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空手バックパッカーの休暇
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モンキー流との会談から2か月も過ぎたころ。
私は多忙な日々を過ごしていました。
日中はデモンストレーションの仕込み、デワの空手書庫から新ネタの研究。
道場生は順調に増えていましたので、リストを作り中川先生にFAXしたり、本部登録料や月会費を振り込むなどの事務作業。そろそろ昇級審査も準備しなければなりません。
午後の明るいうちに公園や人の集まる広場などでデモンストレーションして道場のカードを配る。
夜は道場での指導など。
仕事はホテルの道場だけではありません。
友好道場であるモンキー流や、ニコラの**会コロンボ支部での合同稽古。
ときにはカッサバ先生のところにも顔を出さねばなりません。
彼らとの交流のおかげで、ここのところは他流派とのトラブルもなく、平和な道場運営ができているのです。
この世界も義理は欠かすことができません。
しかし・・・
本来はこれらの仕事は、もうそろそろデワに引き継いでもらわなければならないのです。
これじゃいつまでたっても私は日本に戻れません。
「というわけで、そろそろ僕も日本に戻りたいんだよ。指導もやってもらいたいんだけど、そっちはバトウ先生に任せるとしても、まずは事務作業はぜんぶデワがやってくれなきゃ」
「センパイ、それはもちろんやりたいんですけどね、中川先生がまだしばらくはセンパイにやらせろって言ってるんですよ」
・・・初めて聞きました。
「先生が?どうして?」
「知りませんよ。先生、もしかしたら僕を信用してないのかなあ?登録料ごまかすとか思ってたりして」
・・・ああ、それはあり得るかも。たしかにデワも金持ちの癖にカネに汚いとこあるし、中川先生わりとそういうとこ敏感だし。
「でもねえ、僕もそろそろビザが切れるんだよ。こんなに長くなるとは思ってなかったから、更新手続きサボってたし」
「ビザは僕が手をまわしてなんとかしますよ。それにセンパイはまだ帰れませんよ。だってまだノルマをクリアしてないもん」
・・・そうだった。自分で決めたノルマは道場生50人。友好道場からの出稽古生は含めません。
達成まであと10名ほどですが、これをクリアしなければ帰れません。
「センパイ、ちょっと疲れてるんじゃないかなあ?少し休暇を取ったらどうです?」
「休暇?」
「せっかくスリランカに来たのに、ずっとコロンボで仕事してるだけじゃ勿体ない。スリランカはアジア有数の観光立国なんですよ。休暇取って旅行してみては」
「観光立国のわりに観光客少ないけどねえ。まあ戦争のせいだけど」
・・・歴史ある遺跡群と、美しいビーチリゾートを持ちながら、内戦のせいで観光客はめっきり減っています。
「センパイの旅行中に僕がセンパイの仕事を代わっても、中川先生は文句言わないでしょ。ね、そうしましょうよ」
「でも、それじゃデモンストレーションとかできないから、生徒増えないじゃん」
「いやいや、そこなんですけどね」
・・・デワが含みのある笑みを顔に浮かべました。
「スリランカは日本ほど人口が一極集中していないんです。コロンボは旧首都で経済の中心だけど、みんながここに住んでいるわけじゃなくて、地方から働きに出て来る人が多いんですよ」
「・・つまり?」
「つまりですね、センパイが地方を旅行して空手を見せて、ウチの道場のカードを配れば、彼らがコロンボに出てきたときに入門してくれる可能性があるんです」
・・・言わんとすることはわかりましたが。
「つまり僕に旅行しながら地方でデモンストレーションをやれと?しかしそれはあまり効率よくないんじゃないか?」
「短期的に見ればそうですけどね、彼らはいずれ地元に帰る人たちです。将来的に中空会の道場をスリランカ全土に作る布石になりますよ」
この男、デワはコロンボ支部長の仕事も碌にしないくせに、そんなロングスパンな計画を持っていたとは。
しかし・・・
「デワ、聞くけどさ。それのどこが休暇なんだよ!結局僕にドサ回りをやれってことだろ!」
私は多忙な日々を過ごしていました。
日中はデモンストレーションの仕込み、デワの空手書庫から新ネタの研究。
道場生は順調に増えていましたので、リストを作り中川先生にFAXしたり、本部登録料や月会費を振り込むなどの事務作業。そろそろ昇級審査も準備しなければなりません。
午後の明るいうちに公園や人の集まる広場などでデモンストレーションして道場のカードを配る。
夜は道場での指導など。
仕事はホテルの道場だけではありません。
友好道場であるモンキー流や、ニコラの**会コロンボ支部での合同稽古。
ときにはカッサバ先生のところにも顔を出さねばなりません。
彼らとの交流のおかげで、ここのところは他流派とのトラブルもなく、平和な道場運営ができているのです。
この世界も義理は欠かすことができません。
しかし・・・
本来はこれらの仕事は、もうそろそろデワに引き継いでもらわなければならないのです。
これじゃいつまでたっても私は日本に戻れません。
「というわけで、そろそろ僕も日本に戻りたいんだよ。指導もやってもらいたいんだけど、そっちはバトウ先生に任せるとしても、まずは事務作業はぜんぶデワがやってくれなきゃ」
「センパイ、それはもちろんやりたいんですけどね、中川先生がまだしばらくはセンパイにやらせろって言ってるんですよ」
・・・初めて聞きました。
「先生が?どうして?」
「知りませんよ。先生、もしかしたら僕を信用してないのかなあ?登録料ごまかすとか思ってたりして」
・・・ああ、それはあり得るかも。たしかにデワも金持ちの癖にカネに汚いとこあるし、中川先生わりとそういうとこ敏感だし。
「でもねえ、僕もそろそろビザが切れるんだよ。こんなに長くなるとは思ってなかったから、更新手続きサボってたし」
「ビザは僕が手をまわしてなんとかしますよ。それにセンパイはまだ帰れませんよ。だってまだノルマをクリアしてないもん」
・・・そうだった。自分で決めたノルマは道場生50人。友好道場からの出稽古生は含めません。
達成まであと10名ほどですが、これをクリアしなければ帰れません。
「センパイ、ちょっと疲れてるんじゃないかなあ?少し休暇を取ったらどうです?」
「休暇?」
「せっかくスリランカに来たのに、ずっとコロンボで仕事してるだけじゃ勿体ない。スリランカはアジア有数の観光立国なんですよ。休暇取って旅行してみては」
「観光立国のわりに観光客少ないけどねえ。まあ戦争のせいだけど」
・・・歴史ある遺跡群と、美しいビーチリゾートを持ちながら、内戦のせいで観光客はめっきり減っています。
「センパイの旅行中に僕がセンパイの仕事を代わっても、中川先生は文句言わないでしょ。ね、そうしましょうよ」
「でも、それじゃデモンストレーションとかできないから、生徒増えないじゃん」
「いやいや、そこなんですけどね」
・・・デワが含みのある笑みを顔に浮かべました。
「スリランカは日本ほど人口が一極集中していないんです。コロンボは旧首都で経済の中心だけど、みんながここに住んでいるわけじゃなくて、地方から働きに出て来る人が多いんですよ」
「・・つまり?」
「つまりですね、センパイが地方を旅行して空手を見せて、ウチの道場のカードを配れば、彼らがコロンボに出てきたときに入門してくれる可能性があるんです」
・・・言わんとすることはわかりましたが。
「つまり僕に旅行しながら地方でデモンストレーションをやれと?しかしそれはあまり効率よくないんじゃないか?」
「短期的に見ればそうですけどね、彼らはいずれ地元に帰る人たちです。将来的に中空会の道場をスリランカ全土に作る布石になりますよ」
この男、デワはコロンボ支部長の仕事も碌にしないくせに、そんなロングスパンな計画を持っていたとは。
しかし・・・
「デワ、聞くけどさ。それのどこが休暇なんだよ!結局僕にドサ回りをやれってことだろ!」
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