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6.ヤジリは理想の姿?
しおりを挟む「って。ちょっと待てよ。おれは、ただの中学生だ。鬼退治なんて出来ないぞ!」
「退治するのは、ヤジリの役割だよ。まあ、足止めとか支援は、式神の仕事だけど」
「む~~~」
助彦が、ふくれてうなっていると、烈火が噴き出した。
「お前、変な顔するな」
「笑うな!」
むきになって反論すると、何が面白いのか、烈火がさらに笑った。
「悪いな。その顔で変顔されるとおかしくって」
「ヤジリに似ているから?」
助彦が、恐る恐る聞くと、烈火は頷いた。
「ああ、あいつは、すねたり、笑ったりするような奴じゃないからな」
「?」
「楽しそうだな。烈火」
いつの間に居たのだろう。
ヤジリが、静かに佇んでいた。
「お前こそ遅かったじゃん。寄り道?」
「まあな。……それよりも、主人を呼び捨てとは、大した度胸だな。助彦?」
ヤジリが、淡々とした口調で睨みつける。ちょっと怖い。
「まあまあヤジリ。助彦を睨むなよ。こいつなにも知らないんだぜ。世間知らずにも程があるだろ?」
「鬼の手先ならば、人間の事を知らなくても致し方ないと思うが」
「なんだよ。お前様付けしなければいけない程偉いのかよ!てか、おれ鬼の手先なんかじゃねーし。勝手な事言うなよ!」
「ほお。貴様の主は我のはずだが。口応えとは、無礼にも程がある」
ヤジリは、腰に吊るした刀を鞘から抜き出した。
研ぎ澄まされた刃が、ギラギラと光っている。
「おい、待てよ。ヤジリ!」
慌ててヤジリと助彦の間に入って止める烈火。
だが、ヤジリは、思考がどっかに言ってしまっているのか、ぶつぶつと独り言を呟く。
「菊之介様は、優しすぎるのだ。鬼の手先とわかっていながら、野放しにして敵の手を探るなど。いつ帝に刃を向けるかわからぬ者は、この場で始末してしまえばいい」
「待てよ。こいつを連れて来たのお前だろ!」
「菊之介様の命令は絶対だ。だから、あの時は従った。だが今は、我が主はいない」
鋭く光る刃は、振り下ろされる。
助彦は、転がりながら、何とか刃を避けた。
畳に刺さった刀を抜き再度、降り上げようとするヤジリ。その足元に烈火がしがみ付いた。
「ひとまず逃げろ。助彦!」
「烈火。どうして鬼の手先を庇う」
「ヤジリ。お前こそどうしたんだよ。契約した式神を傷つけることは、自分自身を傷つける事と同じなんだぞ。陰陽師の学び屋で習っただろ」
「くっ」
ヤジリは、悔しそうに刀を鞘に納めた。
「今回は、烈火に免じて許してやる。だが今後無礼な口を聞いたら……」
「ヤジリ」
ヤジリが鋭い目つきで睨みつけて来た。
その視線にひるみそうになる。だが、心の奥から湧きあがった言葉をどうしても今伝えたかった。
「ここが、何処なのかおれには、未だにわからない。おれは、普通の中学生だったから。でも、ヤジリは、おれが夢にまで見た、大人になった自分の理想の姿をしているんだ」
すらりとした足。
高い身長。
ずっと憧れていた。
だから不思議な空間で伸ばされた手を掴んだ。
「だからヤジリ。勝手かもしれないけど、理想の姿のお前には、笑っていてほしいんだ。頼むからそんな怖い顔するなよ」
ヤジリの目が見開かれる。
ヤジリは、頭を抱えた。
『ヤジリ。お願いだ。笑ってくれ。あの時のように、もう一度心からの笑顔を見せてくれ……』
前に、似た言葉を言われた気がした。
だが、ヤジリは、それが誰だったのか思い出せない。
「勝手に言っていろ」
ヤジリは、早足で頭を抱えながら出て行った。
「……ヤジリ」
苦しそうなヤジリが、立ち去るのを畳の上で見送った。
「お前根性あるな」
「わっ」
烈火が、助彦に抱きついてきた。
「烈火。苦しい」
「いやー久しぶりにあいつが、参るのを見たよ」
「ヤジリ大丈夫なのか?」
「刀で切られそうになったのは、お前だろ。まずは、自分の心配をしろよ」
「でも、ヤジリ頭が痛そうだったし」
「ああ、時々、頭が痛くなることがあるらしい」
烈火は、悲しそうに遠くを見た。
「なあ、ここのこと、何にも知らないんだよな。おれが案内してやるよ」
「いいのか?」
「ああ、お前面白いし。ヤジリにあそこまで口応え出来るやつ珍しいし」
「そうなのか?」
「ああ。あいつは、陰陽師の才能はあるんだけど、自分より下の人間は見下す癖があるから好かれないんだよ。おまけに愛想もないから、本当、助彦の言う通りもっと笑えばいいのにな」
「そうだな」
同意見に二人で微笑んだ。
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