60 / 115
空手バックパッカーの休暇
しおりを挟む
モンキー流との会談から2か月も過ぎたころ。
私は多忙な日々を過ごしていました。
日中はデモンストレーションの仕込み、デワの空手書庫から新ネタの研究。
道場生は順調に増えていましたので、リストを作り中川先生にFAXしたり、本部登録料や月会費を振り込むなどの事務作業。そろそろ昇級審査も準備しなければなりません。
午後の明るいうちに公園や人の集まる広場などでデモンストレーションして道場のカードを配る。
夜は道場での指導など。
仕事はホテルの道場だけではありません。
友好道場であるモンキー流や、ニコラの**会コロンボ支部での合同稽古。
ときにはカッサバ先生のところにも顔を出さねばなりません。
彼らとの交流のおかげで、ここのところは他流派とのトラブルもなく、平和な道場運営ができているのです。
この世界も義理は欠かすことができません。
しかし・・・
本来はこれらの仕事は、もうそろそろデワに引き継いでもらわなければならないのです。
これじゃいつまでたっても私は日本に戻れません。
「というわけで、そろそろ僕も日本に戻りたいんだよ。指導もやってもらいたいんだけど、そっちはバトウ先生に任せるとしても、まずは事務作業はぜんぶデワがやってくれなきゃ」
「センパイ、それはもちろんやりたいんですけどね、中川先生がまだしばらくはセンパイにやらせろって言ってるんですよ」
・・・初めて聞きました。
「先生が?どうして?」
「知りませんよ。先生、もしかしたら僕を信用してないのかなあ?登録料ごまかすとか思ってたりして」
・・・ああ、それはあり得るかも。たしかにデワも金持ちの癖にカネに汚いとこあるし、中川先生わりとそういうとこ敏感だし。
「でもねえ、僕もそろそろビザが切れるんだよ。こんなに長くなるとは思ってなかったから、更新手続きサボってたし」
「ビザは僕が手をまわしてなんとかしますよ。それにセンパイはまだ帰れませんよ。だってまだノルマをクリアしてないもん」
・・・そうだった。自分で決めたノルマは道場生50人。友好道場からの出稽古生は含めません。
達成まであと10名ほどですが、これをクリアしなければ帰れません。
「センパイ、ちょっと疲れてるんじゃないかなあ?少し休暇を取ったらどうです?」
「休暇?」
「せっかくスリランカに来たのに、ずっとコロンボで仕事してるだけじゃ勿体ない。スリランカはアジア有数の観光立国なんですよ。休暇取って旅行してみては」
「観光立国のわりに観光客少ないけどねえ。まあ戦争のせいだけど」
・・・歴史ある遺跡群と、美しいビーチリゾートを持ちながら、内戦のせいで観光客はめっきり減っています。
「センパイの旅行中に僕がセンパイの仕事を代わっても、中川先生は文句言わないでしょ。ね、そうしましょうよ」
「でも、それじゃデモンストレーションとかできないから、生徒増えないじゃん」
「いやいや、そこなんですけどね」
・・・デワが含みのある笑みを顔に浮かべました。
「スリランカは日本ほど人口が一極集中していないんです。コロンボは旧首都で経済の中心だけど、みんながここに住んでいるわけじゃなくて、地方から働きに出て来る人が多いんですよ」
「・・つまり?」
「つまりですね、センパイが地方を旅行して空手を見せて、ウチの道場のカードを配れば、彼らがコロンボに出てきたときに入門してくれる可能性があるんです」
・・・言わんとすることはわかりましたが。
「つまり僕に旅行しながら地方でデモンストレーションをやれと?しかしそれはあまり効率よくないんじゃないか?」
「短期的に見ればそうですけどね、彼らはいずれ地元に帰る人たちです。将来的に中空会の道場をスリランカ全土に作る布石になりますよ」
この男、デワはコロンボ支部長の仕事も碌にしないくせに、そんなロングスパンな計画を持っていたとは。
しかし・・・
「デワ、聞くけどさ。それのどこが休暇なんだよ!結局僕にドサ回りをやれってことだろ!」
私は多忙な日々を過ごしていました。
日中はデモンストレーションの仕込み、デワの空手書庫から新ネタの研究。
道場生は順調に増えていましたので、リストを作り中川先生にFAXしたり、本部登録料や月会費を振り込むなどの事務作業。そろそろ昇級審査も準備しなければなりません。
午後の明るいうちに公園や人の集まる広場などでデモンストレーションして道場のカードを配る。
夜は道場での指導など。
仕事はホテルの道場だけではありません。
友好道場であるモンキー流や、ニコラの**会コロンボ支部での合同稽古。
ときにはカッサバ先生のところにも顔を出さねばなりません。
彼らとの交流のおかげで、ここのところは他流派とのトラブルもなく、平和な道場運営ができているのです。
この世界も義理は欠かすことができません。
しかし・・・
本来はこれらの仕事は、もうそろそろデワに引き継いでもらわなければならないのです。
これじゃいつまでたっても私は日本に戻れません。
「というわけで、そろそろ僕も日本に戻りたいんだよ。指導もやってもらいたいんだけど、そっちはバトウ先生に任せるとしても、まずは事務作業はぜんぶデワがやってくれなきゃ」
「センパイ、それはもちろんやりたいんですけどね、中川先生がまだしばらくはセンパイにやらせろって言ってるんですよ」
・・・初めて聞きました。
「先生が?どうして?」
「知りませんよ。先生、もしかしたら僕を信用してないのかなあ?登録料ごまかすとか思ってたりして」
・・・ああ、それはあり得るかも。たしかにデワも金持ちの癖にカネに汚いとこあるし、中川先生わりとそういうとこ敏感だし。
「でもねえ、僕もそろそろビザが切れるんだよ。こんなに長くなるとは思ってなかったから、更新手続きサボってたし」
「ビザは僕が手をまわしてなんとかしますよ。それにセンパイはまだ帰れませんよ。だってまだノルマをクリアしてないもん」
・・・そうだった。自分で決めたノルマは道場生50人。友好道場からの出稽古生は含めません。
達成まであと10名ほどですが、これをクリアしなければ帰れません。
「センパイ、ちょっと疲れてるんじゃないかなあ?少し休暇を取ったらどうです?」
「休暇?」
「せっかくスリランカに来たのに、ずっとコロンボで仕事してるだけじゃ勿体ない。スリランカはアジア有数の観光立国なんですよ。休暇取って旅行してみては」
「観光立国のわりに観光客少ないけどねえ。まあ戦争のせいだけど」
・・・歴史ある遺跡群と、美しいビーチリゾートを持ちながら、内戦のせいで観光客はめっきり減っています。
「センパイの旅行中に僕がセンパイの仕事を代わっても、中川先生は文句言わないでしょ。ね、そうしましょうよ」
「でも、それじゃデモンストレーションとかできないから、生徒増えないじゃん」
「いやいや、そこなんですけどね」
・・・デワが含みのある笑みを顔に浮かべました。
「スリランカは日本ほど人口が一極集中していないんです。コロンボは旧首都で経済の中心だけど、みんながここに住んでいるわけじゃなくて、地方から働きに出て来る人が多いんですよ」
「・・つまり?」
「つまりですね、センパイが地方を旅行して空手を見せて、ウチの道場のカードを配れば、彼らがコロンボに出てきたときに入門してくれる可能性があるんです」
・・・言わんとすることはわかりましたが。
「つまり僕に旅行しながら地方でデモンストレーションをやれと?しかしそれはあまり効率よくないんじゃないか?」
「短期的に見ればそうですけどね、彼らはいずれ地元に帰る人たちです。将来的に中空会の道場をスリランカ全土に作る布石になりますよ」
この男、デワはコロンボ支部長の仕事も碌にしないくせに、そんなロングスパンな計画を持っていたとは。
しかし・・・
「デワ、聞くけどさ。それのどこが休暇なんだよ!結局僕にドサ回りをやれってことだろ!」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる