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海賊編 第十一章 黒煙竜
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神殿は、元黒煙竜の住処だけあって、上空から侵入出来る仕組みになっていた。
竜の姿のままでも、余裕で通れる広い通路を進んでいくと、神域へとやって来た。
所々に、黒煙竜の象が飾られており、床は、黒い大理石だ。
正面には、広い台座があり、寝転がった髪の長い女性がいる。
闇の霧を体にまとわせている女性は、ラセ達に気付くと、上半身を起こした。
「……あなたが、風の大精霊?」
ラセの呼び声に答えて、風に乗って声が運ばれる。
『かつて、そう呼ばれた事もある。けれども、真の名は、違う。
誰も、わたしの真の名を呼んでくれない。
誰も、迎えに来てくれない。
あの時、わたし一人で、この地に残るべきではなかった』
「真の名?」
悲しそうな表情を浮かべる風の大精霊。
ラセは、風の大精霊の真意がつかめなくて、困惑する。
『あなた達に、わたしの孤独、悲しみはわからない!』
風の大精霊が、叫ぶと、巨大な闇の塊が現れた。
真っ黒に覆われた闇の塊は、風の大精霊と、ラセ達の間に立ちふさがる。
と、同時に、闇の塊の周りに強風が吹き荒れる。
闇の塊から、火の鞭が出現して振り下ろされる。
黒煙竜が、当たらないように間を取ると、後方に、岩礫が降り注ぐ。
出入り口が塞がれた事に、黒煙竜が舌打ちした。
背後に気を取られていたせいか、前方から忍び寄る無数の蔓に、身体をからめ捕られる。
身動きの取れなくなった、黒煙竜が吠える。
目の前に迫る闇の塊に、口からブレスを吐き出す。
闇の塊が放った、水しぶきに視界を遮られて、ブレスは直撃しなかった。
『つ、強い』
「黒煙竜でも、敵わない相手なのか?」
「五属性魔法の魔物?」
『いや違う。風、火、地、木、水の五つの精霊が闇化した集合体だ』
「おい、そんなのありかよ」
「黒煙竜。逃げられそう?」
黒煙竜が、足を動かすが、蛇のように蠢く蔓は、外れそうになかった。
『私に任せて下さい』
今まで黙って様子を見守っていたセントミアの身体が、珊瑚色に輝く。
セントミアの光が、眩しいのか、闇の塊が動きを停止した。
緩んだ蔦をブレスで焼き払った黒煙竜は、再び自由の身を取り戻した。
「ありがとう。セントミア」
セントミアの機転のお蔭で、危機を脱出することが出来た、ラセは抱き着いた。
『まだ、闇の塊は蠢いています。気を付けて』
『今度こそ。ブレスを当てる!』
黒煙竜が、大きく口を開けて、ブレスを解き放つ。
ブレスが直撃した闇の塊は、五つの精霊に別れて、地面にくずれこんだ。
それと、同時に通路を塞いでいた岩も姿を消す。
黒ずんで動かなくなった精霊達から、顔を背けて、ラセは正面にいる風の大精霊を再度見据える。
その時、パチパチと拍手を鳴らす場違いな音が響いた。
「おめでとう。まさか、五つの精霊集合体を差し向けても、生き残っているなんて、さすが黒煙竜。一筋縄ではいかないね」
柱の影から姿を現したのは、見慣れた砂色の髪の青年だった。
だが、いつも以上に、闇の霧を体内から放っている。
「ウェイル。どうして、ウェイルが、妨害してくるの?」
「どうして?愚問だよ。僕を追いかけてくれるのは、僕のお姫様だけで、よかったんだ。
他の者など、いらない」
「ウェイル?ウェイルが、何をしたいのか、わからないよ」
「僕は、君だけが、居ればよかったんだ。
それなのに、君は、僕以外の人と仲良くなって」
ウェイルは、ルイと黒煙竜を睨み付けた。
「勇敢なお姫様が、捕らわれの王子様を求めて奮闘する。
素敵なお話だったはずなのに、台無しだよ」
ウェイルは、台座に居る、風の大精霊へと、手を振れる。
ラセは、ウェイルが、風の大精霊の正確な位置を把握していることに違和感を覚える。
そして、ラセの予想は的中した。
「やっと、ラセと同じように、風精霊も見えるようになったのに」
ウェイルが、風の大精霊の肩を抱く。
闇化して虚ろな表情をしている風の大精霊は、ウェイルを拒まない。
それどころか、寂しさを紛らわすように、身を寄せる。
「もっと、早く気付いていたらよかった。
そうしたら、闇の霧に侵されたふりなど、しなくてよかったのに」
ウェイルは、指を見つめる。
「ラセ。僕は闇化した風の大精霊を手懐ける事に成功したんだ。だから」
ウェイルが、自らの指に嵌められている、指輪を外す。
「何者にも従わずに、二人だけで生きて行こう」
「ウェイル、駄目――――――――――――――――――――――――――――――!」
ラセの悲鳴が、響いたと同時に、闇化した精霊達が、ウェイルに群がった。
大量の闇化精霊が押し寄せる。
『ひとまず、退散しよう』
「でも、ウェイルが!」
暴れて黒煙竜から落とそうになるラセをルイは必死に抱きしめる。
「ラセ。落ち着くんだ」
黒煙竜が台座から、遠ざかる。
闇化精霊に取り囲まれて、既にウェイルの姿は確認できない。
それでも、ラセは喉が枯れるまで、ウェイルの名前を呼び続けた。
竜の姿のままでも、余裕で通れる広い通路を進んでいくと、神域へとやって来た。
所々に、黒煙竜の象が飾られており、床は、黒い大理石だ。
正面には、広い台座があり、寝転がった髪の長い女性がいる。
闇の霧を体にまとわせている女性は、ラセ達に気付くと、上半身を起こした。
「……あなたが、風の大精霊?」
ラセの呼び声に答えて、風に乗って声が運ばれる。
『かつて、そう呼ばれた事もある。けれども、真の名は、違う。
誰も、わたしの真の名を呼んでくれない。
誰も、迎えに来てくれない。
あの時、わたし一人で、この地に残るべきではなかった』
「真の名?」
悲しそうな表情を浮かべる風の大精霊。
ラセは、風の大精霊の真意がつかめなくて、困惑する。
『あなた達に、わたしの孤独、悲しみはわからない!』
風の大精霊が、叫ぶと、巨大な闇の塊が現れた。
真っ黒に覆われた闇の塊は、風の大精霊と、ラセ達の間に立ちふさがる。
と、同時に、闇の塊の周りに強風が吹き荒れる。
闇の塊から、火の鞭が出現して振り下ろされる。
黒煙竜が、当たらないように間を取ると、後方に、岩礫が降り注ぐ。
出入り口が塞がれた事に、黒煙竜が舌打ちした。
背後に気を取られていたせいか、前方から忍び寄る無数の蔓に、身体をからめ捕られる。
身動きの取れなくなった、黒煙竜が吠える。
目の前に迫る闇の塊に、口からブレスを吐き出す。
闇の塊が放った、水しぶきに視界を遮られて、ブレスは直撃しなかった。
『つ、強い』
「黒煙竜でも、敵わない相手なのか?」
「五属性魔法の魔物?」
『いや違う。風、火、地、木、水の五つの精霊が闇化した集合体だ』
「おい、そんなのありかよ」
「黒煙竜。逃げられそう?」
黒煙竜が、足を動かすが、蛇のように蠢く蔓は、外れそうになかった。
『私に任せて下さい』
今まで黙って様子を見守っていたセントミアの身体が、珊瑚色に輝く。
セントミアの光が、眩しいのか、闇の塊が動きを停止した。
緩んだ蔦をブレスで焼き払った黒煙竜は、再び自由の身を取り戻した。
「ありがとう。セントミア」
セントミアの機転のお蔭で、危機を脱出することが出来た、ラセは抱き着いた。
『まだ、闇の塊は蠢いています。気を付けて』
『今度こそ。ブレスを当てる!』
黒煙竜が、大きく口を開けて、ブレスを解き放つ。
ブレスが直撃した闇の塊は、五つの精霊に別れて、地面にくずれこんだ。
それと、同時に通路を塞いでいた岩も姿を消す。
黒ずんで動かなくなった精霊達から、顔を背けて、ラセは正面にいる風の大精霊を再度見据える。
その時、パチパチと拍手を鳴らす場違いな音が響いた。
「おめでとう。まさか、五つの精霊集合体を差し向けても、生き残っているなんて、さすが黒煙竜。一筋縄ではいかないね」
柱の影から姿を現したのは、見慣れた砂色の髪の青年だった。
だが、いつも以上に、闇の霧を体内から放っている。
「ウェイル。どうして、ウェイルが、妨害してくるの?」
「どうして?愚問だよ。僕を追いかけてくれるのは、僕のお姫様だけで、よかったんだ。
他の者など、いらない」
「ウェイル?ウェイルが、何をしたいのか、わからないよ」
「僕は、君だけが、居ればよかったんだ。
それなのに、君は、僕以外の人と仲良くなって」
ウェイルは、ルイと黒煙竜を睨み付けた。
「勇敢なお姫様が、捕らわれの王子様を求めて奮闘する。
素敵なお話だったはずなのに、台無しだよ」
ウェイルは、台座に居る、風の大精霊へと、手を振れる。
ラセは、ウェイルが、風の大精霊の正確な位置を把握していることに違和感を覚える。
そして、ラセの予想は的中した。
「やっと、ラセと同じように、風精霊も見えるようになったのに」
ウェイルが、風の大精霊の肩を抱く。
闇化して虚ろな表情をしている風の大精霊は、ウェイルを拒まない。
それどころか、寂しさを紛らわすように、身を寄せる。
「もっと、早く気付いていたらよかった。
そうしたら、闇の霧に侵されたふりなど、しなくてよかったのに」
ウェイルは、指を見つめる。
「ラセ。僕は闇化した風の大精霊を手懐ける事に成功したんだ。だから」
ウェイルが、自らの指に嵌められている、指輪を外す。
「何者にも従わずに、二人だけで生きて行こう」
「ウェイル、駄目――――――――――――――――――――――――――――――!」
ラセの悲鳴が、響いたと同時に、闇化した精霊達が、ウェイルに群がった。
大量の闇化精霊が押し寄せる。
『ひとまず、退散しよう』
「でも、ウェイルが!」
暴れて黒煙竜から落とそうになるラセをルイは必死に抱きしめる。
「ラセ。落ち着くんだ」
黒煙竜が台座から、遠ざかる。
闇化精霊に取り囲まれて、既にウェイルの姿は確認できない。
それでも、ラセは喉が枯れるまで、ウェイルの名前を呼び続けた。
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