軍人なんだけどね、バケモノみたいに強いって噂だ」

え・・・それってもしかして・・・

「ねえ、もしかしてそれ、ベビスって人?」

「あれ?すごいな。やはり日本人にも知られてるんだ、破壊王は」

・・・やはり!

「その破壊王、ベビスはヌワラエリヤに住んでいるのか?」

「いや、彼は軍人だからいつも居るわけじゃない。けどヌワラエリヤに弟が居てね、だからときどき現れる」

「ボブはベビスを見たことある?」

「ああ、彼の弟は知り合いだからね。雑貨店をやってるから、そこでたまに見かけるよ」

一呼吸おいてボブがつづけます。

「トミー、破壊王に会いたいかい?会わせてやろうか?」

・・・いえ、結構です!
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