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海賊編 第十章 双子の王族
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しおりを挟む『さあ。乗って』
黒煙竜の魔法で、ふわりと浮かび上がる身体。
「「うお」」
空に慣れていないルイとゲオルグが驚愕の声を上げた。
黒煙竜の背中は、ごつごつしていた。
黒曜石の様な美しい色合いの翼が広げられる。
黒煙竜は、皆が落ちないように、魔法結界を張り巡らせた。
結界に包まれた、ラセ達を乗せて、黒煙竜は空へと飛び立つ。
真夜中の為か、暗い色をした黒煙竜は、目立たずに白亜の城に近寄る。
白亜の城は、狂ったように舞う風精霊達が取り囲んでいた。
すこし離れたところに、様子見を余儀なくされた兵士たちが、集まっている。黄金色に輝く魔神の姿を見つけて思わず見とれていると、王妃と目があったような気がした。
結界のお蔭で、風を感じずに済んだラセ達は、難なく城の中庭に着陸した。
『まだ、闇化は始まっていないようだ』
「でも、ものすごい狂いようだった」
精霊の見えるラセとロンの間だけ、話が通じており、ルイはやきもちを焼いた。
「さっさと、ノーリア姫を探しに行こう」
「うん」
マムから渡された見取り図を手掛かりに、城の中を進む。
明かりの灯されていない室内は、薄暗くて不気味だ。
時折通りかかる風精霊の攻撃をロンの結界で防ぎながら先に進む。
普段ならば、風精霊に居場所を聞けば、直ぐに見つけられるのだが、今回は、イハ王子が使役してしまっているために、風精霊を頼ることが出来なかった。
精霊に頼り切っていたラセは、自分の無力さを思い知らされて、唇を噛んだ。
しばらく歩くと、王の間へとやってきた。
「開かないな」
「風精霊が、扉を押さえつけているんだわ」
『退いて』
ロンの指示に従い、ラセ達はドアから離れた。
『火の精霊よ。焼き払え』
ロンの呪文によって、ドアが焼き払われた。
奥に居た風精霊が炎の精霊と絡まりあい押し寄せてくる。
「水の精霊よ。火を止めよ」
ラセが唱えた呪文によって間一髪で、炎を消し止められた。
風精霊が廊下を去ってゆく。
無くなったドアから部屋を覗き込むと、荒くれる風精霊に囲まれたイハ王子が、正気を失った目で、ぐったりしたノーリア姫を脇に抱えていた。
「ノーリア姫」
ノーリア姫を見つけたゲオルグが居てもたってもいられなくなり、飛び出した。
「ゲオルグ危ない!」
ロンの結界から飛び出してしまった事に気付いたゲオルグにかまいたちが襲い掛かる。
「ぐわ!」
身体中を風の刃に切り裂かれて、ゲオルグはその場に膝を付いた。
ロンが慌てて、ゲオルグに結界を飛ばず。
ゲオルグは、血をあちこちから流しながら、息を整えた。
「ゲオルグ。無茶しないで!」
血を浴びた風の精霊達が、どす黒く変色する。
『しまった。闇化が始まった』
「これが、闇化?」
ラセは、美しかった精霊達が醜く歪んでゆくのを見て、恐怖した。
見慣れた闇の霧が辺りに立ちこみ始める。
暗くなった視界を、珊瑚色の光が照らした。
『闇の霧が発生してしまったのならば、仕方がありません。わたしも協力します』
「セントミア」
セントミアとロンの結界が重なる。
「早く助けないと、ノーリア姫とイハ王子が、闇の霧に呑まれてしまう。でもどうすれば助けられるの?」
『ラセ。イハ王子を正気に戻すのだ。そうすれば、被害を最小限に抑え込める』
「正気に戻すって、どうやって?そもそも、イハ王子は、なぜ狂ってしまったの?」
「……ラ」
「え?」
風音で聞き取りづらいが、イハ王子が、何かをつぶやいている。
ラセは、耳を澄ませた。
「ティー……ど……だ。ティーラ。どこだ」
「ティーラ?ティーラ姫を探しているの!」
ラセのつぶやきに、イハ王子は反応した。
「ティーラ。戻ってきてくれ。俺は、代わりの女など要らない」
イハ王子は、ノーリア姫を投げ飛ばした。
床に激突する寸前の所で、ゲオルグが倒れこみながら、ノーリア姫を受け止めた。
「よかった。ご無事で」
ノーリア姫を抱きしめたゲオルグは安堵の表情を浮かべた。
その様子を見ていた、ラセも一安心して、イハ王子に向き合った。
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