上 下
101 / 115
海賊編 第十章 双子の王族

101

しおりを挟む
「義賊テール行くわ!」
「義賊テールって、え?」

 ルイは驚愕している間に、ラセは黒煙竜の背中から飛び降りた。
 風の精霊が、ラセの身体を支えながら、ゆっくりと降下する。
 降り立ったラセに海賊船の人々の視線が集まる。
 ラセは、腕を天に伸ばした。

「この船は、今から、私が占拠したわ。大人しくティーラ姫を引き渡しなさい!」
「はあ?なにふざけたこと言っているんだ?」
「待て、あの長い髪。あれは義賊テールに違いねー」
「てことは、ティーラ姫は、闇の帝国とグルだったのか?」

 海賊達の間にざわめきが訪れる。

「お前ら、動揺するな!」

 クレイが、海賊達をかき分けて、現れた。
 ラセは唾を飲み込む。
 クレイが怖い。でも、逃げたくない!

「ティーラ姫は、何処!」
「あいにくだったな。ティーラ姫は、反対側の船だ。わざわざ火筒を偽装して油断させるとは、いい度胸している」

 クレイは、剣を抜いた。
 だが、ラセは、武器を構えなかった。
 代わりに、不気味な笑みを浮かべる。
「あら、偽造などではないわ。本物を持っている人を人質に取ったの」
 ラセは、黒煙竜を指差した。
 身を乗り出して、様子を窺っていたルイとクレイの視線が合う。

「きさま!ルイを人質に取るなど何たる卑怯な!」

 クレイが切りかかってくる。
 ラセは、素早い動きで、剣先を交わした。

「ちょこまかと」

 切りかかるクレイと、避けまくるラセ。
 反対側の船からも、何事かと人が甲板に集まって来た。
 その中には、ティーラ姫に媚を売って、質の良い船室を手に入れたチャナの姿もあった。

「あれは!」

 チャナは、クレイと戦っている髪の長い少女が、ラセだと気付いて驚愕した。

「どうして、ラセは、チャナが確かに殺したはずであるよ」

 ティーラ姫は、家臣達の制止を拒み甲板に来ていた。

「なぜ、あの子がここに」

 ティーラは、他の人に気付かれないように、王家に伝わる水属性の魔法を唱えた。
 忍び寄る水精霊の気配を感じて、ラセは、手をかざす。

「見つけた!ティーラ姫」

 水精霊の攻撃が、ラセに襲い掛かる。
 と思った瞬間ラセのかざした手に、水精霊の攻撃が粉砕された。
 水しぶきが辺りに飛び散る。

「ど、どうして」

 驚愕で足がすくむ。ティーラ姫。

「あの子は、嘘吐きで、精霊魔法すら扱えない子で」

 ティーラ姫を見つけたラセは、反対側の船に渡る為、海へと飛び込んだ。
 だが、水精霊の力を借りたラセの身体は、海水に沈まない。
 まるで、足場があるかのように、海の上を平然と駆け抜けるラセの姿に誰もが驚愕して、動けずにいた。

「な、何をぼんやりしている!ティーラ姫を守れ!あの娘を打ち落とせ!」

 大砲が、ラセに向けられても、歩みを止めなかった。
 どんなに狙いを正確に定めても、見えない風の結界が、ラセを守って大砲の軌道をずらす。
 風魔法と水魔法を同時に使い、ラセは、ティーラ姫がいる、船へと乗り込んだ。
 動揺して、逃げ纏う人々を尻目に、ティーラ姫は、気丈に振る舞っていた。

「わたしになにか、御用かしら?」

 ティーラ姫は、ラセの事を殺そうと暗躍していたことが、ばれたのではないかと、内心焦っていた。
 だが、ラセが取った行動は、ティーラ姫の予想に反していた。
 ラセは、ティーラ姫の前で片膝を付いて、頭を垂れた。
 目上の身分の者にする正しい作法に、ティーラ姫は困惑する。

「ティーラ姫。ご無礼を承知で申し上げます。
 今すぐに、私と一緒に、城へとお戻りください。
 イハ王子が、貴方様のお帰りをお待ちしております」
「イハが?どうして?だってイハは、ノーリア姫と結婚するはずでは」
「イハ王子と、ノーリア姫は、今回の婚約を快く思っておりません。
 イハ王子が、本当に傍に居てほしいお方は、ティーラ姫。貴方様なのです」
「そんな。だって、許されるはずが……」
「誰かに、許されなければ、いかないことなのですか?
 本当の想いを押し殺して、嘘を付いて、挙句の果てに、闇に呑まれて。
 今のイハ王子を救えるのは、ティーラ姫、貴方様だけなのです」
「救うって?イハに何かあったの?ねえ!」
しおりを挟む

処理中です...