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海賊編 第九章 武道会

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 ラセは、微笑むと、帽子を外した。
 中からこぼれ出す水色の髪。

「セラ姫?」

 ゲオルグは、目を見開いて驚いた。

「ひさしぶり。ゲオルグ」
「嘘吐き姫。生きていたのかよ」
「今回の嘘は、面白かった?」

 ラセが冗談ぽく微笑むと、ゲオルグは照れを隠すために、そっぽを向いた。

「今までの中で一番だよ。……告って来る」

 ゲオルグは、ラセの横を通り過ぎて、ノーリア姫の前で立ち止まった。
 ノーリア姫は不思議そうに、ゲオルグを見上げた。

「ノーリア姫。ずっとお慕いして居ました。
 俺の妻になって下さい」

 ゲオルグの突然の告白に、ノーリア姫は目を丸くした。
 ゲオルグはひたすら、ノーリア姫の返事を待つ。

「ゲオルグ」
「はい」
「ゲオルグの気持ち、とてもうれしいわ。でも」
「でも?」
「わたくしは、十六歳になったら、イハ王子と結婚しなければならないの」
「やはり、あの噂は本当だったのか」

 ゲオルグは、うなだれた。

「それと、ゲオルグ。あなたも、十八歳になったら、ティーラ姫と結婚しなければならないわ」
「え?」

 ゲオルグは、知らなかった自分の婚姻について聞かされて情けない声を発した。

「どういうことだ?俺はそのような話聞いていない!」
「わたくしも直接聞いたわけではないわ。
 たまたまイハ王子とティーラ姫が話しているのを聞いたの」
「ならば、真相を知っている人の所へ確かめに行こう」

 ラセ達は、ジョンとローラに話を聞きに行った。

「ゲオルグとティーラ姫が婚姻?確かにそのような話が上がったことはあったわ」
「なら、この話は真実で」

 ローラ夫人は首を横に振った。

「本人同士が決める話だから、私達は、口を出せないとその時に断ったわ」
「では、ただの噂にすぎなかったのか」

 ゲオルグは安堵のため息をついた。

「ならば、イハ王子とノーリア姫との婚姻については?」
「さあ。そちらは、エコシェーザニ―姫に確認を取らないことにはわからないわ」
「エコシェーザニ―姫は今どちらへ?」
「城に滞在されているはずよ。ノーリア姫が望めば対面は可能なはずよ」
「わかりました。では明日にでも向かいましょう」

 ラセ達は、明日会うことを約束して解散した。



 翌日。
 ラセ達は、城に居るエコシェーザニ―姫を訪ねた。
 エコシェーザニ―姫は、森のような緑色の髪を腰まで伸ばしていた。
 ラセ達の話を聞いたエコシェーザニ―姫は、優雅に紅茶を飲んだ後、聞いた。

「ノーリア。あなたは、どうしたいのですか?」
「どうしたいとは?」
「イハ王子と結婚したいのか?それとも、」

 エコシェーザニ―姫は、目線をゲオルグへと向けた。

「別の殿方と結婚したいのか?」
「それは……」

 ノーリア姫は、ゲオルグを見た後、エコシェーザニ―姫に向き合った。

「少なくとも、イハ王子と結婚したいとは、思いません。
 ゲオルグに告白されて、わたくしは、うれしく思いました。
 叶うことならば、ずっとゲオルグと一緒に歩んでいきたいですわ」

 隣に立っていたゲオルグは、ノーリア姫の思わぬ告白に顔を赤くした。

「……そう。私は政略結婚でしたから、わかりませんが、
 ロティーラ王妃とローラ夫人を見ていると、恋愛結婚も悪くないと思いますわ。
 ノーリア、あなたの好きなようにしなさい。
 私からは、何も強制しません」
「お母様。有難うございます」

 ノーリア姫は、エコシェーザニ―姫に頭を下げた。

「よかった。ノーリア姫。それに、ゲオルグも」
「幸せになれよ。お二人さん」

 ルイの茶々にも、ゲオルグとノーリア姫は、頬を赤く染めた。

「エコシェーザニ―姫。俺、ノーリア姫を一生大事にします」

 ゲオルグが、エコシェーザニ―姫に頭を下げる。

「前日の武道会の戦いを見ました。外道なやり方でしたが、優勝には変わりません。
 これからも、その柔軟な発想で、困難を乗り越えて下さい」

 エコシェーザニ―姫に告げられたゲオルグは、気まずそうに、目を反らした。
 真実を知っているノーリア姫は、微笑んだ。

「お母様。外道なやり方を考えたのは、ラセですわ。
 わたくし、やはりラセと結婚しようかしら?」
「ラセは、俺がロティーラ王妃から、もらったんだから、俺の物だ!」

 ノーリア姫の冗談に本気で怒るルイ。

「私は、誰の物でもない」
「……やっぱり一番の恋敵は、ラセなのだろうか?」
「ゲオルグまで本気で悩まないで」

 四人のやり取りに、エコシェーザニ―姫が耐え切れずに、吹きだした。

「お母様?」
「すいません。つい、おもしろくて。よい友を持ちましたね。ノーリア」

 ノーリア姫は、ラセ、ルイ、ゲオルグを順番に見た。

「はい。お母様」

 ノーリア姫は嬉しそうに微笑んだ。
 これで、全て解決したと思い込んでいたラセ達はのちに自分達の甘さを後悔することとなる。


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