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第一章:転生と旅立ち
勇者というのは簡単になれるものではないらしい
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ギルドはこの町の中心地にある。
俺の記憶は少しづつ上書きされるのでもどかしいが、この町の名はマリプといいメルディオス王国の南の地、ラミラス地方に在る。
つまり俺はメルディオス王国ギルドの、マリプ町出張所にやってきたわけだ。
ギルドは一般に職業組合と呼ばれるが、この世界のギルドはいわゆるユニオンではなく役所である。
役所というのはどこの世界でも混んでいるものだ。
5つある窓口のひとつに並んだ俺は、2時間近くも待たされた。
「次の方どうぞ」
ようやく俺の順番がやってきた。
長い髪をきれいに編み込んだ、うれしいことに美人の窓口担当者だ。
気が付いたのだが、この世界の女性はとにかく美人が多い。
「こんにちは。まず最初にお名前とご希望の職業があればおっしゃってください」
美人担当者はにこやかな笑顔を見せた。
「はい、名前はマーカスです。希望の職業は・・・」
ここで、ちょっと考えた。
わざわざ転生して、この世界にやってきたのだ。
俺は主人公なのだから、職業と言えばあれに決まっている。
「希望の職業は『勇者』です」
「・・・・」
美人担当者の笑顔が張り付いた。
次の瞬間、周りの人々が残らず大爆笑した。
俺の肩をぽんぽん叩いて腹を抑えて笑っている奴まで居る。
俺は何かおかしいことを言ったのだろうか?
「えー・・おほん。あの混雑してますので、冗談はおやめください」
美人担当者だけがひとり真顔で言う。
「いや、冗談じゃなく『勇者』になりたいんですけど」
美人担当者は困った顔をして説明を始めた。
「本当にご存知ないようですから説明しますね。『勇者』というのは職業ではなく称号です」
「はあ・・」
「勇者になれる職業は戦士(ウォリアー)です。優れた戦士に与えられる称号は、騎士(ナイト)、竜騎士(ドラゴンナイト)そして最高位が勇者(ブレイブ)です。勇者はここ100年以上現れていません」
どうも勇者というのはそう簡単になれるものではないらしい。仕方が無いので希望職種を変えてみた。
「あ、ではその『戦士』でお願いします」
また俺の周りで笑い声が広がった。
「戦士は希望すればすぐになれる職業ではありません。段階があります」
「段階ですか?どういう?」
「まず闘士(グラディエーター)という職業から始めます。闘士(グラディエーター)のうち実力が認められた者だけが武闘師(バトルマスター)という職業になれます。だいたい闘士100人に1人です」
「はあ、それから?」
「武闘師のうち、特に優れた者だけが戦士になれます。これも武闘師100人にひとりくらいですね」
やれやれ、それはかなり道が遠い。
まあ、しかし仕方が無い。
「あの、じゃあ『闘士』でお願いします」
わっ!とまた周りの人々が大笑いしている。
俺は今や、このギルド中の笑いものらしい。
美人担当者が申し訳なさそうに言う。
「闘士というのは人並外れた強力な力が必要です。失礼ですがマーカスさんは華奢すぎて無理だと思います」
そういえば、この世界の俺は華奢な美少年だった。
闘士も諦めなきゃいけないとしたら、かなり思惑と違ってくる。
気を落としている俺に美人担当者が声を掛けた。
「とりあえず、希望職業は保留ということでステータスチェックしましょう。すみませんがこの水晶玉に両手を乗せてください」
俺は言われるままに水晶玉に両手を乗せた。
「ええと・・・レベル1ですね。職業は無職。いままで働いたことは無いんですか?あら、おかしいわ」
美人担当者が顔を曇らせる。
「HPとMPの表示が出ませんね。どうしてかしら?ステータスチェッカーの調子が悪いみたい」
俺は美人担当者に尋ねた。
「表示が出ないというのは、HP、MPがゼロってことですか?」
「いいえ、ゼロならHP:0 MP:0って表示されるはずなんです。表示それ自体が無いなんて普通ありえないのですが・・あれ?えっ?」
美人担当者、こんどは驚きを隠せないといった表情だ。
「スキル:カラテ・・ってまさか?あり得ない。やはりステータスチェッカーがおかしいわ」
「空手ですか?私は空手は一応黒帯を取得しています」
俺が言うと、美人担当者が呆然として俺の顔を見つめた。
周りの人々が今度は笑いではなく、ざわめき始めた。
「カラテ?カラテだと?」
「あの小僧がカラテのブラックベルトだって?まさか?」
なぜみんながこれほど驚いているのか、意味が分からない。
「あの、空手の黒帯がどうかしたんですか?」
そう尋ねると、美人担当者はあれこれ俺には理解できない道具を操作しながら言った。
「確かにスキル:カラテと表示されるのは、ブラックベルトを取得したカラテマスターだけですが、でもそれって信じ難いことなんですよ」
「はあ、どう信じ難いことなんですか?」
「ギルドには1000年分のデータベースが保管されていますが、スキル:カラテと表示されるのはあなた以外にはわずか3人しか居ません。それもすべて前世紀より前の人物です」
「はあ・・・」
「勇者ギチン、勇者ケンワ、そして勇者チョーキ。みんな伝説の勇者ですよ。異国から伝来した武術に改良を加えた超武術カラテを使い、魔王や悪の神官やダークドラゴンを倒し世界を救った勇者たちです」
3人とも聞いたことのある名前だ。転生前の世界では伝説の空手家たちだが、この世界では伝説の勇者の名前になっているらしい。
「しかし100年以上前、歴史上最後の勇者チョーキがダークドラゴンを倒した後、そのあまりの破壊力を恐れたチョーキ自ら封印した秘武術のはずです。それが現代まで伝承されていたなんて信じられません。もしそれが事実なら、マーカスさんは誰からそれを習ったのですか?」
「はあ、中川先生という人ですが」
俺は自分の空手の師匠の名を言った。
「マスター・ナカガワ?そんな人物はデータベースに登録されていません。そうですか・・やはり秘密なんですね。当然ですよね。でも困ったな」
美人担当者はかなり困り果てた顔をしている。
「どうしたんですか?」
「だってこの100数十年間、カラテマスターがギルドに来たことなんか無いんですよ。ましてやレベル1で無職のカラテマスターなんて、どう取り扱えばいいのか私にはわかりません」
思わぬことで就職が難航しそうな気配になったようだ。
俺の記憶は少しづつ上書きされるのでもどかしいが、この町の名はマリプといいメルディオス王国の南の地、ラミラス地方に在る。
つまり俺はメルディオス王国ギルドの、マリプ町出張所にやってきたわけだ。
ギルドは一般に職業組合と呼ばれるが、この世界のギルドはいわゆるユニオンではなく役所である。
役所というのはどこの世界でも混んでいるものだ。
5つある窓口のひとつに並んだ俺は、2時間近くも待たされた。
「次の方どうぞ」
ようやく俺の順番がやってきた。
長い髪をきれいに編み込んだ、うれしいことに美人の窓口担当者だ。
気が付いたのだが、この世界の女性はとにかく美人が多い。
「こんにちは。まず最初にお名前とご希望の職業があればおっしゃってください」
美人担当者はにこやかな笑顔を見せた。
「はい、名前はマーカスです。希望の職業は・・・」
ここで、ちょっと考えた。
わざわざ転生して、この世界にやってきたのだ。
俺は主人公なのだから、職業と言えばあれに決まっている。
「希望の職業は『勇者』です」
「・・・・」
美人担当者の笑顔が張り付いた。
次の瞬間、周りの人々が残らず大爆笑した。
俺の肩をぽんぽん叩いて腹を抑えて笑っている奴まで居る。
俺は何かおかしいことを言ったのだろうか?
「えー・・おほん。あの混雑してますので、冗談はおやめください」
美人担当者だけがひとり真顔で言う。
「いや、冗談じゃなく『勇者』になりたいんですけど」
美人担当者は困った顔をして説明を始めた。
「本当にご存知ないようですから説明しますね。『勇者』というのは職業ではなく称号です」
「はあ・・」
「勇者になれる職業は戦士(ウォリアー)です。優れた戦士に与えられる称号は、騎士(ナイト)、竜騎士(ドラゴンナイト)そして最高位が勇者(ブレイブ)です。勇者はここ100年以上現れていません」
どうも勇者というのはそう簡単になれるものではないらしい。仕方が無いので希望職種を変えてみた。
「あ、ではその『戦士』でお願いします」
また俺の周りで笑い声が広がった。
「戦士は希望すればすぐになれる職業ではありません。段階があります」
「段階ですか?どういう?」
「まず闘士(グラディエーター)という職業から始めます。闘士(グラディエーター)のうち実力が認められた者だけが武闘師(バトルマスター)という職業になれます。だいたい闘士100人に1人です」
「はあ、それから?」
「武闘師のうち、特に優れた者だけが戦士になれます。これも武闘師100人にひとりくらいですね」
やれやれ、それはかなり道が遠い。
まあ、しかし仕方が無い。
「あの、じゃあ『闘士』でお願いします」
わっ!とまた周りの人々が大笑いしている。
俺は今や、このギルド中の笑いものらしい。
美人担当者が申し訳なさそうに言う。
「闘士というのは人並外れた強力な力が必要です。失礼ですがマーカスさんは華奢すぎて無理だと思います」
そういえば、この世界の俺は華奢な美少年だった。
闘士も諦めなきゃいけないとしたら、かなり思惑と違ってくる。
気を落としている俺に美人担当者が声を掛けた。
「とりあえず、希望職業は保留ということでステータスチェックしましょう。すみませんがこの水晶玉に両手を乗せてください」
俺は言われるままに水晶玉に両手を乗せた。
「ええと・・・レベル1ですね。職業は無職。いままで働いたことは無いんですか?あら、おかしいわ」
美人担当者が顔を曇らせる。
「HPとMPの表示が出ませんね。どうしてかしら?ステータスチェッカーの調子が悪いみたい」
俺は美人担当者に尋ねた。
「表示が出ないというのは、HP、MPがゼロってことですか?」
「いいえ、ゼロならHP:0 MP:0って表示されるはずなんです。表示それ自体が無いなんて普通ありえないのですが・・あれ?えっ?」
美人担当者、こんどは驚きを隠せないといった表情だ。
「スキル:カラテ・・ってまさか?あり得ない。やはりステータスチェッカーがおかしいわ」
「空手ですか?私は空手は一応黒帯を取得しています」
俺が言うと、美人担当者が呆然として俺の顔を見つめた。
周りの人々が今度は笑いではなく、ざわめき始めた。
「カラテ?カラテだと?」
「あの小僧がカラテのブラックベルトだって?まさか?」
なぜみんながこれほど驚いているのか、意味が分からない。
「あの、空手の黒帯がどうかしたんですか?」
そう尋ねると、美人担当者はあれこれ俺には理解できない道具を操作しながら言った。
「確かにスキル:カラテと表示されるのは、ブラックベルトを取得したカラテマスターだけですが、でもそれって信じ難いことなんですよ」
「はあ、どう信じ難いことなんですか?」
「ギルドには1000年分のデータベースが保管されていますが、スキル:カラテと表示されるのはあなた以外にはわずか3人しか居ません。それもすべて前世紀より前の人物です」
「はあ・・・」
「勇者ギチン、勇者ケンワ、そして勇者チョーキ。みんな伝説の勇者ですよ。異国から伝来した武術に改良を加えた超武術カラテを使い、魔王や悪の神官やダークドラゴンを倒し世界を救った勇者たちです」
3人とも聞いたことのある名前だ。転生前の世界では伝説の空手家たちだが、この世界では伝説の勇者の名前になっているらしい。
「しかし100年以上前、歴史上最後の勇者チョーキがダークドラゴンを倒した後、そのあまりの破壊力を恐れたチョーキ自ら封印した秘武術のはずです。それが現代まで伝承されていたなんて信じられません。もしそれが事実なら、マーカスさんは誰からそれを習ったのですか?」
「はあ、中川先生という人ですが」
俺は自分の空手の師匠の名を言った。
「マスター・ナカガワ?そんな人物はデータベースに登録されていません。そうですか・・やはり秘密なんですね。当然ですよね。でも困ったな」
美人担当者はかなり困り果てた顔をしている。
「どうしたんですか?」
「だってこの100数十年間、カラテマスターがギルドに来たことなんか無いんですよ。ましてやレベル1で無職のカラテマスターなんて、どう取り扱えばいいのか私にはわかりません」
思わぬことで就職が難航しそうな気配になったようだ。
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