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宴の翌朝
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「あー。。アラックを買ったのは失敗だったぜ・・・。アラックとブッダスティックのちゃんぽんはキツいわ」
朝、目が覚めてみるとスティーブがボヤいております。
ジムもそれに相槌を打っています。
「オレも何がなんだか・・・意識が飛んじゃって、なんにも覚えてないよ。せっかくの極上品だったのにね。アラックを飲みすぎたのが効いたかな・・・メイは大丈夫だった?」
「さあ?私はあんまり飲んでいなかったけど、よく覚えていないわ・・・あらトミー、おはよう」
「おはよう・・・・」
・・・ちょっと気まずいですが、みんな何も覚えていないのなら、一安心かな?
ジムはメイの肩に手を回し、メイはジムにもたれかかっています。
うん・・・何事もなさそうだ。
「トミー。スティーブは昼ごろには出発するそうだ。みんなで朝飯でも食ってお別れしないか?」
ジムが言います。もちろん断る理由は無い。
ゲストハウスの食堂で、ブレックファーストを注文します。
パンとフライドエッグ、オレンジジュースとポットに入った紅茶。
可も無く不可も無い朝食ですが、紅茶はやはり旨い。
味が濃くて香りも良い。セイロンティーは日本でも飲みますが、本場だとこんなに違うものなのか。
昨日の晩御飯のあとに飲んだのと違い、砂糖は自分で入れるので好みの甘さに調節出来ます。
「オレは今日バンコクに行くけど、君らはどうするんだ?」スティーブが訊ねます。
「私たちはそうね、ニゴンボにでも行ってみようかしら・・・ジム、どうする?」
「いいね。ニゴンボならシーフードが食えるぜ。カレーもいい加減飽きたしなあ。トミーは?」
「え・・僕は・・ここに一週間ほど泊まるつもりだけど」
「なに?一週間も?おいおい、コロンボなんて長くいて面白いところじゃないぜ。この国はリゾートでも遺跡でも行くところはいくらでもあるのに、なんでこんなところに一週間もいなきゃならないんだ?」
ジムが言います。
「いや、僕はまだ旅なれていないから、ここに泊まっていろんな旅行者と話をしたり、街を歩いたりしてこの国になじんでみたいんだ。だからしばらくここにいようと思って」
「ふーん。トミーは変わってるね。まあいいや」
「そんなことよりジム、お別れに例のブツ・・・お前にやるよ」
「マジ?スティーブ・・おおスティーブ!愛してるぜ」
「よし、じゃあちょっと部屋に行こう。おおっぴらに渡すもんじゃないからな」
ジムとスティーブが立ち上がります。
「ああ、君たちはゆっくり紅茶でも飲んでいてくれ。スティーブ、行こう」
そそくさと食堂を出て行きます。
食堂でメイとふたりきりになってしまったので、私はちょっと気恥ずかしい。。
メイの白い肌の記憶がチラリと頭をかすめます・・・あれもブッダスティックが見せた幻覚かもしれないな。
「ねえ、トミーは日本に彼女がいるの?」
「いや、いない。いたけど会社を辞めて旅に出るって言ったら、愛想尽かされた」
「あはは・・・あ、ゴメンなさい。でも会社を辞めて一緒に旅に出よう・・って言えばよかったのに」
「ああ・・それに気がつかなかったなあ。。ジムはメイにそう言ったのかい?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、ジムのほうが僕より誠実だったんだよきっと。ジムを愛してる?」
メイはにこっと微笑んでから一呼吸置いて
「ええ・・・多分。そうね」
なんか微妙な答えだなあ・・・・。
「ねえ・・・私、昨晩のこと覚えてるわよ」
「・・・え・・?」紅茶が喉につかえそうになった。
「私はアラックを一口しか飲んでなかったから、記憶が飛ばなかったの。トミーは全然飲んでないから覚えているんでしょ?」
・・・・・なんて答えればいいんだろ。
。
「楽しかったわ。トミーは優しいのね。ねえ、私達と一緒にニゴンボに行かない?」
テーブル越しに目を細めて、頬杖をつきながら言います。
・・・ん??この女何考えてるんだろ?私と浮気がしたいのか?
誘惑に大変弱い私ですが、やることがありますのでさすがにそういうわけにはいかない。
「いや、やめておく。君はジムとふたりで行けばいい」
「ふう。残念ね。私、トミーの彼女の気持ちがわかってよ。あなた、彼女より他のことを優先するでしょ?」
・・・・?・・・・
「あなたにはいつも彼女より大切な何かがあるのよ。女はそれが許せないの」
「ジムは君を優先した?」
「そうね。多分そうよ・・・昨夜のことジムには内緒にしてくれるわね?」
「もちろん」
「ありがと。あなたが何を大切にしているのかわからないけど、それよりも大切な誰かが現れる日が来たら私のことも少しくらい思い出してね。じゃあ部屋に戻るわ」
ひとりになった食堂で、私は考えました。
私が何を大切にしていると言うんだろう?
私にはまだ自分の心が見えない。
私はいつもその場で、ただ自分の興味のあることだけをやってきた。
今回の旅だってそうだ。
会社で一日中働いているよりも面白そうだと思っただけ。
それだけです。それが私が何よりも大切にしていることなのか?
分からない・・・・まあいいや・・・私は考えるのを止めました。
私はまだ若い。いつかちゃんと答えが出るだろう・・・。
この頃の私は人生と言うのは年齢に応じて、決まったイベントが現れるゲームのようなものだと考えておりました。まわりの誰もが、ある年齢になれば所帯を持って、子供が出来て家を建てて・・・誰でもそうです。
私は自分が特別な人間だとは思っていませんから、当然私もそうなるんだろうと考えていました。
朝、目が覚めてみるとスティーブがボヤいております。
ジムもそれに相槌を打っています。
「オレも何がなんだか・・・意識が飛んじゃって、なんにも覚えてないよ。せっかくの極上品だったのにね。アラックを飲みすぎたのが効いたかな・・・メイは大丈夫だった?」
「さあ?私はあんまり飲んでいなかったけど、よく覚えていないわ・・・あらトミー、おはよう」
「おはよう・・・・」
・・・ちょっと気まずいですが、みんな何も覚えていないのなら、一安心かな?
ジムはメイの肩に手を回し、メイはジムにもたれかかっています。
うん・・・何事もなさそうだ。
「トミー。スティーブは昼ごろには出発するそうだ。みんなで朝飯でも食ってお別れしないか?」
ジムが言います。もちろん断る理由は無い。
ゲストハウスの食堂で、ブレックファーストを注文します。
パンとフライドエッグ、オレンジジュースとポットに入った紅茶。
可も無く不可も無い朝食ですが、紅茶はやはり旨い。
味が濃くて香りも良い。セイロンティーは日本でも飲みますが、本場だとこんなに違うものなのか。
昨日の晩御飯のあとに飲んだのと違い、砂糖は自分で入れるので好みの甘さに調節出来ます。
「オレは今日バンコクに行くけど、君らはどうするんだ?」スティーブが訊ねます。
「私たちはそうね、ニゴンボにでも行ってみようかしら・・・ジム、どうする?」
「いいね。ニゴンボならシーフードが食えるぜ。カレーもいい加減飽きたしなあ。トミーは?」
「え・・僕は・・ここに一週間ほど泊まるつもりだけど」
「なに?一週間も?おいおい、コロンボなんて長くいて面白いところじゃないぜ。この国はリゾートでも遺跡でも行くところはいくらでもあるのに、なんでこんなところに一週間もいなきゃならないんだ?」
ジムが言います。
「いや、僕はまだ旅なれていないから、ここに泊まっていろんな旅行者と話をしたり、街を歩いたりしてこの国になじんでみたいんだ。だからしばらくここにいようと思って」
「ふーん。トミーは変わってるね。まあいいや」
「そんなことよりジム、お別れに例のブツ・・・お前にやるよ」
「マジ?スティーブ・・おおスティーブ!愛してるぜ」
「よし、じゃあちょっと部屋に行こう。おおっぴらに渡すもんじゃないからな」
ジムとスティーブが立ち上がります。
「ああ、君たちはゆっくり紅茶でも飲んでいてくれ。スティーブ、行こう」
そそくさと食堂を出て行きます。
食堂でメイとふたりきりになってしまったので、私はちょっと気恥ずかしい。。
メイの白い肌の記憶がチラリと頭をかすめます・・・あれもブッダスティックが見せた幻覚かもしれないな。
「ねえ、トミーは日本に彼女がいるの?」
「いや、いない。いたけど会社を辞めて旅に出るって言ったら、愛想尽かされた」
「あはは・・・あ、ゴメンなさい。でも会社を辞めて一緒に旅に出よう・・って言えばよかったのに」
「ああ・・それに気がつかなかったなあ。。ジムはメイにそう言ったのかい?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、ジムのほうが僕より誠実だったんだよきっと。ジムを愛してる?」
メイはにこっと微笑んでから一呼吸置いて
「ええ・・・多分。そうね」
なんか微妙な答えだなあ・・・・。
「ねえ・・・私、昨晩のこと覚えてるわよ」
「・・・え・・?」紅茶が喉につかえそうになった。
「私はアラックを一口しか飲んでなかったから、記憶が飛ばなかったの。トミーは全然飲んでないから覚えているんでしょ?」
・・・・・なんて答えればいいんだろ。
。
「楽しかったわ。トミーは優しいのね。ねえ、私達と一緒にニゴンボに行かない?」
テーブル越しに目を細めて、頬杖をつきながら言います。
・・・ん??この女何考えてるんだろ?私と浮気がしたいのか?
誘惑に大変弱い私ですが、やることがありますのでさすがにそういうわけにはいかない。
「いや、やめておく。君はジムとふたりで行けばいい」
「ふう。残念ね。私、トミーの彼女の気持ちがわかってよ。あなた、彼女より他のことを優先するでしょ?」
・・・・?・・・・
「あなたにはいつも彼女より大切な何かがあるのよ。女はそれが許せないの」
「ジムは君を優先した?」
「そうね。多分そうよ・・・昨夜のことジムには内緒にしてくれるわね?」
「もちろん」
「ありがと。あなたが何を大切にしているのかわからないけど、それよりも大切な誰かが現れる日が来たら私のことも少しくらい思い出してね。じゃあ部屋に戻るわ」
ひとりになった食堂で、私は考えました。
私が何を大切にしていると言うんだろう?
私にはまだ自分の心が見えない。
私はいつもその場で、ただ自分の興味のあることだけをやってきた。
今回の旅だってそうだ。
会社で一日中働いているよりも面白そうだと思っただけ。
それだけです。それが私が何よりも大切にしていることなのか?
分からない・・・・まあいいや・・・私は考えるのを止めました。
私はまだ若い。いつかちゃんと答えが出るだろう・・・。
この頃の私は人生と言うのは年齢に応じて、決まったイベントが現れるゲームのようなものだと考えておりました。まわりの誰もが、ある年齢になれば所帯を持って、子供が出来て家を建てて・・・誰でもそうです。
私は自分が特別な人間だとは思っていませんから、当然私もそうなるんだろうと考えていました。
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