空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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明日はスリランカ 4

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スリウォン通りにある、高級中華料理店。

テーブルの上には、見たことも無いような高級料理がところ狭しと並んでいます。
さらにウェイターが丸ごとの北京ダックをワゴンに乗せて運んでくる。

「・・・これはスゴイ!贅沢ですねえ。。」

「ええ。日本で食べたら目玉が飛び出ますね。まあこっちでもこれは贅沢ですけど、日本円ならファミレス並の価格ですから。冨井さんの出陣式ですから贅沢もいいでしょう。あ、北京ダックどうぞ食べてみてください」

中田さんに促され、北京ダックを食します。
ウエーターが飴色に焼きあがったダックの皮の部分だけを、器用にナイフで剥ぎ取ったものを自分の好みで香味野菜と甘いタレとともにクレープのような皮に包んで食べます。
柔らかいクレープ生地と、パリッとしたダックの食感の組み合わせの妙。
口中に広がる脂の旨みに野菜の香味とタレの甘味が実に良く会う。

「・・・旨い・・・・!」私は思わず唸りました。

私も今ではバンコクで日本人を接待する機会には、まずこの北京ダックを食べさせますが大好評。

『こんなにおいしいもの生まれて初めて食べました!』

『これをキライと言う人はいないんじゃないですか?』

・・・などと非常に感激されます。

「気に入ってもらってよかった。さあ、他の料理もおいしいですよ。今日は気が済むまでたべましょう」

私と中田さんは同い年でまだ若かったので、非常に食欲旺盛です。
また、中田さんはよく飲む。ビールを飲みながら、よくそれだけ食べられるものだ・・・感心します。
これだけよく食べて飲むにも係わらず、中田さんは非常にスマートな体型です。

もっとも当時は私も、少々食べても太らなかったので別になんとも思いませんでしたが、現在。中田さんは当時とまったく変わらずスマートな男前を維持しているのに、私だけデブになってしまった。
・・・神様は不公平なのだ。

腹いっぱい食べた私達は、食後のデザートまで平らげて、香り高いジャスミン茶をすすります。

「旅の門出には、女と花束・・・じゃなくて中華料理。悪くないですね、冨井さん」

「あーいやー・・」ちょっと恥ずかしい。

「じゃあ、ここで僭越ながら僕から旅の先輩としてのはなむけの言葉をプレゼントします」

「はい。お願いします」

「よーく胸に刻み込んでください。これは有名な旅人の格言。『旅先の恋は旅先で終わらせろ』です」

「・・・はあ。。『旅先で終わらせろ』ですか」

「今はピンと来ないでしょうね。それでいいんです。冨井さんは多分、これから長い旅になるでしょう。冨井さんも若い男ですから当然、いい女に出会えば恋に落ちます。でも旅先で出会った恋はめったにうまくいかないものです。もしそういうことがあったときには、この言葉を思い出してください」

正直、あまりピンと来ませんでした。

私は今回の旅はまあ軽い出張みたいなものだと思っていましたし、この旅を終えて帰国すれば、もう当分海外に出ることもなかろうと思っていましたので。
それがまさか、タイをはじめとして、スリランカ全域、そしてカンボジアまで旅することになろうとは。

「お腹いっぱいになったところで、パッポンで飲みませんか?冨井さんは女もお腹いっぱい?」

「いや、そんなことないです(笑)」

「よかった(笑)。じゃあ、パッポンをはしごしてから帰りましょう」
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