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17.羅生門の小鬼
しおりを挟む「ヤジリ。危ない!」
烈火の叫び声が響いた。
子供程の大きさの陰は、ヤジリに飛び掛かってきた。
ヤジリは、攻撃を回避しようと身を捻った。だが、鋭い爪がヤジリの脇腹を切り裂いた。
「ぐあ」
ヤジリから悲鳴が上がった。
「ヤジリ!」
「大丈夫だ。それよりも、助彦を安全な所に下がらせろ!」
「でも!」
「これぐらい、一人でも倒せる」
『随分と舐められたものですな』
くぐもった、聞き取りにくい声が聞こえた。
一瞬誰の声かわからなかったが、声の主は自らなのりを上げた。
『鬼が言葉を発する事に驚きですか?低級しか相手にしてこなかった証拠ですな』
声を発していたのは、先ほどヤジリの脇腹を切り裂いた子鬼だった。
「鬼が言葉を発せられることぐらい知っている。ただ、あまりにひどい声だったので、驚いただけだ!」
『これは、失敬。あなたは、あのお方のお気に入り。鬼が言語を話せることなどすでにご承知でしたね』
「あのお方とは、誰だ?」
『おやご存じない?前日そこの小さな方とあのお方は、対話していましたよ。仲間なのに、何も聞いていないのですか?』
「助彦何を知っている!何を隠している!」
ヤジリの怒りの視線が、助彦に向けられる。
「助彦!」
ヤジリの怒鳴り声が辺りに響いた。
『仲間通しの争いですか。結構。結構。こちらとしましては、好都合ですよ』
子鬼は、指を鳴らすと、大勢の子鬼が姿を現した。
「ヤジリ!助彦と喧嘩している場合じゃないだろ。今は、この鬼を退治しないと」
「わかっている」
ヤジリは、苛立ちながらも、素早く懐から札を取り出し戦闘の準備を整えた。
『おや、戦闘ですか?もとよりこちらもそのつもり。あのお方の権限であなたを害する事を制限されてきましたが、あのお方の真偽を知った今、もはやその気遣いは不要。あなたを亡き者にして、その首を頂戴致しましょう』
「狙いは、ヤジリか!」
「我は貴様などに遣られん。遣られる前に貴様を倒す」
烈火は、刀を抜き、子鬼達を牽制して、ヤジリに近寄らせないように動く。助彦は、松明を持って二人の邪魔にならない位置に移動した。
札には、書かれた文字によってさまざまな効力がある。術者の能力が高いほど、呪詛の暗唱時間は短縮出来き、術の効力が高いほど、呪詛の暗唱時間は長くなる。
ヤジリの使用している札はかなり高度な術式だ。その分、精神的な負担も大きい。
ヤジリは、短く呪文を唱え、子鬼に札を張り付ける。札を張り付けられた鬼は、苦しげな悲鳴を上げ、黒い煙となって闇に溶けるように消滅した。
ヤジリの脇腹の傷口から、血が服に滲み出ている。その血を目指すかのように、子鬼達は、ヤジリに集中攻撃をしかける。
「ちっ。きりがないな。次から次に湧いてくる」
動き回る烈火の額には、汗が滲んでいた。
「まったくだ。いったい何匹いるんだ」
ヤジリも札を片手に持ちながら、子鬼の多さに圧倒されていた。
『おや、思っていたよりも弱いですね。次期帝候補者』
喋る子鬼が、烈火の刀を避け、ヤジリ胸元に飛び込んだ。
「うっ」
『これで終わりです。次期帝候補者』
鋭い爪がヤジリに襲い掛かる。
「ヤジリ!」
間に合うはずがないと分かっていながらも、助彦はヤジリに駆け寄った。
接近し過ぎて敵の攻撃を避けきれないヤジリの胸に子鬼の爪が突き刺さると誰もが諦めかけた時、青白い光を放つ蝶の群れが突如、ヤジリと子鬼を遮るように出現した。
そして、子鬼の鋭く尖った爪ごと子鬼をヤジリから引きはがす防御璧となった。
蝶が作り上げた結界に弾き飛ばされた子鬼が何とか体制を整えて地面に着地した。
『ちっ。邪魔が入りましたか』
気が付くと蝶の群れがヤジリだけでなく、烈火と助彦の周りにも守るように群がっていた。
『幽閉されても力は健在ですか。帝の血を持つ巫女よ』
喋る子鬼は、悪態を付く他の鬼を下がらせた。
『今日の所は撤退させて頂きます。ですが次にお会いするときには、その命頂戴致します』
「待て」
烈火が鬼達を追いかけるよりも早く、鬼達は闇に姿を晦ました。
「逃がしたか」
ヤジリも、取り逃がしたことに悔しげに呻いた。
三人を守るように飛んでいた青白い光を放つ蝶も光の粒になって消え失せた。
助彦は、青白い光を放っていた蝶が京の使いだと気付いていた。
だから、思わずつぶやいた。
「ありがとう。京さん」
助彦のつぶやきを耳にしたヤジリが怪訝な表情をした。
「なぜ、鬼女京に感謝を述べる?」
「えっと、それは」
「我に、何を隠している?」
先ほどの話の続きを教えろとでも訴えるような態度で助彦を見下ろす。
「なあ。貴様は、何者だ?」
「えっと」
「答えろ。式神!」
ヤジリが、命令した途端、助彦に異変が起きた。
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