盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

海賊編 第九章 武道会

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「わかった。私がゲオルグをイハ王子に勝てるように鍛える」
「おい、マジかよ」
「依頼して置いて、こういうのも失礼だけど、お前で俺を鍛えられるのか？」
「私達に勝てなければ、イハ王子には、勝てない」
「確かにそうだけど」
「勝ちたいのならば、鍛えるしかない。
　外に出て。試しにあなたの実力を測るわ。
　ルイ。相手をしてあげて」
「わかった」

　ラセに言われて、ゲオルグは三人を庭へと案内した。

「武器は何を使っているの？」
「ハンマーだけど？」
「そう。武道会の武器は指定があるの？」
「いや、得意な武器でかまわない」
「なら、イハ王子は、得意の棍棒でせめてくる可能性がある」
「イハ王子と同じ打撃武器か。これは実力の差がはっきりと出るな」
「さあ。始めましょう」

　ラセの合図で、ゲオルグは、身の丈ほどのハンマーをルイに向けて振り下ろした。
　ルイは、ハンマーを軽々と避けると、懐から短剣を取り出して構える。
　体勢を低くして、ゲオルグの間合いを攻め込む。
　ゲオルグが、近づくルイに息を飲んだ。
　ハンマーを振り下ろすが、ルイの動きの方が早い。
　ルイが、ゲオルグの首筋に短剣を突きつけた。

「そこまで」

　ラセが、試合終了の合図を告げるとルイは、ゲオルグから離れた。

「やった～！勝ったぜ！」

　ルイは、ゲオルグに勝った事を素直によろこんだ。

「そんな。負けるなんて」
「ルイ程度の人間に負けるなら、イハ王子打倒は無理だな」
「なんだよ。それ！」

　ゲオルグは落ち込み、ガベルは調子に乗ったルイをからかった。
　その間、ラセは、顎に手を当てて、先ほどの戦闘を振り返っていた。

「ゲオルグ。あなたの構えはルイよりもずっと整っていた。
　でも、その分軌道が相手に読まれやすい。
　だから、ルイでも避けられたんだと思う」
「俺勝ったのになんでけなされているんだ？」
「ルイはだまっていて」

　ラセに冷たくされて、ルイは隅っこに座り込んだ。

「後、ハンマーの振り下ろしに勢いが足りない。
　もっと、力押しではなく、遠心力を使って」
「遠心力？」
「そう。手首を使って勢いよく振り下ろすの。
　力み過ぎないで」

　ラセが試しにハンマーを借りて振り回す。
　風切音がして、地面に振動を与えた。
　ゲオルグは自分よりも小柄な人間が破壊的な力を発揮する光景に驚愕した。

「やってみて」

　ゲオルグは返されたハンマーを握りしめ、手首を使って振り下ろした。
　力を入れていないのに、ハンマーの落下スピードが増した。

「これは！」
「その調子」
「ところで、武道会はいつ開催なのだ？」

　ガベルがもっともな質問をした。

「……三日後だ」

　ゲオルグはきまずそうに目を反らして告げた。

「三日後！無理だろう！普通に考えて！」
「無理なのは、承知している。でもやるしかない」
「でも、三日で強くなるって」
「正当法では、難しいのは承知している。
　だから、奇策を使うわ」
「？」

　この後ラセが提案した奇策に三人は、どのような反応をしていいのかわからなかった。