49 / 115
最終決戦!空手バックパッカー VS 超人ニコラ
しおりを挟む
ニコラは口の端を吊り上げるように笑みを浮かべました。
「やっとやる気になったか。まあ心配するな、すぐに終わるからよ・・痛くないように眠らせてやる」
言うと長い足を前後に伸ばすように広いスタンスで構えます。
ニコラが構えると同時に私は飛びのくようにして距離をとります。
ニコラの足先から床の格子模様14マス。
カッサバ先生の理論なら、この間合いをキープしている限りニコラが踏み込んでの突きでも蹴りでもギリギリ当たらないはずです。
「おいおい、オレはまだ何もしてないぜ・・・そうビビるなよ」
ニコラはまったく余裕の態度です。
もっとも彼ほどの実力者なら、私の構えを見ただけでも私の実力が恐れるに足りないことくらいは見抜いたでしょう。
・・・くそっ。一泡吹かしてやる・・・
私は身の程知らずにもそう考えました。いつもの私ならもっとビビってしまうところなのですが、このときは不思議なことに、全仏三位のニコラ相手に倒すつもりになっていました。
・・・この床の上なら・・・勝てる!
ニコラの顔が急に真剣になります。
スッと一歩踏み込むと同時に後ろ足を引き寄せます。送り足からの蹴りが来る!
とっさに私は飛びのきます。あと7マス分下がらなければ当たる。
ニコラの信じられないスピードの左の蹴りが私の腹部を狙ってきました。
蹴りの伸びきる瞬間に軸足を返して蹴り足を突っ込んできます。
・・・当たるか?!・・・
しかしニコラの足は本当に紙一重で私の腹部に届きませんでした。
私はその蹴り足を下段払いで浮け流すと同時に蹴りの外側に逃げます。
ニコラはやや体勢を崩しました。
本来なら、このように蹴り足が流れて相手がバランスを崩したなら、思い切って飛び込むのがセオリーなのですが・・・出来ません。
ニコラの足が長いため、飛び込むには距離が遠すぎるのです。
無理に飛び込んでも、その間にニコラは体勢を立て直し私は秒殺されるでしょう。
私はなにしろ、こういう身体の大きな外国人と組手するのは初めてでした。
こんなに間合いが違うものなのか・・・しかも相手は自分よりはるかに格上です。
それでも・・・私はまだ倒れていません。
最初の一撃をはずしバランスを崩させたので、ニコラも連撃を打つことが出来ないでいる。
私はニコラの背後に回るように動きましたので、ニコラがあわててこちらに向き直ります。
信じられないことに、ここまでは私のペースだ。全仏三位を相手に!
信じられないのはニコラも同様だったようです。
あれだけのスピードの蹴りをかわされるとは思わなかったでしょう。
おまけに連打を封じられるなどとは・・・ニコラは構えなおしながら少し首をかしげました。
しかし私にとってはここからが本当のピンチです。
ニコラは今の一瞬の攻防で私に対する油断を解きました。
ここからは本気になる。私は再び14マスの間合いを取ります。
この間合いをキープしている限り、ニコラの技は私には当たらない!
ニコラは今度は慎重に足を使って動きます。
私は彼の動きに合わせて、間合いが詰まらないように動く。
が、つぎの瞬間・・・ニコラが勢い良く踏み込んで来ました。
私は下がらずに回りこむつもりで足を使う。下がらなくてもギリギリ当たらない読みがあったからです。
が、しかし・・・ニコラの踏み込みは真っ直ぐではなく、円を描くように足を送りました。
さらに左右の足を素早く踏みかえる。一瞬にして距離が詰まっています。
全仏の三位というのを私はナメていました。
・・・あ!
次の瞬間・・・ぱっとフラッシュが光ったように目の前が急に白くなったかと思うと、すぐに真っ暗になる。
・・・いかん・・目を見張れ・・・一瞬の後、闇が晴れて見えたものは、道場の天井でした。
どうやら私はニコラの上段回し蹴りをモロに貰ったようです。
いわゆる「落ちた」状態です。朽木倒しのように仰向けにバタンと倒れたのでしょう。
私は必死で意識を戻しました。
見るとニコラは腕組みをして突っ立ったまま、上から私を見下ろしていました。
「うわあーっ!」
私は悲鳴だか気合だか分からない声を上げて、床をゴロゴロと転がりニコラから離れます。
そし床に手を着いて立ち上がろうとする。
足が言うことを聞きません。膝関節が抜けたように力が入らない。
しかし、とにかく立たねば。
「おい、もう終わったんだぜ。お前も思ったより頑張ったがオレの相手じゃねえ。一本だ」
そんな私を見てニコラが言いました。
・・・ダメだ。そういうわけにはいかない。カッサバ先生の言うとおり、負けを認めなければ負けじゃない。これは試合じゃないんだから。
全身の気合を足に込めて、私は無理に立ち上がりました。
膝がガクガクしていますがとにかく立った。
「ニコラ、まだだ。僕はまだ負けてないぞ。これは試合じゃないんだから審判はいない。一本なんてないんだ」
ニコラが呆れ顔で言います。
「お前、気は確かか?そんなこと言ったらオレは今度はお前を倒した後にトドメを刺さなきゃならんぞ。お前それでもいいのか?」
私はもともとインチキ空手大道芸人です。
自分を追い込むほどの稽古をしたこともない、根性無しです。
それが本格的なトップレベルの選手相手に戦うこと事態、無謀なのですが、私は生まれて初めて思いました。
・・・絶対負けない・・・こいつに勝つ!
「やっとやる気になったか。まあ心配するな、すぐに終わるからよ・・痛くないように眠らせてやる」
言うと長い足を前後に伸ばすように広いスタンスで構えます。
ニコラが構えると同時に私は飛びのくようにして距離をとります。
ニコラの足先から床の格子模様14マス。
カッサバ先生の理論なら、この間合いをキープしている限りニコラが踏み込んでの突きでも蹴りでもギリギリ当たらないはずです。
「おいおい、オレはまだ何もしてないぜ・・・そうビビるなよ」
ニコラはまったく余裕の態度です。
もっとも彼ほどの実力者なら、私の構えを見ただけでも私の実力が恐れるに足りないことくらいは見抜いたでしょう。
・・・くそっ。一泡吹かしてやる・・・
私は身の程知らずにもそう考えました。いつもの私ならもっとビビってしまうところなのですが、このときは不思議なことに、全仏三位のニコラ相手に倒すつもりになっていました。
・・・この床の上なら・・・勝てる!
ニコラの顔が急に真剣になります。
スッと一歩踏み込むと同時に後ろ足を引き寄せます。送り足からの蹴りが来る!
とっさに私は飛びのきます。あと7マス分下がらなければ当たる。
ニコラの信じられないスピードの左の蹴りが私の腹部を狙ってきました。
蹴りの伸びきる瞬間に軸足を返して蹴り足を突っ込んできます。
・・・当たるか?!・・・
しかしニコラの足は本当に紙一重で私の腹部に届きませんでした。
私はその蹴り足を下段払いで浮け流すと同時に蹴りの外側に逃げます。
ニコラはやや体勢を崩しました。
本来なら、このように蹴り足が流れて相手がバランスを崩したなら、思い切って飛び込むのがセオリーなのですが・・・出来ません。
ニコラの足が長いため、飛び込むには距離が遠すぎるのです。
無理に飛び込んでも、その間にニコラは体勢を立て直し私は秒殺されるでしょう。
私はなにしろ、こういう身体の大きな外国人と組手するのは初めてでした。
こんなに間合いが違うものなのか・・・しかも相手は自分よりはるかに格上です。
それでも・・・私はまだ倒れていません。
最初の一撃をはずしバランスを崩させたので、ニコラも連撃を打つことが出来ないでいる。
私はニコラの背後に回るように動きましたので、ニコラがあわててこちらに向き直ります。
信じられないことに、ここまでは私のペースだ。全仏三位を相手に!
信じられないのはニコラも同様だったようです。
あれだけのスピードの蹴りをかわされるとは思わなかったでしょう。
おまけに連打を封じられるなどとは・・・ニコラは構えなおしながら少し首をかしげました。
しかし私にとってはここからが本当のピンチです。
ニコラは今の一瞬の攻防で私に対する油断を解きました。
ここからは本気になる。私は再び14マスの間合いを取ります。
この間合いをキープしている限り、ニコラの技は私には当たらない!
ニコラは今度は慎重に足を使って動きます。
私は彼の動きに合わせて、間合いが詰まらないように動く。
が、つぎの瞬間・・・ニコラが勢い良く踏み込んで来ました。
私は下がらずに回りこむつもりで足を使う。下がらなくてもギリギリ当たらない読みがあったからです。
が、しかし・・・ニコラの踏み込みは真っ直ぐではなく、円を描くように足を送りました。
さらに左右の足を素早く踏みかえる。一瞬にして距離が詰まっています。
全仏の三位というのを私はナメていました。
・・・あ!
次の瞬間・・・ぱっとフラッシュが光ったように目の前が急に白くなったかと思うと、すぐに真っ暗になる。
・・・いかん・・目を見張れ・・・一瞬の後、闇が晴れて見えたものは、道場の天井でした。
どうやら私はニコラの上段回し蹴りをモロに貰ったようです。
いわゆる「落ちた」状態です。朽木倒しのように仰向けにバタンと倒れたのでしょう。
私は必死で意識を戻しました。
見るとニコラは腕組みをして突っ立ったまま、上から私を見下ろしていました。
「うわあーっ!」
私は悲鳴だか気合だか分からない声を上げて、床をゴロゴロと転がりニコラから離れます。
そし床に手を着いて立ち上がろうとする。
足が言うことを聞きません。膝関節が抜けたように力が入らない。
しかし、とにかく立たねば。
「おい、もう終わったんだぜ。お前も思ったより頑張ったがオレの相手じゃねえ。一本だ」
そんな私を見てニコラが言いました。
・・・ダメだ。そういうわけにはいかない。カッサバ先生の言うとおり、負けを認めなければ負けじゃない。これは試合じゃないんだから。
全身の気合を足に込めて、私は無理に立ち上がりました。
膝がガクガクしていますがとにかく立った。
「ニコラ、まだだ。僕はまだ負けてないぞ。これは試合じゃないんだから審判はいない。一本なんてないんだ」
ニコラが呆れ顔で言います。
「お前、気は確かか?そんなこと言ったらオレは今度はお前を倒した後にトドメを刺さなきゃならんぞ。お前それでもいいのか?」
私はもともとインチキ空手大道芸人です。
自分を追い込むほどの稽古をしたこともない、根性無しです。
それが本格的なトップレベルの選手相手に戦うこと事態、無謀なのですが、私は生まれて初めて思いました。
・・・絶対負けない・・・こいつに勝つ!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる