団地の神様

冨井春義

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俺の神様

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 あれからもう1年にもなるが、今でも勇斗は俺の祠に毎日のように参ってくれている。
 お礼参りをここまで続けてもらえる神様は、大きな社の神様でもそう多くはあるまい。
 しかも最近では勇斗の母親、恵美と佐藤も勇斗と一緒に祠に参ってくれるようになった。
 なんのかんのいって、どうやら恵美と佐藤は出来ているらしい。
 やっと暴力男と切れたと思ったら次は三文文士とは、恵美という女はあまり男運が良くなさそうだ。
 しかし勇斗も佐藤に懐いているようだし、服装も小綺麗になって幸せそうに見える。
 結果としてこれで佐藤の願も叶ったわけだから、俺も神様としての務めは果たせたんじゃないかな。

「神様、実は今日はお伝えしたいことがあるんです」
 祠の前で手を合わせながら佐藤がそう言った。
 なんだ、お前らが結婚するとかそういう報告か?
「失礼かと思ったんですが、僕、神様の事を調べたんです。神様は60年近く前に亡くなられた酒田満彦さんですよね?」
 酒田?すっかり忘れていたが、そんな名前だった気がする。
「若くして妻子を残して亡くなられたから、心残りなんじゃないかと思って」
 確かに心残りだった。
 勇斗の願を叶えたいと思ったのも、勇斗に息子の面影を見たからに違いない。
「奥様の静子さんは、残念ながらもう亡くなられていました。でも92歳で天寿を全うされてます。生涯独身だったみたいです」
 静子。あれには苦労ばかりかけてしまった。
 器量は良かったんだから、いい男見つけりゃよかったのに。 
 俺は女房の顔を思い出して泣きたくなったが、あいにく体が無いので涙も出ない。
 「それから息子さんの晴彦さんですけどね、ご存命ですよ、70歳過ぎてますがお元気で、3人のお子さんと5人の孫に恵まれてます。つまり神様には曾孫が居ます」
 あのチビ助に孫が居るって?
 あはは、俺は曾祖父ひいじじいなのか。
「それでね、神様。会いに行きませんか?もう一度、僕に憑依して」
 なんということだ。
 俺はずっと妻子の消息が気がかりだった。
 それを知ることが最大の願いだったんだ。
 その願いを、佐藤が叶えてくれた。
 佐藤、お前こそ俺の神様だよ。
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