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海賊編 第十一章 黒煙竜

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 ホークの屋敷に案内されたラセ達は、パール王子を迎えに行ったキラーを応接室でまっていた。
 ホークの屋敷に辿りつくまでに、寝こけてしまったロンを背負って歩いたルイは、疲労でソファーに行儀悪く腰掛けている。
 ロンはルイの苦労など知らないかのように、丸くなって寝こけている。
 これから、話をする張本人が、寝ていてラセは、ホークに対して申し訳なさを感じた。
 ホークとキラーには、屋敷に来るまでの間に、一通りロンの説明はしてある。
 だが、どう見ても人間の子供であるロンが、闇の帝国の守護魔神である黒煙竜だとは、いまいち、信じられないようだ。
 セントミアは、頂いたミルクをおいしそうに飲んでいる。
 セントミアが嬉しそうに尻尾を振るたびに、ホークが可愛らしさに悶えるのを堪えている。意外な一面を見つけた事に、ラセは触れないであげようと思った。

「遅くなってすまない」

 凛々しい声が、室内に響く。
 だらけきっていたラセ達は慌てて、姿勢を正した。
 ロンも眠そうに目を擦りながらも、起きてくれた。とりあえず一安心だ。

「久しいな。ラセ。元気にしていたか?」

 キラーに導かれて、室内に入って来たパール王子は、表情を和らげた。
 気のせいか、ラセ達がこの島を去った時よりも、背が伸びて逞しくなっている気がする。

「こちらこそ。お忙しい中、呼び出して、申し訳ありません」
「かまわぬ。せっかく来てくれた水の国の使者。ご足労感謝する。
 まさか、ラセが、水の国の王族だったとは驚いた。これで、指輪を持っていた理由が判明した」

 パール王子は自身の指に嵌った国家の宝を見せた。

「……国家の宝は海の契約に必要な大切な物。あまり、人前に出さない方がいいと思います」

 ラセはウェイルとの思い出を思い出して、指輪から目を背けた。

「そうであったな。すまない」

 パールは、指輪をはめている指を隠した。
 ラセは一つため息をついて落ち着いた。

「こちらが、水の国の国王から受け溜まった書状でございます」

 ラセがキラーに書状を渡すと、丹念に封筒を確認した後、封を開いた。

 文章に目を通し終わると、ようやくパール王子の手に渡る。

「ホークも後で確認して置け」

 パールが読み終えた書状をキラーがホークに放り投げた。
 水の国の王直々の書状を投げるキラーは、さすがと言うか、肝が違う。

「この度の同盟。承ってくださった事を感謝する」
「これで、めでたく同盟成立か。後は、闇の帝国の居所がわかればいいのだけれども」
『闇の帝国は、李祝のさらに先にある大地の裂け目の向こう側にある』
「大地の裂け目?」

 ホークが地図を持ってくる。

「海に尖った岩が多く、嵐が吹き荒れているので、遭難者の多発している場所だ。
 未開発の部分も多く、未知に包まれている地方だ」
「その向こうに闇の帝国が」
「だが、もしそうだとしても、船が使えないのならば、行く手段がない」
「海の加護も大地の裂け目の海流には、届かない」
『ボクの翼は何処へでも飛んで行ける』
「それって、大地の裂け目の向こう側にある闇の帝国へも行けるの?」
『当然』

 ロンは、どや顔で答えた。

「どうやら、ロンを頼るのが、妥当そうだな」
「でもそうなると、行ける人数が制限されない?同盟せっかく組んだのに使えない」
「まあ、敵対関係よりも、ずっとましなので、いいのではないでしょうか?」

 同盟を提案したパール王子が苦笑いを浮かべた。

「肝心の闇の帝国を倒す方法は、どうするんだ?」
「イハ王子の件で、清らかな心で、使役魔法を行えば、精霊が正常に戻ることは分かったけれども」
『そのことで、ラセに言わなければいけないことがある』
「なに?」
『皆、闇の霧は、闇の帝国が元凶だと思っているようだけれども、それは勘違いだ』
「え?」

 今までの行動を否定した言葉に、ラセは戸惑う。

「……どういうこと?」
『確かに、闇の帝国は、今まで火の国を陥れて利用したり、当時水の国の王子と風の国の姫だった者達を苦しめたり、悪い事ばかりしてきた。
 しかし、そのような者達は、全て守護魔神であるボクが、処罰した』
「なら、なんで、闇の霧が発生しているんだよ!」

 ロンは、目を瞑った。

『本来ならば、あってはならないことが起きたからだ』
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