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空手バックパッカー VS 大学空手部

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**協会の息がかかっている大学の部活に参加しても、あまり宣伝効果は見込めないかもしれませんが、地元の空手界とのコネを持っておくのは後々の役に立つかもしれないと考え、私は翌日**大学の稽古に参加しました。

大学の正門前で昨日の黒帯君が出迎えてくれて、道場に案内されます。

一流大学の武道場ですので、なかなか広くきれいな道場です。

マット敷きのコートの半分で柔道部が練習していて、残り半分が空手部のようです。

空手着を着て道場に入ると、練習中の学生たちが一斉に直立してこちらに礼をします。

さすがに礼儀作法をよく仕込まれています。

私は黒帯君から、空手部の監督を紹介されました。

スリランカ人の監督は歳は30代前半くらいの方で、やせ型ですがよく鍛えられた体の持ち主です。

精悍な顔立ちはいかにも武道家といった雰囲気を持っています。

「私が当大学空手部の監督をしております**です。このたびはよくお越しくださいました」

監督さんの名前はちゃんと聞いたのですが、すぐに忘れてしまいました。

スリランカ人の名前はたいへん覚えにくいので、いつも私は適当なニックネームで覚えていたのですが、彼のことは単に「監督」と覚えました。

「押忍、私は日本空手道中空会のトミーといいます。このたびは稽古にお邪魔させていただき恐縮です」

「・・・チュウクウカイ?ですか。いや、こちらこそよろしくお願いします」

監督さんが今、何を思ったかは顔に書いてます。

・・・聞いたことのない会派だな・・・でしょう。まあ当然です。

日本の空手界でもまったく無名ですから。

「今日はこちらの大学の稽古を見学させていただきます。勉強させてください」

「ええ、ウチの稽古でお気づきのことがありましたら、ぜひご指導ねがいます」

「押忍、では拝見させていただきます」

日本でもそうですが、部活の稽古というのは一般的な町道場の稽古とは少々趣が異なります。

たとえば中空会のように、準備運動、基本、移動、型、約束組手、自由組手とルーティンワーク的に進むのではありません。

平たくいうなら、部活の稽古はルールに即した試合に勝つための稽古。

組手が得意な選手は、組手の構えからの打ち込み稽古やミット打ちなどをひらすら繰り返します。

型の選手はひたすら型を打つ。

そしてとてもハードトレーニングです。

私が一度として体験したことがないほどキツい稽古を黙々とこなす学生たち。

もちろん私などがアドバイスできるようなことはひとつもありません。

このスリランカという国にはすでに、こういうちゃんとした空手が根付いている。

ここにきて、私のようなインチキ空手家がインチキな空手を普及させようなんて、これって空手道に対する大変な冒涜なんじゃなかろうか?

常に頭の片隅にあったそんな思いが大きく膨れ上がりますが、無理やり鎮めます。

カッサバ先生も言っていた。私は私の先生の言いつけでここに来た。

それは守らなければならない。

ことの善悪はともかく、その使命を果たすのは私の責務なのだ。

「トミー先生、ウチの稽古はいかがですか?」

監督さんに声を掛けられました。

「いや、素晴らしいです。感服いたしました」

「ああそれはありがとうございます。せっかくですので何かアドバイスいただけましたら」

「いえ、私ごときが口を出すことは何もありません。勉強させていただきました」

監督さんは「ふーむ」と少し考えて言いました。

「せっかく日本の先生にお越しいただいたのですから、ぜひウチの部員たちに一手ご教示願えませんかね?」

・・・やはりそう来たか。しかし彼らと組手するわけにはいかない。

中川先生もカッサバ先生も言っていた通り、それだけはなんとしても避けなきゃダメだ。

「ではまず一言述べさせていただきます。稽古を拝見させていただいて感じたことは、こちらの稽古は試合に勝つための稽古です。これはたいへん結構なことです」

私はまずは得意技の『口車』を使うことにしました。

「しかし、日本の空手にはもうひとつ、伝統武術としての側面があります。試合のための技ではありません。いにしえの名人・達人が絶体絶命というときのみ使用したという秘技がございます」

私の口車の効果はなかなかのもので、監督も部員たちも興味深そうに聞き入っております。

「本来は門外不出の技なのですが、本日は皆さんの素晴らしい稽古を拝見させていただきましたので、お礼と言ってはなんですが、特別にその秘技の一手を披露させていただきたいと思います」

・・・オオッ!と道場内にどよめきが広まりました。

「日本の空手に古来より伝わる伝説の秘技・・・」

私はせいいっぱい勿体をつけて語ります。

「三角飛びをご覧にいれます」
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