空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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デモンストレーション成功・・・しかし

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「センパイ!どうした?準備はできてるぜ」

私はフランス空手野朗がギャラリーに混じっている事で、若干の動揺があるのですがデワには分からないことです。

「・・・おっす、わかった。じゃあ始めようか」

私は極力平静を装いますが、やはり気になる。
フランス空手野朗の目には、私のインチキ空手大道芸はどう映っているのでしょう。
が、とにかく。
私は仕事をやらねばなりません。

打ち合わせどおり・・・デワとボウイは頭にスイカ(ナイフで目鼻口を彫りこみ割れやすくしたもの)を乗せて手で支えながら、3mほどの間隔を置いて向かい合わせに立っています。
両手の拳をぎゅっと握り締め、腰をやや落として構えます。

「えいさー!」と私が気合を入れると「セイヤー!」と2人が応える・・・これも打ち合わせどおり。

向かって右側に立っているボウイに向かってすり足で前進すると同時に、握った拳を開いて手刀の形にして両手を広げます。右足を一歩踏み込んで、両手を振り回すように左回りに回転する。
・・・実際に回転系の技で戦うのなら、このように大きな予備動作はやっちゃいけないんですけど、デモンストレーションでやる場合、できるだけ動作を大きく見せた方が派手に見えます。
これはカンフー映画から学んだフォームです。

私の左後廻し蹴りがスイカにヒットすると、バンと破裂するように割れて赤い果肉が飛び散ります。
どっとした観衆どよめきに小さな悲鳴のような声が混じって聞こえます。
彼らの目には人間の頭部が破壊され、脳漿が飛び散る残酷なイメージが浮かんだかもしれません。

私は蹴った足を下ろすと同時に、今度は向かって左側に立つデワのほうに右足を踏み込む。
大きく手を振り回しながら回転し、左足を上げて反動をつけてから右の飛びまわし蹴り。
デワの頭上のスイカも見事に割れました。

うわわわわあああ・・・・っと歓声が巻き起こります。
予想以上にウケています!

観衆の方を見るとみんな拍手しながら、ステージに近づいてくる。
ここでトドメにもう一発、芸を見せます。
まずは指先をピンと伸ばした貫き手を観衆によく見せて、それで突くフォームを何度か繰り返し

「デワっ!」

「オスッ!」

合図するとデワが、バレーボールのトスの要領でスイカを私の頭上に放り上げます。
それを指先で突くと見せかけて・・・叩く瞬間に拳を握る。力まかせに叩き割ります。
バカッとスイカが割れると同時に指を再び伸ばしてごまかす。インチキ貫き手スイカ割りです。

これもかなり観衆にはインパクトを与えたようで、拍手と歓声、ピーピーと口笛が鳴り響きます。

私は構えから正拳突きを1本出して、そのまま残心のポーズを取ります。
しかし目は観衆の中に混じっているフランス空手野朗を探していました。

でかいからすぐ見つかった。
大きな身体をくの字に曲げて、腹を押さえて・・・奴は爆笑していました。
やはりインチキは見抜かれていたみたい。。。

「センパイ、なにかスピーチしてくださいよ!」

デワに言われて我に返ります。

「ああ・・・うん。えーと・・・みなさん!今日はこれでカラテのデモンストレーションを終わります。これを見て興味を持たれた方はぜひ私達の道場を訪れてください。ご覧になられたようにカラテの破壊力は恐るべきものですが私達は親切丁寧に指導いたしますので、怪我をする危険はほとんどありません。安全にカラテの威力を鍛えあげるのが私達の指導方針です。オス!ありがとうございました!」

・・・・・パチパチパチ・・・・・。

第一回目のデモンストレーションはなかなかの手ごたえがありました。
スピーチを終えてあとかたづけをしている間にも、何人ものスリランカ人が握手を求めてきたり、サイン(笑)を求められたり・・・ちょっとしたスターの気分です。

しかし、気になるのは・・・・フランス空手野朗はこの場を離れず、少し距離を置いたままこちらを見ていることです。

その顔は相変わらずニヤニヤと笑っておりました。
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