団地の神様

冨井春義

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祟る

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 「木村ぁ!お前、見掛け倒しだな。もう終わりか?かかってこいよ」
 佐藤が木村を見下すように挑発すると、木村は唸り声を上げながらゆっくりと立ち上がった。
 『よし佐藤、走れ!』
 俺が声を掛けると佐藤は走り出した。
「まてコラ!殺してやるぞ、待ちやがれ」
 目論見どおり木村が追いかけてくる。
 佐藤はあまり走るのが得意なタイプではなさそうだが、木村も股間を痛撃されているため、それほど速くは走れないようだ。
 『佐藤がんばれ!祠まで、鳥居をくぐったらゴールだ』
 俺の祠の前にある小さな古ぼけた鳥居をくぐったあたりで、木村は佐藤に追い着き、佐藤の襟を掴んで引き倒した。
 倒された佐藤は息を切らして苦しそうにしている。
「神様、僕はもうこれ以上無理・・・」
 俺はここまで頑張った佐藤を労った。
『ご苦労だったな、よくやった。ここは俺の神域だ。後は俺に任せろ』

「何をまた独り言言ってやがる?約束どおり殺してやるよ。お前を殺したら、あの母子も殺して、全員ここに埋めてやるぜ。どうせここの団地の連中は見て見ぬふりだからな」
 これが木村の人生最後の脅し文句になった。
 俺は佐藤の口を借りて木村に宣告した。
「お前は俺の神域を穢した。お前の生涯にわたって祟ってやる!」
 木村の足元の土から数十本の亡者の腕が、まるでゾンビ映画のように突き出し、木村を地獄に引きずり込んだ。
 ここから木村は、とても言葉で言い表せないような恐怖を味わい尽くした。
 俺が神域を侵した祟りとして、奴の頭の中を引っ掻き回してやったのだ。
 数分後、虚ろな目をして呆けた顔の木村が、祠の前の地べたに転がっていた。
 木村はこれから一生、俺の祟りによる恐怖に付きまとわれる事になる。
 小さな影に怯え、猫の歩く音にも怯えて生きることになるだろう。
 もちろん、この団地に近づくことなど、もう二度と出来まい。

『佐藤、大丈夫か?』
「はい。神様、もう終わったんですか?」
『ああ終わった。もうあの母子は安全だ。これもすべて佐藤、お前の働きのおかげだ』
「よかった・・・あの、神様、約束は忘れてないですよね?」
『ああ、あれな。まあ心がけておくよ』
「ちょ、ちょっと。神様、ちゃんと面倒見てくださいよ。ってば神様?」
 俺は憑依していた佐藤から離れ、祠に戻った。
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