上 下
26 / 42

鉛管と頭部模型

しおりを挟む
「御影君、要望の品だ」

 真壁博士が研究室の棚から持ち出した木箱を、部屋の中央にある大きなテーブルの上に置いた。
 御影が早速、中身を取り出す。

 それは人間の頭部の模型だった。
 透明な材質で出来ていて、頭骨や歯や眼球、そして脳や血管が透けて見える。

「博士、これは素晴らしい!宮下君も見たまえ。そして記憶するんだ。人間の脳の構造をね」

 御影は模型を指さして、真奈美に向かって説明を始めた。

「これは内部はラテックスで出来ていて、脳も半透明に作ってある。左右の大脳の中央に小さな赤い豆粒のような物が見えるだろう?これが松果体だ」

「はい、これが松果体ですね。赤いのは分かりやすくするために着色しているんですか?」

「うん、実際は赤いわけではないが、この位置をよく覚えるんだ。本番では相手の頭部を透視するわけだが、素早く松果体を探さなければならないからね」

 真奈美は模型をよく観察して松果体の位置を記憶した。
 しかしよく考えてみると問題がある。

「あの~御影さん、私、透視って出来ないんですよね」

 御影はいつものように笑みを浮かべた。

「大丈夫、出来るよ。『サトリ』の能力と透視は近しい能力なんだ。博士、例の鉛管を用意していただけますか?」

「ああ、鉛管ね。ちょっと待ってくれ」

 真壁博士はデスクの引き出しをごそごそと掻きまわし、クッキーの缶箱を取り出した。
 その間箱をテーブルに置き、蓋を開け、中から5~6cmほどにカットされた金属の板のような物を数枚取り出した。
 それをひとつづつテーブルに並べながら説明する。

「これは1910年(明治43年)、この大学で最初の超能力実験に使用された物を復元したものだ。鉛で出来た管の中に文字を記した紙が入っている。鉛だからX線でも透視できないのだが、当時の被験者はことごとく透視して見せたんだ」

 真壁博士の説明を聞きながら、真奈美は鉛管を凝視してみた。
 しかし、何も見えてはこない。

「1974年の実験では御影君にも透視できなかったんだ。でも20年前だっけ?あの時には見事に成功したな。君のように成人してから能力が高まる者は珍しい」

 ・・・それはスリランカのお寺での修行の成果なのかしら。。

 真奈美は思った。

 御影は鉛管のひとつを手に取ると、まるで眉間にあるもう一つの目で見つめるように顔の前にかざした。

「・・・ああ、これは文字が書かれた紙じゃない。仮面ライダー・カードだ。それも仮面ライダーXか。懐かしいな」

 鉛管の端を金切りばさみで切ると、果たして中からは仮面ライダー・カードが出てきた。

「すごい!」真奈美は驚きの声を上げた。

「宮下君、驚いてもらっちゃ困るよ。まずは君もこれが出来るように訓練するんだ。僕はそっちの生首に挑戦する」

 そういうと御影は、頭部模型に革のカバーを被せた。

「この状態で透視して、正確に松果体だけを潰さなきゃいけないんだ。他の組織や神経・血管を傷つけないように慎重にやらねば」

 御影はサイキック能力を悪用した連続殺人犯である東心悟に対しても可能な限り傷つけず、サイキック能力だけを奪おうとしている。
 真奈美は、御影が過去に人を殺したことがあるのではないかと疑っていたことを恥じた。

「予告の日まであと3日しかない。これから毎日ここに来て訓練するからそのつもりで」

 御影は真奈美にそう言い放った。

「これがすぐに上手くできるようになれば、予告の日に総理の警護は必要なくなるんだけどね。当日までに間に合わない場合は僕が全力で総理を守り、後日これを実行する」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

マスクドアセッサー

碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作が裁判員に選ばれて1つの事件に出会う事から始まるミステリー小説 朝比奈優作シリーズ第5弾。

彼女が愛した彼は

朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。 朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。

戦憶の中の殺意

ブラックウォーター
ミステリー
 かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した  そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。  倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。  二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。  その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。

濁った世界に灯る光~盲目女性記者・須江南海の奮闘Ⅱ~

しまおか
ミステリー
二十九歳で盲目となり新聞社を辞めフリー記者となった四十四歳の須依南海は、左足が義足で一つ年上の烏森と組み、大手広告代理店が通常のランサムウェアとは違った不正アクセスを受けた事件を追う。一部情報漏洩され百億円の身代金を要求されたが、システムを回復させた会社は、漏洩した情報は偽物と主張し要求に応じなかった。中身が政府与党の政治家や官僚との不正取引を匂わせるものだったからだ。政府も情報は誤りと主張。圧力により警察や検察の捜査も行き詰まる。そんな中須依の大学の同級生で懇意にしていたキャリア官僚の佐々警視長から、捜査線上に視力を失う前に結婚する予定だった元カレの名が挙がっていると聞き取材を開始。しかし事件は複雑な過程を経て須依や烏森が襲われた。しかも烏森は二度目で意識不明の重体に!やがて全ての謎が佐々の手によって解き明かされる!

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...