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第一章:転生と旅立ち

ギルドの試験を受けることにした

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「すみません、ちょっと上司を呼んできます」

そう言うと美人担当者は足早に奥の部屋に駆け込んだ。

しばらく待つと、美人担当者を従えて、彼女よりやや年上の・・おそらくは30歳手前くらいの女性がやってきた。
いかにもキャリア官僚といった雰囲気だが、彼女もやはりかなりの美人である。


「お待たせしました。私は職業適性審査部長のライラと申します」

「はあどうも、マーカスです」

ライラ部長は手に持った何か資料らしきものをペラペラとめくりながら言った。

「マーカスさんのステータスを見せていただいたのですが、なにしろ私もカラテマスターの職業選定を取り扱うのは初めてなもので、なにかと不手際があるかと思いますがお許しください」

「とにかく何か仕事を見つけないと親父に怒られますので、なんとかお願いします」

「いちおうマニュアルによりますと、カラテマスターの場合は無審査で戦士に登録できることになっています。しかし失礼ながらマーカスさんの場合・・」

「・・はい」

「どうしてレベル1なんでしょうか?カラテマスターなら、ちょっと町の外を歩き回るだけでもレベルなんて簡単に上がるでしょうに。そこが引っかかるんです」

俺はこの世界に転生したばかりなので、町の外には一度も出たことがない。

そうだよな、他の異世界転生モノでは町ではなく荒野に転生するとか、赤ん坊スタートで転生するとかしてある程度レベルアップしてからギルドに来るものみたいだ。

・・・もしかして、俺はうっかりテンプレ外ししているのだろうか?これは注意しなければ。

「そこで疑うわけではないのですが、あなたのカラテ実技を試験(テスト)させていただきたいのです。ウチに所属する戦士と戦っていただきたい」


なるほどそのパターンか。

しかし、この世界では空手はやたら恐れられている超武術らしいが、俺の実力はまったく大したことないのだ。これは謙遜ではない。

俺は試合に勝った経験が無いし、とにかく組手が弱い。
黒帯取得できたのは、それでもめげずに空手道場に通っていたご褒美みたいなものである。

闘士10000人に1人という狭きを門をくぐり抜けた戦士相手に戦えるとは、とても思えないのだ。

しかし異世界転生で一旗揚げようと目論んでここに来た以上、これは避けて通れない試練なんだろう。
俺は腹を決めた。


「わかりました。その試験(テスト)を受けます」


━━…━━…━━…━━…━━…━━━━…━━…━━…━━…━━…━━


ギルドの建物の中庭に簡単な闘技場はあった。ここが試験会場である。

闘技場の周りにはいつの間にか大勢の観客が集まっている。
さっきまで受付に並んでいた連中だが、もはや自分の職探しよりも俺の戦いが見たいようだ。

ライラ部長に促されてゲートを通って俺が闘技場に入ると、その観客からの声援かヤジかわからない声が飛んだ。

「若造、がんばれ!」

「ほんとうにカラテマスターなのか見せてもらうぞ!」

向かい側のゲートを見ると、鉄の鎧を着こんだ立派な体格の、いかにも戦士といった風貌の男が入って来た。


「マーカスさん、武器を選んでください」

ライラ部長がそう言った。
ゲートの傍らの棚には剣や盾などの武具がたくさん並んでいた。

鉄や青銅で出来た剣を持ってみたが、やたら大きくて重い。
しかし、金属の精錬技術はそれほど高くないようで、不純物を多く含んでいると思われる剣の切れ味は悪そうだ。
斬るというより、叩き殺す武器だと思われる。

対戦相手を見るとやはり重そうな鉄の剣と盾を持っている。

俺は自分の筋力を考慮して重い剣や盾を持つのはあきらめて、固い樫の木でできているらしい90cmくらいの長さの棒を手に取った。

対戦相手の戦士が大声で言った。

「お前のようなか細い少年が伝説のカラテマスターとは信じられんが、それが本当なら俺は手加減無用のはずだ。本気でいくからそのつもりでな」

俺の華奢な少年の見てくれで、ちょっとは加減してもらえるかと思っていたのだが甘かったようである。


ライラ部長が叫んだ。

「さあ、始めてください」


戦士は重い鉄の剣をぶんぶんと振り回しながら、こちらに向かって来た。
さすがに戦士といわれるだけあって、恐るべき腕力だ。

ブーンと空気を斬る音がして剣が俺の頭めがけて飛んできた。

俺はダッキングしてそれをかわす。

こんなものが直撃した日には、俺の頭は粉々になってあたりに脳みそまき散らすことになるだろう。

そのまま相手の攻撃を2度、3度くぐり抜けた。

そのあたりで俺はこう思った。


・・・この世界の武術はやはり、あまり洗練されていないようだ。


俺は剣道には素人だが、それでも分かる。

彼には小手や胴を払ったり、突きを繰り出したりという技がない。

町のならず者たちの格闘術と同様に、繊細な技術が存在しないのだ。

この世界の剣術は重い剣を腕力で振り回して相手を殴り殺すことがすべてらしい。

そしてやはり動きが遅い。

いくら剛力の持ち主とはいえ、こんなに重い防具を着て重い剣と盾を持っていれば動きは鈍る。

軽装の俺にとって、戦士の攻撃をかわすことは容易(たやす)かった。
反撃を考えるゆとりすらある。

俺は戦士が剣を振り上げた隙に、彼の喉元に棒で突きを見舞ってやった。

かなり効いたと思われるのだが、それでも剣を振り下ろしてきたのはさすがに戦士である。

俺はその攻撃を横にかわすと同時に棒で膝裏のあたりをしたたかに殴りつけた。

重い鎧を着た戦士はロボットが倒れるように、ゆっくりと仰向けに倒れた。
倒れた戦士の剣を持った右の手首を踏みつける。

戦士は剣を離したが、左手の盾を俺にぶつけようとしたのだから油断ならない。

俺は地面を転がるように身をかわしながら、戦士の剣を拾いあげた。

戦士はなかなか立ち上がることができないようなので、その首に剣を突きつけた。


「マーカスさん、そこまでです。彼を殺さないでやってください」

ライラ部長の声だ。俺はもちろん戦士を殺す気などない。

そして観客たちの声は今度は明らかに大歓声だった。
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