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明日はスリランカ 2

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「まあ、そんなに心配すること無いと思いますよ。スリランカは治安はそう悪くないそうですから」

古書店でスリランカのガイドブックを見ながら、中田さんがいいます。

「とりあえず、これ買っときましょう。よく読んでおいたほうがいいです」

「いろいろ、ありがとうございます。宿に帰ったらよく読んでみます」

本を購入して店を出ます。
バンコクは非常にクルマが多く、いつも渋滞しています。
その隙間を縫って、バイクが疾走します。
突然、そのバイクがバランスを崩して大きな音を立てて転倒しました。

「ああ~危ないなあ。んー、でも運転していた人は大丈夫みたいですね」

中田さんが言います。

「まあ、しかし冨井さん。結局確率の問題ですからね。さっきのドレッド君は運が悪かったんです。爆弾テロや内戦に巻き込まれる確率はゼロじゃないでしょうけど、例えばバンコクで交通事故に会う確率よりはずっと低いはずです。そんなのを気にしていたら何も出来ません」

・・・もっともだ・・・と私も思います。

私は基本的に臆病で小心者ですが、ここまで来たらもう腹は座ってきました。
別に私は戦場に行くわけじゃない。

否。別の意味で自分の戦場に向かう兵士みたいなものかもしれません。
そんなめったに起こりえない事態に巻き込まれて命を落とすとしたら、もともと運が無いんだ。
それほど運の無い男なら、平和な日本に居てもすぐ命を落とすでしょう。

「中田さん。僕は別に気にしてません。なるようになる・・・と思っていますから」

「いい事言いますね。そうそう。人生なるようになるもんです」

「そういう中田さんだって、そうやって修羅場をたくさん潜ってきたんじゃないですか?」

「いや、それほどじゃないですよ。僕は穏やかな人生を心がけていますから」

そうは言っておりますが、中田さんが平凡な人生を送っているとは思えません。
中田さんは自分の過去をあまり人に話したがらない人ですので、当時は私も何も聞いておりませんでしたが、この一週間の間、私が目にした彼の細心さと大胆さ。
普通の日本人の感覚ではありません。

「じゃあ、冨井さん。すみませんが僕はいまから仕事がありますんで、ここで別れましょう。最後の晩御飯は中華に行きませんか?多分スリランカに行ったら、毎日カレーですよ」

「はい、ぜひ。そうか、明日から毎日カレーですね。僕はカレー好きですから結構楽しみなんですけど」

ははは・・・と中田さんは笑って

「それはよかった。じゃまた夜に!」

宿に戻った私は、ベットに寝転がってガイドブックを読み込みます。
この本によると、スリランカで主戦場となっているのは北部のジャフナという半島らしい。
この地域の独立を求める、タミル人勢力とスリランカ政府による民族紛争が続いていると。

・・・さしあたり、この地域に足を踏み入れなければめったなことはあるまい。
更にスリランカに関する基礎知識をできるだけ頭にインプットしておこう・・と読書に没頭します。

二時間ほどして読書に疲れた私は、ベットから起きて部屋の中を歩き回ります。
ふと、思い立って私はこの宿の各階の廊下に置いてある、体重計を部屋に持ち込みました。

服を脱いでトランクス一枚になり、計りに乗ります。
針は70kgぴったりで静止しました。私のベスト体重です。

つぎにこの部屋にある大きな姿見の前に立ちます。
腕を曲げ伸ばししたり、身体を捻ったりしながら自分の筋肉の動きをチェックします。

私は別にナルシストというわけではありません。
いまから乗り込む見知らぬ異国の地で、私が頼ることの出来る武器は己の肉体だけです。
その武器を今一度点検しておこうと思ったのです。

私は身長が178cmですから、体重70kgというのは格闘技をやるものとしては痩せすぎと言って良いでしょう。が、私自身は最も軽快に動けて、かつ体力的にも自信の持てる体型です。
当時、私は26歳になったばかりですから、肉体的に全盛期を迎えたところだったでしょう。
適度に付いた筋肉は張りと弾力を持っており、しなやかに動くことができます。

つづいて鏡に向かって得意な蹴りを放ちます。
この当時は毎日時間をかけてストレッチをやっておりましたので、足が面白いように上ります。
これなら数10cmの至近距離からでも、相手の顔面を蹴ることが出来るでしょう。

・・・いける!・・・・私は自分に言い聞かせました。。
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