盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第十二章 決戦

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「わたしは、誰かに、辛さを分かってほしい訳じゃない。
 ただ、そばに誰かいてほしかっただけ。
 あなただって、クリア水晶だって、同じ想いでしょ?
 孤独が辛いから、闇に染まってしまったのでしょう?」

 届いてほしい。
 全てでなくていい。
 ただ、気持ちが届いてほしい。
 ルイと手を繋いだ所が、温かくて、頼もしい。

『わたしの、名前……。呼んでくれるのね』

 風の大精霊は、ゆっくりと上半身を起こす。

『でも、もう戻れない。みんなのところには、いけない』
『戻れます。その為に、私は、ここにいるのですから』

 ラセの肩に乗っていたセントミアが、地面に着地する。

『水の大精霊は、あなたを心配していました。
 そして、あなたを一人残した事を後悔していました』
『ブルー水晶が……わたしの事を……』
『クリア水晶は、孤独でも、一人でもありません。
 皆が、あなたの帰還を待っています』

 セントミアが、風の大精霊に近づく。
 セントミアの足が、魔法陣に触れた途端、魔法陣から黒い糸が伸びる。

「セントミア!」

 咄嗟に、ルイの手を振りほどき、駈け出したラセは、短槍を振り下ろす。
 しかし、短槍が触れた瞬間、ラセは、気を失い、地面へと倒れる。

「ラセ!」

 ラセに駆け寄ろうとしたルイを、ロンが引き留める。
 魔法陣の上に昏睡状態で倒れこんだセントミアとラセ。

『あ、ああ』

 風の大精霊は、顔を覆って泣き出した。

「……どうなっているんだ?」

 セントミアが倒れこんだ事により、闇化を防ぐ結界が紛失する。
 そのタイミングを見計らったかのように、闇化精霊達が、あふれ出す。
 無言で立っていたウェイルが、ラセの髪に触れる。

「ようやく、僕のものになったね。ラセ」

 正気を失った不気味な笑みを浮かべるウェイルをルイは蹴り倒した。

「ふざけんな!」

 尻餅をついたウェイルが、ルイを見上げる。

「ふざけるな!」

 ルイは、ウェイルの胸倉をつかむ。

「ラセが、大切じゃないのかよ。だったらなんで、ラセを危険な目に会わせるんだ!」

 ウェイルは、ルイから視線を逸らす。

「君には、わからないよ。大人の恋は……」
「大人とか、子供とか、関係ないだろ!ラセを元に戻せよ!」

 ルイは、ウェイルを揺さぶる。
 その間にも、闇の霧は部屋に充満する。
 闇の霧の影響で、身体が重い。
 精神状態が、目の前にいるウェイルの憎しみで支配されそうだ。

 頭が、朦朧とする。
 ウェイルを掴む腕に力が入らない。
 せっかくここまで来たのに、何も出来ないのか?
 ルイが、意識を失いかけた時、指に、何かをはめられた。
 身体と精神が楽になるのを感じたルイは顔を上げた。
 目の前には、心配顔のロン。

 指には、フォーチューン国の国家の指輪。
 海の加護を宿した婚約指輪。
 先日ウェイルが外した指輪をロンが見つけて付けたくれたようだ。
 海の加護のおかげで、正気を保てたルイは、ウェイルが居ないことに気付いた。
 ロンの指差す方向を見ると、ラセの近くにウェイルが居る。
 再度ラセとウェイルを引きはがそうとしたルイは、ラセの表情を見て固まってしまった。

 ラセはウェイルに頭を撫でられて、幸せそうな顔をしている。
 ルイが知っているラセの表情の中で一番いい笑顔をしている。

 ラセの望みはウェイルを解放することだった。

 ずっと、ウェイルの事だけを見ていて、真っ直ぐで一生懸命で危なっかしいラセを支えたいと思った。
 でも、ルイがラセと一緒に居たのは、ただ単にルイが傍に居たかっただけだ。
 ウェイルよりも、傍に居て、ウェイルよりも優しくして、楽しい時間を共有したと思っていたのは、傲慢だったのだろうか?
 ルイが自信を失いかけていると、身体を揺すられた。

『本当に、このままでいいのか?
 歪んだやり方が、正しいと思っているのか?』

 ロンの問いで、ルイは目を覚ます。
 こんなの、本当の幸せじゃない!

「ラセ!」

 ルイは、ラセの手を握りしめる。
 その瞬間。ラセのペンダントから、黒い短槍が飛び出した。
 
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