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プロローグ

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冒頭にいきなりで申し訳ありませんが、この物語を読む前に以下のことを想像してください。

あなたには中一程度の英語力しかありません(英語が堪能な方もそうであると想像してください)。

なのに、なぜかあなたは未知の外国に出来たばかりの英語学校に、ただひとりの教師として派遣されました。

非英語圏の国なのでなんとかなるか・・とタカをくくって行ってみると、なんとそこにはすでに本格的な英語学校がたくさんあり、ネイティブ級の英語教師がゴロゴロ居ます。

そんな状況なのに、あなたは英語教師としてあなたが派遣された学校を成功させなければならない・・あなたなら、どうします?

「そんなことはありえない」

あなたはそういうかもしれません。

しかし、上の例えとは少し違うかもしれませんが、かつて私が経験した出来事はまさにその状況に似ていました。

199X年の新春から間もないころだったと記憶しています。

私は、薄汚れたTシャツに作業用のカーゴパンツ、トイレで履くようなゴム製のサンダルというい出で立ちで、それほど大きくはないバックバックを背負って、スリランカのコロンボという都市の街中をとぼとぼ歩いていました。

コロンボは首都ではありませんがスリランカ経済の中心地で、今歩いているところはそのコロンボの中でもビジネス街といえるフォート地区というところです。多くのビジネスマン、物売り、サリーを着た女性、三輪タクシーの出す排気ガスとカレーの入り混じった匂い。そしてとにかく騒々しいところです。

スリランカの赤道直下の太陽は凶悪な熱を持って頭上に輝いています。その熱は暑いとかいうレベルではありません。熱いのです。ちょうど頭の50cmほど上に炭火を乗せた網をかざされてているとか・・・そのくらい熱いです。慣れているとはいえよくスリランカの人たちは平気で歩けるものです。

そんな灼熱の都会をフラフラとおぼつかない足取りで歩いている私に、さきほどから英語がそれほど得意ではない私にも理解できる分かりやすい英語で、盛んに話しかけながら着いてくる16~17歳くらいの少年が居ます。

「フレンド!なあ友達、お前どこに行くんだ?お腹が空いてないか?いいレストランがあるよ、紹介するぜ。ホテルはどこ?今夜泊るところはきまってるのかい?」

スリランカで友達を見つけるのはトイレを見つけるよりよほど簡単です。
ただ街を歩いているだけで、自称・友達はすぐにやってきますから。
彼らはガイドボーイと呼ばれている少年たちで、旅行者に一方的に話しかけては頼んでもいないガイド(?)をしてガイド料をせびるのが仕事なのです。

「友達ってなあ、お前いったい誰だよ。僕はお前の名前を知らないし、お前も僕の名前を知らないだろ。僕はお前みたいな友達持った覚えはないよ」

「日本人はみんな俺の友達だよ。俺の名前はボウイと呼んでくれ。お前の名前は?」

彼の本名は後に聞きましたがすっかり忘れました。ガイドボーイのボウイ。安直なニックネームです。

「僕はハルヨシ・トミイだ。覚えたか?」

「ハ・・・ハラヤ・・・トミー?トミーだな。覚えたぜ。ほらもう友達だ」

やれやれですがスリランカに来てから2日間、こういう押しかけ友達の先手必勝ガイドには散々付きまとわれたので、私も逃げ方が上達しています。

すぐ目の前には大きな5スタークラスのホテルのビルがそびえたっています。

・・・あそこのロビーに入ればいい。

いくらみすぼらしい恰好していても日本人は簡単に入れます。
しかし、彼らガイドボーイはドアマンに制止され入ることはできません。

ところがこの時は、まもなくホテルという地点であるものが私の目に留まりました。
それが工事現場なのか、解体中の建物なのかわかりませんが、半分崩れかけたブロック塀でした。

そのブロック塀一面におびただしい数のポスターが貼られていました。
そのすべてに『KARATE』の文字が。

数十枚はあるポスターのすべてが、空手道場の生徒募集のポスターです。
私は思わず足を止めて、それらのポスターを眺めました。

『××協会』『××会館』といった日本でもメジャーな会派・流派のものから、『モンキー流カラテ』だの『ブシドーカラテ』だのちょっと怪しげなものまでぎっしり。

「どうしたトミー?ああ空手のポスターだね。トミーも日本人だから空手できるんだろ?」

「ボウイあのさ、もしかしてスリランカって空手が流行ってるの?」

「流行ってるなんてもんじゃないよ。大流行だよ。俺もそのモンキー流で空手やってるもの」

目まいがしてきました。暑さのせいじゃありません。

・・・なんだここは?とんでもない激戦区じゃないか。こんなところで僕に何ができるんだよ!・・・

「トミー、スリランカの空手が見たいかい?ちょうどこの先のお寺で合同稽古やってるはずだよ。見に行こう」

こっちの気も知らないボウイが陽気な声で言いました。

甘かった。早くも後悔でいっぱいです。

・・・なんでこんなことに?なんで僕はこんな所に居るんだろう?・・・

私は自分の軽率を悔やみつつ、これまでの日本での出来事を思い出していました。
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