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戦い終わって・・・

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この場にいる誰もが、床にひっくり返っていました。
スイカの破片と汁にまみれて。
第三者が見たら異様な光景だったでしょう。
短い時間とはいえ、私もニコラも・・・デワやボウイでさえ体力を消耗し切っていました。

「はあはあ・・・くそお・・お前ら本当にムチャクチャしやがる」

仰向けに寝転がったままのニコラがようやく口を開きます。

「オレは色んな空手家と勝負したけどな、スイカの皮を武器に使う奴は初めてだぜ。お前本当に空手家なのか?」

・・・いえ単なる大道芸人なんですが・・・まあこれは言わない。

「空手ってのは空っぽの手だから、武器はなにを持ってもいいんじゃないの?それにお前は道場破りなんだから少々のことは覚悟の上だろ?」私も寝転がったまま答えます。

「まあ、そう言っちゃそうだがよ。お前、しかしこれでいいのか?オレはまだ動けるぜ。さっきは負けを認めたけど道場を出たらなんと言うかわからんだろ?」

ニコラが言う意味はわかります。

武道の世界には『道場破りは戸板に乗せて帰せ』という格言がある。
ようするに五体満足では帰すなという意味。
古来より道場破りは門下生が総がかりしてでも足腰立たなくして帰す。それをしなければ例え道場破りを打ち負かしたとしてもあとで何を言われるか分からないからです。
・・・しかし、甘いかもしれませんが私はそこまでやる気はありませんでした。

「まあ、あんまり誉められた勝ち方じゃないからね。別に痛み分けでもいいんだ。こっちとしては」

「ああ、そうともよ。第一オレはトミーに負けたわけじゃねえ。総がかりでやられたんだ。第二に空手で負けたわけじゃねえ。こんなの空手じゃねえよ・・・・しかし・・・・負けは負けだ!」

そこまで言うとニコラは身体を起こして正座しました。

「トミーよ。オレは道場破りをして負けた。これはいさぎよく認める。その上で頼みがあるんだ」

ニコラが座っているので、私も座らなければならない。疲れてるんだけど。

なんだよ・・・急にあらたまってさ」

「いやね・・オレもほら、このコロンボで一応道場で指導する立場なんだ。だから今日の勝負のことはあまりおおっぴらになるとマズイんだよ。だから今日のことはこの場で収めてもらえねえか?でないと今度はお前を公の場に引きずり出してでも勝負つけなきゃなんない。それはお前ものぞまんだろ?」

もちろん望みません。こんなバケモンと二度とやりたくない。

「ニコラが今後、うちの道場にちょっかい掛けないってんなら、こっちはそれでいいよ」

「わかった。約束するぜ。感謝する」

あとでよくよく考えてみれば、ニコラはこんなに素直に負けを認める必要も無かったし、再度勝負すれば私に勝つことなど簡単だったでしょう。こいつは意外と律儀な男のようです。

「ニコラ。じゃあ、これで手打ちということで今後はお互いの道場で友好関係を結ばないか?」

「ああ、トミーがそれでいいってんなら、そうしよう」

「よし決まった。じゃあ、手打ちを祝ってメシでも食いに行こうぜ」

「あ、メシだ・・・?お前わりと元気だなあ。。」

「ニコラは酒か?アラックでも飲むか?」

アラックと聞いて・・・ニコラの顔がピクリと反応しました。どうやらいける口のようです。

「デワ!ここのレストランにアラックは置いてあるか?」

「センパイ。置いてあるなんてもんじゃないぜ。ウチには秘蔵のビンテージ・アラックがあるよ」

「なんだよ、そのビンテージ・アラックてのは」

それを聞いてニコラがたずねます。

デワも座りなおして、得意げに語ります。

「そこらの酒屋で売っているアラックはヤシ酒を蒸留した焼酎だ。ウチのビンテージ・アラックはそいつを20年以上も寝かしたブランデーみたいなものさ。製法は秘中の秘でね。ウチの酒蔵には大戦前のビンテージもある。それはもう、舌がとろけるくらいまろやかで芳醇で・・・」

「よし決まった。デワ、その大戦前のビンテージを開けろ」

「ちょ、ちょっと待ってセンパイ。そいつは家宝みたいなもんだぜ。売りに出せばいくら値がつくと思ってんだよ!」

「バカ野朗デワ!それだけ自慢されて20年やそこらのモノで満足するかよ。なあニコラ?」

「ああもちろんだ。デワ先生よ、せっかくの友好の杯をかわすのにケチるもんじゃねえぜ」

ニコラが鋭い目でデワを睨むので、デワはやや怯んでいます。

「ああ・・まいったなあ。。。親父が大切にしている酒なんだよなあ。。。怒られるだろうなあ」

「よし決まった!ボウイ、雑巾を持ってきてここの後片付けをしろ。デワは酒と料理の手配だ。ニコラ、よかったらシャワーで汗を流してくれ。それからレストランで乾杯だ」
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