空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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ヌワラエリヤ・バッドボーイズ 2

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「トミー、あいつが何言ったか知らないけど信じるなよ」

これはボブです。

「あのガイドボーイ、トミーをカモにしようと思ってたから、俺たちに盗られたと思って怒ってるんだな」

マイケルもつづけます。

私はどっちを信じたら良いのかわからないので、曖昧に返事を返しました。

「トミー、明日ここで落ち合おう。無理にとは言わないよ。俺たちを信じるならジャングルウォークに行こう」

ボブの言葉を聞いて、そこで別れます。

・・・ひとまず宿に戻ってからじっくり考えよう。

宿に帰ると奥さんが私に尋ねました。

「トミー、今夜の食事はどうするの?」

「こちらでいただけますか?」

奥さんは目を瞑って大きく首を横に振りました。

ダメなのか?

「もちろんオーケーよ、トミー。ライス&カレーだけどいい?」

スリランカ人はYES、NOの首の振り方が日本人と正反対なので、一瞬混乱します。

「はい、お願いします」

お腹もいっぱいになって、気分も落ち着いた夕食後に部屋で考えました。

さて、どうしたものか・・・ガイドボーイのいうことが正しければ、明日のジャングルウォークはとてもリスキーだ。しかし・・・

ガイドボーイとラスタなバッドボーイズ。

私がどちらにより好感を持っているかというと、あのラスタ3人組のほうでした。

3人とも不良かもしれないけど、どこか憎めない雰囲気がある。

よし、自分の勘を信じよう。

万一に備えての用心さえしておけば、まさか殺されはすまい。

そう決めて寝床に着きました。

翌朝、私は現金やパスポートなど貴重品を部屋に隠し、待ち合わせの場所に向かいました。

3人組は私の姿を見るとうれしそうに手を振ります。

「トミー来たね。よかった~!さあ、行こう、ジャングルウォークへ」

ボブの号令でジャングルウォークに出発です。

まずバスに乗り山を登ります。

下車した場所からジャングル・・・といってもせいぜい森といった程度ですが・・・に分け入ります。

その先にはかなり高い、滝と川の中間くらいの角度で水流が落ちて来る岩山です。

これが滝登りか・・・

「トミー、しっかり。ほらこっち側を登るんだ」

マイケルに励まされながら巨岩がゴロゴロした滝を登ります。

これがなかりキツイ!

3人組はスタスタと登りますが、私は青息吐息です。

ところで私はこの旅の間中、日本ではトイレ履きに使用するような、鼻緒のないゴム草履を履いていました。底にはしっかりとMADE IN JAPANと刻まれたものです。

私はこのゴム草履を、滝登り、山登り、遺跡巡り、とたいへんハードに使用しました。

さらに後の旅でも通算5年以上は愛用したと思いますが、まったくへこたれませんでした。

安い草履ですが、MADE IN JAPANは安くてもしっかりしていると誇らしげに思っていました。

しかし、今回へこたれているのは私の方。

・・・いったいいつまで登るんだ・・・

完全に体力を消耗し尽していました。

もう無理・・・と思いながら目の前の大きな岩を乗り越えたとき。

パッと突然視界が開けます。

岩はゴロゴロしていますが広く平らな場所に到着です。

やっと休めるのか・・・岩にへたり込みほっとしたその時。

「よし、ここらでいいだろう」

ボブがシンハラ語ですが、そんなことを言いました。

するとマイケルがメンクラに目配せします。

メンクラは肩から下げていたバッグのファスナーを開けて手を突っ込みます。

そのバッグからメンクラは、スラリと長い鉈のような刃物を取り出しました。
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