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第二章:バチャタン奪還戦
プロローグ:魔法使いのオーディションをはじめた
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マリプの町から北に馬車で一日ほどの地点にあるニット村は、小さな村落というイメージの名ではあるが、実際はちょっとした宿場町の雰囲気がある。
宿屋は数軒あるし、小さいながら道具屋、鍛冶屋、武器屋まである。
さらには郵便局、銀行、ギルドの出張所もそれぞれ小規模ながら存在しているのだ。
メアリー・シェリーの屋敷を離れた2日後の午後、そのニットにある冒険者の集う酒場に俺とミエルは居た。バチャタンに向かう前に、ミンミンの後任の魔法使いを見つけるのが目的だ。
戦士のパーティーが魔法使いを募集しているという噂は、たちまち冒険者の間に広まっている。
なのでつぎつぎと売り込みに来る魔法使いがやって来た。
しかし、彼らの大半は金目当てである。
戦士が二人もいるパーティーなら稼げると踏んでいるのだ。
今も俺たちの目の前にはひとりの自称・魔法使いが居た。
「いいですか?この空のグラスをよく見てください。ハンカチをかけますよ」
そのハンカチを取り去るとグラスの中にウィスキーのような液体が出現した。
しかし俺たちが探しているのは魔法使いであって手品師ではない。
「あのな、すまんが俺たちが求めているのはヒーリング系の魔法使いなんだ。そっち系は何かできるか?」
「ああ、ええと・・じゃあお薬を出しましょうか?」
「いや、結構。ご苦労だったな。行っていいよ」
ずっとこんな調子である。
たまに少々使える奴が現れても、モンスターを含む反王朝勢力との戦闘が目的であり、前任者は殉職していることを告げると怖気づいてしまう。
役に立ちそうなパーティーのメンバーを探すというのは想像以上にに難しいものらしい。
「なあミエル。ここには碌なのが居そうにないな。これは魔法使い抜きでバチャタンに乗り込むしかないかもな」
「そうだな。回復薬をたくさん購入して持っていくしかないか」
俺たちはひとまず宿泊している宿に戻った。
部屋ではライカがひとりでメアリー・シェリーの研究ノートを読みふけっていた。
俺たちが戻ったことにも気づかぬほど没頭している。
「どうだライカ。メアリーのノートは役に立ちそうか?」
俺が声を掛けるとライカは顔を上げた。
「ああマーカス、ミエル、帰ってたの」
そう言うとライカはノートを俺たちに見えるように広げた。
そこには俺にはさっぱり理解できない数式がびっしりと書き込まれている。
「もう本当に驚くことばかりよ。メアリーは天才だわ。私なんか足元にも及ばない」
「俺は見てもなんだかさっぱり分からないよ。もう少し数学や理科を勉強しておくんだった」
ライカはまるで感動した大作映画について語るように、熱心に解説を始めた。
「とにかくすごいわ。メアリーは本当に生と死の秘密を論理的に解き明かしているの。立てた仮説はすべて数式で説明しているし、それを実験で証明している。徹底的に曖昧さや神秘を排除した科学的思考よ」
ノートをパラパラめくりながら、さらに説明を続ける。
「彼女の研究は蘇生術に留まっていない。それは過去の成果として、すでに先に進んでいる。魔法についてさえ科学的考察と解明を試みているわ。近年の彼女の関心はクローンと完全なる不老不死だったみたい」
「ちょっと待て、クローンだって?メアリーはクローン技術を持っているのか?」
俺がそう言うとライカはかなり驚いたようだった。
「ええっ!マーカス、驚いた。あなたクローンを知っているの?意外だわ・・そうよ、メアリーはほとんどクローン技術を完成させていたみたい。彼女は骨の欠片からでも生物を復元できるだけの技術を持っているわ」
驚いたのはこちらのほうである。俺が転生する前の世界と比較すると、一見文明がひどく遅れているように思われるこの世界で、そこまで高度なクローン技術が完成していたとは。
「でも、どうやらクローンに関しては彼女は途中で興味を失ったみたいだわ。何か実験で不都合が起こったのかもね。その部分のページがごっそりと破り取られている」
「ふーん、そうなのか」
「なので目下の研究課題は不老不死の実現ね。こちらもかなり核心に迫りつつあるみたいよ」
正直よくわからないのだが、この世界の科学力が侮れないものであることは確かだ。
「不老不死についてはいずれメアリーが完成するでしょうから、私は彼女の蘇生術をもう少し簡単にして実用性を高める研究をしてみる。おとぎ話の蘇りの呪文を現実にして見せるわ」
ライカは科学者魂に火が着いたようだ。
「ねえマーカス、ミンミンちゃんが持っていたこの武器なんだけど、初めて見るメカニックだわ。こんなに小さいのに高圧電流を放出するなんてすごい。バッテリーも小型で信じられないほど高性能よ。これを研究すればポータブルな蘇生メカが作れるかもしれない。でもミンミンちゃんはどこでこんな武器を手に入れたのかしら?」
それを説明するのは面倒なので、俺は黙っていた。
俺はその後、ひとりで仕立て屋に行った。
新しい道着を誂えるためである。
丈夫な木綿の生地を選び、採寸してもらう。
デザイン画は俺が書いたもので、もちろん黒帯も作らせる。
道着は翌日の午後までに出来るというので、なかなか仕事が早い。
次に鍛冶屋に行った。
チョーキの武器を失ったので、ヌンチャク、トンファー、サイを新たに作ろうと思ったのだ。
一応俺は鍛冶屋の息子なので、図面を引いて持って行き、細部について指図する。
こちらは完成には3日ほどかかるということなので、その間は魔法使いのオーディションをつづけてみることにしよう。
宿屋は数軒あるし、小さいながら道具屋、鍛冶屋、武器屋まである。
さらには郵便局、銀行、ギルドの出張所もそれぞれ小規模ながら存在しているのだ。
メアリー・シェリーの屋敷を離れた2日後の午後、そのニットにある冒険者の集う酒場に俺とミエルは居た。バチャタンに向かう前に、ミンミンの後任の魔法使いを見つけるのが目的だ。
戦士のパーティーが魔法使いを募集しているという噂は、たちまち冒険者の間に広まっている。
なのでつぎつぎと売り込みに来る魔法使いがやって来た。
しかし、彼らの大半は金目当てである。
戦士が二人もいるパーティーなら稼げると踏んでいるのだ。
今も俺たちの目の前にはひとりの自称・魔法使いが居た。
「いいですか?この空のグラスをよく見てください。ハンカチをかけますよ」
そのハンカチを取り去るとグラスの中にウィスキーのような液体が出現した。
しかし俺たちが探しているのは魔法使いであって手品師ではない。
「あのな、すまんが俺たちが求めているのはヒーリング系の魔法使いなんだ。そっち系は何かできるか?」
「ああ、ええと・・じゃあお薬を出しましょうか?」
「いや、結構。ご苦労だったな。行っていいよ」
ずっとこんな調子である。
たまに少々使える奴が現れても、モンスターを含む反王朝勢力との戦闘が目的であり、前任者は殉職していることを告げると怖気づいてしまう。
役に立ちそうなパーティーのメンバーを探すというのは想像以上にに難しいものらしい。
「なあミエル。ここには碌なのが居そうにないな。これは魔法使い抜きでバチャタンに乗り込むしかないかもな」
「そうだな。回復薬をたくさん購入して持っていくしかないか」
俺たちはひとまず宿泊している宿に戻った。
部屋ではライカがひとりでメアリー・シェリーの研究ノートを読みふけっていた。
俺たちが戻ったことにも気づかぬほど没頭している。
「どうだライカ。メアリーのノートは役に立ちそうか?」
俺が声を掛けるとライカは顔を上げた。
「ああマーカス、ミエル、帰ってたの」
そう言うとライカはノートを俺たちに見えるように広げた。
そこには俺にはさっぱり理解できない数式がびっしりと書き込まれている。
「もう本当に驚くことばかりよ。メアリーは天才だわ。私なんか足元にも及ばない」
「俺は見てもなんだかさっぱり分からないよ。もう少し数学や理科を勉強しておくんだった」
ライカはまるで感動した大作映画について語るように、熱心に解説を始めた。
「とにかくすごいわ。メアリーは本当に生と死の秘密を論理的に解き明かしているの。立てた仮説はすべて数式で説明しているし、それを実験で証明している。徹底的に曖昧さや神秘を排除した科学的思考よ」
ノートをパラパラめくりながら、さらに説明を続ける。
「彼女の研究は蘇生術に留まっていない。それは過去の成果として、すでに先に進んでいる。魔法についてさえ科学的考察と解明を試みているわ。近年の彼女の関心はクローンと完全なる不老不死だったみたい」
「ちょっと待て、クローンだって?メアリーはクローン技術を持っているのか?」
俺がそう言うとライカはかなり驚いたようだった。
「ええっ!マーカス、驚いた。あなたクローンを知っているの?意外だわ・・そうよ、メアリーはほとんどクローン技術を完成させていたみたい。彼女は骨の欠片からでも生物を復元できるだけの技術を持っているわ」
驚いたのはこちらのほうである。俺が転生する前の世界と比較すると、一見文明がひどく遅れているように思われるこの世界で、そこまで高度なクローン技術が完成していたとは。
「でも、どうやらクローンに関しては彼女は途中で興味を失ったみたいだわ。何か実験で不都合が起こったのかもね。その部分のページがごっそりと破り取られている」
「ふーん、そうなのか」
「なので目下の研究課題は不老不死の実現ね。こちらもかなり核心に迫りつつあるみたいよ」
正直よくわからないのだが、この世界の科学力が侮れないものであることは確かだ。
「不老不死についてはいずれメアリーが完成するでしょうから、私は彼女の蘇生術をもう少し簡単にして実用性を高める研究をしてみる。おとぎ話の蘇りの呪文を現実にして見せるわ」
ライカは科学者魂に火が着いたようだ。
「ねえマーカス、ミンミンちゃんが持っていたこの武器なんだけど、初めて見るメカニックだわ。こんなに小さいのに高圧電流を放出するなんてすごい。バッテリーも小型で信じられないほど高性能よ。これを研究すればポータブルな蘇生メカが作れるかもしれない。でもミンミンちゃんはどこでこんな武器を手に入れたのかしら?」
それを説明するのは面倒なので、俺は黙っていた。
俺はその後、ひとりで仕立て屋に行った。
新しい道着を誂えるためである。
丈夫な木綿の生地を選び、採寸してもらう。
デザイン画は俺が書いたもので、もちろん黒帯も作らせる。
道着は翌日の午後までに出来るというので、なかなか仕事が早い。
次に鍛冶屋に行った。
チョーキの武器を失ったので、ヌンチャク、トンファー、サイを新たに作ろうと思ったのだ。
一応俺は鍛冶屋の息子なので、図面を引いて持って行き、細部について指図する。
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