盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第九章 武道会

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「……これだから、無能な人間は困る。
 騎士院の成績は、家柄や構えの美しさ。技の正確さで決まる。
 そこに本来の強さは、反映されない」
「そうなのか?クレイは剣の腕も確かだったけれども?」
「クレイ?誰だ。そいつは?
 取りあえず、俺はイハ王子に勝てる強さが、すぐにでもほしい。
 さっさと俺を鍛えろ」
「イハ王子に勝つ!?笑わせるな。
 イハ王子は、五つの国の中でも一、二を争うほど最強の武人だろ?
 勝てるわけがない」

 ガベルが仰天して驚いた。

「……イハ王子が強いのは、わかっている。
 それでも、勝たないといけないんだ」

 先ほどまで、強気だったゲオルグは急に自身を無くした。

「何か、理由があるの?」

 ラセをちら見したゲオルグは、引き出しから、号外を取り出した。

「今日、発行された号外だ」

 ルイは、覗き込んで内容を読み上げた。

「なになに?
 フォーチューン国と連合して闇の帝国に刃向うことを水の国の王が発表した。
 これを記念して、武道会を開催することが決まった。
   力に自信のある者よ。集まれ!
 優勝者には、賞品と豪華特典がもらえるぞ!
 (昇級も期待出来るかもしれない ?!)
 さあ、活気あふれる国民達よ。奮い立て!」
「……なにこれ?」
「王国主催の武道会の案内だ。
 俺はこの武道会に参加して、イハ王子を倒す」
「倒して、どうするの?賞金がほしいの?」
「馬鹿な事を言うな。
 俺は、イハ王子を倒して、俺の方がノーリア姫の夫になる男として相応しい事を証明するんだ!」
「え?ノーリア姫。イハ王子と結婚するの?」

 その様な話は初耳だったラセは、驚いた。

「公にはされていないが、イハ王子が二十歳もなって結婚しないのは、ノーリア姫が結婚出来る年になるまで、待っているからだと、噂になっている。
 ノーリア姫は、もうすぐ十六歳の誕生日を迎えられる。
 それまでに証明しないと、ノーリア姫がイハ王子に娶られてしまう。
 俺は、ずっとノーリア姫を慕ってきた。
 誰にも取られたくないんだ!」

 ゲオルグがノーリア姫を想う気持ちが痛いほど伝わって来た。
 ラセは、昔を思い出す。
 まだ、ラセがセラ姫だった頃。
 嘘吐きと呼ばれはしたが、三人はよく一緒に行動していた。

「嘘吐き姫。今日は、どんな嘘を思いついたんだ」
「私は、嘘吐きじゃない!」
「二人とも、喧嘩しないでね」

 ゲオルグが、セラをからかい、喧嘩になった二人をノーリア姫が止めていた。

「抜け穴を見つけた。街に探検に行こう?」
「はあ?見つかって怒られでもしたらどうするんだ?」
「そうよ。あぶないわ」

 言葉づかいは悪いけれども、律儀なゲオルグと、心配症のノーリア姫は、セラ姫の意見に反対した。

「でも、お城に籠っていても面白くないし、国民の生活を知るのは、上に立つ者にとって必要なことだと思う」
「確かにそうだけど」
「きっと、外は、楽しい。
 大丈夫。どんな脅威が訪れようと、私が二人を守るから!」

 セラ姫の意思の強さに負けて、ゲオルグとノーリア姫は、恐る恐る城の外へと出た。
 大勢の人。街並み。
 見たことのない品々に、三人の心は躍った。
 セラ姫がくすねて来たお金で、露天の食べ物を頬張る。
 高級ではないけれど、人の温かみを感じる味。
 セラ姫達は、夕方まで、街を歩き回った。

「綺麗な夕日」

 歩き疲れた三人は、港で足を止めた。
 大量の船が、港の海に浮かんでいる。

「私はいつか、この海の向こう側に行きたい」

 潮風を感じながら、セラ姫の髪がなびいた。
 風の精霊が通りすぎるのをセラ姫は、目で追った。

「また、精霊が見えるとか抜かすのか?」

 ゲオルグは、セラ姫をからかった。

「精霊は本当に、この世界に存在している」
「確かに、精霊は、この地に王家の魔法がある限り、存在するのでしょう」

 ノーリア姫は潮風になびく髪をおさえた。

「……ノーリア姫が言うのならば、そうなのかもな」

 ゲオルグは、顔を背けた。
 ゲオルグの耳が赤いのは夕日だけのせいではあるまい。
  それから、辺りが暗くなって、抜け出したことがばれた三人は、城の衛兵によって連れ戻された。
 そのあと、こっぴどく怒られたのは、記すまでもない。

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