盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第十一章 黒煙竜

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「だから、それが、何だって言っているんだよ!ここまできてもったいぶるなよ」

 ロンは、決意したのか、目を開いた。
 普段、うっすらとしか開いていなくてわからなかったが、ロンは竜の瞳をしていた。

『風の大精霊が、闇に魅了されて、闇化した。
 闇化した風の大精霊は、闇の帝国を闇の霧で覆い尽くして、乗っ取り、その手を他国へと伸ばしている』
「そんな。だって、水の大精霊は、風の大精霊は、闇の霧に取り込まれ、闇の帝国にいる。
 だから、風の精霊を扱える私に、風の大精霊を正気に戻してほしいって」
『水の大精霊が、読み間違えたか。または、わざと間違った情報を提供したか?』
『直接、水の大精霊に話を聞いたほうが、早いと思います』

 セントミアの提案で、ラセは、水の精霊を扱い、水の大精霊の居場所へと移動した。
 ラセ達が立っている地面以外は、全て水で覆われている。
 水の大精霊は、まるで、ラセ達が訪れるのを察していたかのように、水の上に立っていた。

『来ると思っていたわ』

 水の大精霊は、落ち着いた声で、ラセ達を見渡した。

「答えて下さい。風の大精霊の真実を!」

 ラセは視線を真っ直ぐ水の大精霊に向けた。
 揺るぎない瞳に、水の大精霊も、覚悟を決める。

『闇の守護魔神の言葉が正しいわ』
「なぜ、嘘などつかれたのですか?」
『真実を知っても、貴方は確かに立ち向かってくれたと思うわ。
 でも、ウェイルは、どうかしら?』
「ウェイル?」

 ―僕、知ってしまったんだよね。真実を―

『ウェイルの望を甘く見ない方が、いいわ。
 人は、大切な人の為ならば、何だって犯せる恐ろしい生き物でもあるの』

 水の大精霊は、遠くを見るような目をした。

「ウェイルの望み?」

 水の大精霊の命令で、王子の座を放棄して、親友のホークとも別れて、一人でずっと、闇の帝国に染まったふりをして、ラセが解放してくれるのを待っている。

 ―僕のお姫様―

 ウェイルの人生を奪い続けているのはラセだ。
 だからラセは一秒でも早く、ウェイルを助け出したかった。

「ラセ」

 力んでいたラセの手に、ルイの手が重なる。
 周りを見渡すと、ラセを見守る、温かい眼差し。
 ウェイルしか、居なかったラセの周りには、いつの間にか大勢の人が集まっていた。

『貴方は、前より強くなったわ。
 今の貴方ならば、きっと、風の大精霊を闇より解き放てる』
「水の大精霊」
『ウェイルの事、お願いね。
 私ではあの子を本当の意味で救ってあげるとこはできないから』
「はい」

 ラセの力強い返事と共に、水の壁が出現した。
 元の場所へ戻るのだと認識して隣にいるルイの手を握りしめる。
 一人じゃない。
 だから、私は頑張れる。



『セントミア』

 水の大精霊の声が、残ったセントミアへと届く。

『もうすぐ、貴方の役目も終わるわ。
 どうか、最後の瞬間まで、ラセ達の事をお願い』
『はい。承知しております』

 水の壁に包まれるセントミア。

『想いの強さは、確かに罪を産みだすこともあります。
 けれども、償うことも、やり直すことも出来ます。
 たとえ形は違っても、想いが続いている限り、幸せになれると
 私は信じたいです』

 消え去る瞬間、セントミアが叫んだ言葉が、水の大精霊の心に響く。

「そうね」

 数々の人生を見て来た水の大精霊は、感慨深く呟いた。





「元気で!」
「気を付けて」
「ご武運を祈っています」

 ホーク達に見送られて、ラセ達を乗せた海賊船は、李祝へと出航した。
 水の大精霊の元から戻って来た後、ロンの力を蓄える為、李祝までは、海賊船で行くことが決定した。
 まあ、チャナを李祝に返さなければならないため、海賊船の最終目的地は最初から李祝だったのだが。
 棺の中で眠りについたロンを船室に残して、ラセとルイは、甲板に出ていた。
 あの海の向こう側に、探し求めていた闇の帝国があるのだ。

「よし。頑張るぞ!」

 ラセの意気込みが、海に響いた。


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