67 / 115
破壊王の噂
しおりを挟む
「そういえばトミー先生は『破壊王』の噂はご存知ですか?」
ここはキャンディのランドマークのひとつ、美しいコロニアルホテルであるクイーンズホテルのレストランです。
私は**大学の空手部の稽古後に、監督さんと会食していました。
会話の内容は主に私の旅の話、スリランカでの空手事情について、はてはスリランカ観光名所についてなど他愛もない話でした。
そんな会話の中で、監督さんが唐突にそのような質問を投げかけてきたのです。
「『破壊王』ですか?いったいなんの話ですか?」
破壊王といえばプロレスラーの橋本信也さんの異名ですが、これは関係ないと思われる。
「『破壊王』というのはスリランカ空手界の禁忌というか、どうもアンタッチャブルな存在のようです。関係者は誰も多くを語りたがらない」
監督さんの話によると、破壊王と呼ばれるベビスという男はここキャンディに生を受けた。
子供のころより尋常ではない腕力の持ち主だったため、貧しい家計を支えるため肉体労働していたそうです。
ベビスが16~17歳くらいのころ、休暇でキャンディを訪れたイギリス人のボクシング・トレーナーがベビスの仕事ぶりを見て興味を持った。
ベビスに小遣いを与え、ボクシングの手ほどきをしたところ、乾いたスポンジが水を吸収するごとくボクシングテクニックを覚えた。
当時は(今もですが)スリランカはボクシングがあまり盛んではありませんでした。
そのため、仮にスリランカでボクシング競技選手になればすぐにチャンピオンでしょうがあまり意味がない。
ベビスの才能に惚れ込んだトレーナーは彼をイギリスに連れて行き、本格的なボクシング指導を施した。
ベビスはアマで何試合か連勝した後、18歳でプロデビュー。
ウェルター級で破竹の5連続KO勝ちしたものの、このころよりデビスの呪われた「破壊王」の拳が血を求めだしたといわれるそうです。
対戦相手のうち3名は重傷で再起不能。うちひとりは脳挫傷により障害の残る体になったのだとか。
まだ若かったヘビスは罪の意識にさいなまれ、ボクシングを捨てスリランカに戻ります。
帰国したベビスに目を付けたのが、当時まだ黎明期だったスリランカ空手界だったとか。
ベビス自身もノンコンタクトの空手ならば、大事あるまいと判断したのか空手に転向します。
空手でもメキメキと腕を上げたベビスは、スリランカの全国大会に出場します。
ここでも向かうところ敵なしの勢いでトーナメントを勝ち上がりました。
ところが決勝戦でまたも破壊王の拳が血を求めたと言われます。
ベビスは決勝の相手に直接打の反則を犯してしまいました。
ベビスの上段突きをまともに受けた不運な対戦相手は、顎を粉砕骨折する重傷を負ったそうです。
この大会での事故以降、ベビスは表舞台を去り、故郷のキャンディで細々と道場を営み地元の子供たちに指導を始めました。
しかし「破壊王」の噂を聞いた腕に覚えのあるものたちが、彼に安息のときを与えませんでした。
道場には何度も道場破りのような挑戦者が訪れ、彼らはすべて「破壊王」の拳で病院送りになったそうです。
あまりにそのようなことが多いため、生徒の子供たちが怯えるので、ベビスは道場を閉めました。
それでもベビスへの挑戦者は尽きませんでした。
ある日、オランダ人のキックボクサーが破壊王の噂を聞きつけやってきました。
ベビスは挑戦を断っていたのですが、オランダ人キックボクサーはストリートファイトを仕掛けたそうです。
街中で襲われたベビスはさすがに本気で応戦しました。
そして、オランダ人は全身数か所の骨折を負い、格闘家生命を絶たれたそうです。
「それからその破壊王はどうしているのですか?」
「ええ、オランダ人の一件は正当防衛ですし、相手も格闘家だったのでお咎め無しだったようですが、やはり地元にも居づらくなったようで」
「それはそうでしょうねえ」
「それで軍隊に入隊したらしいです。もはや破壊王の血に飢えた拳を満足させるのは戦場しかなかったのかもしれません」
破壊王、転じてソルジャーか。
なんだかベビスという人が、悲しい人のように思えてきました。
「そのベビスという人は今いくつくらいの方ですか?」
「さあ、おそらくもう50歳は超えていると思いますが、噂では今でも鬼神のごとき強さだそうですよ」
スリランカ空手界の禁忌、破壊王か・・・すごい伝説の持ち主が居たものです。
監督さんが私に言いました。
「トミー先生もスリランカで空手のデモンストレーションの旅をつづけていたら、もしかしたら破壊王に出会うかもしれません」
「そんなことありますかねえ?」
「可能性はあります。でもトミー先生、間違っても破壊王に挑戦しようなどと考えない方がいいですよ」
・・・ご心配なく。そんなこと露ほども考えませんから。
だいたいそんな破壊王なんてバケモノみたいな奴、私ではなくニコラ向けでしょう。
「そういえば3か月ほど前に、コロンボからウチに『破壊王を知らないか』と尋ねてきた人がいましたよ」
「へえ、そうなんですか。今でもそういう人居るんですね」
「はい、なんかとんでもなく長身のフランス人でした」
ニコラ、あいつやっぱり来てたのか!
その対戦が実現してたら面白かったろうなあ・・・
超人ニコラ VS 破壊王ベビスか。なんか「ゴジラ対ガメラ」みたいな対戦だ。
見たかったなあ・・・などとこのときは呑気に考えておりました。
ここはキャンディのランドマークのひとつ、美しいコロニアルホテルであるクイーンズホテルのレストランです。
私は**大学の空手部の稽古後に、監督さんと会食していました。
会話の内容は主に私の旅の話、スリランカでの空手事情について、はてはスリランカ観光名所についてなど他愛もない話でした。
そんな会話の中で、監督さんが唐突にそのような質問を投げかけてきたのです。
「『破壊王』ですか?いったいなんの話ですか?」
破壊王といえばプロレスラーの橋本信也さんの異名ですが、これは関係ないと思われる。
「『破壊王』というのはスリランカ空手界の禁忌というか、どうもアンタッチャブルな存在のようです。関係者は誰も多くを語りたがらない」
監督さんの話によると、破壊王と呼ばれるベビスという男はここキャンディに生を受けた。
子供のころより尋常ではない腕力の持ち主だったため、貧しい家計を支えるため肉体労働していたそうです。
ベビスが16~17歳くらいのころ、休暇でキャンディを訪れたイギリス人のボクシング・トレーナーがベビスの仕事ぶりを見て興味を持った。
ベビスに小遣いを与え、ボクシングの手ほどきをしたところ、乾いたスポンジが水を吸収するごとくボクシングテクニックを覚えた。
当時は(今もですが)スリランカはボクシングがあまり盛んではありませんでした。
そのため、仮にスリランカでボクシング競技選手になればすぐにチャンピオンでしょうがあまり意味がない。
ベビスの才能に惚れ込んだトレーナーは彼をイギリスに連れて行き、本格的なボクシング指導を施した。
ベビスはアマで何試合か連勝した後、18歳でプロデビュー。
ウェルター級で破竹の5連続KO勝ちしたものの、このころよりデビスの呪われた「破壊王」の拳が血を求めだしたといわれるそうです。
対戦相手のうち3名は重傷で再起不能。うちひとりは脳挫傷により障害の残る体になったのだとか。
まだ若かったヘビスは罪の意識にさいなまれ、ボクシングを捨てスリランカに戻ります。
帰国したベビスに目を付けたのが、当時まだ黎明期だったスリランカ空手界だったとか。
ベビス自身もノンコンタクトの空手ならば、大事あるまいと判断したのか空手に転向します。
空手でもメキメキと腕を上げたベビスは、スリランカの全国大会に出場します。
ここでも向かうところ敵なしの勢いでトーナメントを勝ち上がりました。
ところが決勝戦でまたも破壊王の拳が血を求めたと言われます。
ベビスは決勝の相手に直接打の反則を犯してしまいました。
ベビスの上段突きをまともに受けた不運な対戦相手は、顎を粉砕骨折する重傷を負ったそうです。
この大会での事故以降、ベビスは表舞台を去り、故郷のキャンディで細々と道場を営み地元の子供たちに指導を始めました。
しかし「破壊王」の噂を聞いた腕に覚えのあるものたちが、彼に安息のときを与えませんでした。
道場には何度も道場破りのような挑戦者が訪れ、彼らはすべて「破壊王」の拳で病院送りになったそうです。
あまりにそのようなことが多いため、生徒の子供たちが怯えるので、ベビスは道場を閉めました。
それでもベビスへの挑戦者は尽きませんでした。
ある日、オランダ人のキックボクサーが破壊王の噂を聞きつけやってきました。
ベビスは挑戦を断っていたのですが、オランダ人キックボクサーはストリートファイトを仕掛けたそうです。
街中で襲われたベビスはさすがに本気で応戦しました。
そして、オランダ人は全身数か所の骨折を負い、格闘家生命を絶たれたそうです。
「それからその破壊王はどうしているのですか?」
「ええ、オランダ人の一件は正当防衛ですし、相手も格闘家だったのでお咎め無しだったようですが、やはり地元にも居づらくなったようで」
「それはそうでしょうねえ」
「それで軍隊に入隊したらしいです。もはや破壊王の血に飢えた拳を満足させるのは戦場しかなかったのかもしれません」
破壊王、転じてソルジャーか。
なんだかベビスという人が、悲しい人のように思えてきました。
「そのベビスという人は今いくつくらいの方ですか?」
「さあ、おそらくもう50歳は超えていると思いますが、噂では今でも鬼神のごとき強さだそうですよ」
スリランカ空手界の禁忌、破壊王か・・・すごい伝説の持ち主が居たものです。
監督さんが私に言いました。
「トミー先生もスリランカで空手のデモンストレーションの旅をつづけていたら、もしかしたら破壊王に出会うかもしれません」
「そんなことありますかねえ?」
「可能性はあります。でもトミー先生、間違っても破壊王に挑戦しようなどと考えない方がいいですよ」
・・・ご心配なく。そんなこと露ほども考えませんから。
だいたいそんな破壊王なんてバケモノみたいな奴、私ではなくニコラ向けでしょう。
「そういえば3か月ほど前に、コロンボからウチに『破壊王を知らないか』と尋ねてきた人がいましたよ」
「へえ、そうなんですか。今でもそういう人居るんですね」
「はい、なんかとんでもなく長身のフランス人でした」
ニコラ、あいつやっぱり来てたのか!
その対戦が実現してたら面白かったろうなあ・・・
超人ニコラ VS 破壊王ベビスか。なんか「ゴジラ対ガメラ」みたいな対戦だ。
見たかったなあ・・・などとこのときは呑気に考えておりました。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる