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海賊編 第八章 棺
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しおりを挟む「イハどうして、セラは生きているのかしら」
別室に移動したティーラ姫とイハ王子は、ソファーに腰を下ろしていた。
「あいつが本物のセラ姫か、まだ確証はないだろう?」
「そうね。とりあえず、クレイとチャナに確認を取るわ。
そして、今度こそ仕留めるわ」
「随分と物騒な事を言う」
「あら、イハだって同じ気持ちのはずなのに」
「そうだな。同じ気持ちだ。俺達は双子なのだから」
イハとティーラは、幼い頃の記憶を思い出した。
イハとティーラは双子として誕生した。
イハには、風の守護が付き、将来風の国を背負う者として有力視さえた。
ティーラには、水の守護が付き、将来水の国を背負う者として有力視さえた。
丁度闇の霧対策の計画を実行していた王と王妃は多忙な毎日を送っていた。
イハとティーラは、教育係に育てられた。
英才教育を施され、どこに出しても恥ずかしくない王子と姫に育った。
けれども、後から生まれたセラ姫は、王と王妃が無理を言い、出来るだけ自分達で育てると言い出した。
仕事が忙しく結局は敵わなかったが、セラ姫は、ロティーラ王妃の特別訓練を受けて、イハ王子とティーラ姫よりも可愛がられた。
だからだろうか?
我儘で、嘘吐きにしか見えなかったセラ姫に憎しみを覚えた。
自分達が得る事の出来なかった親の愛情をセラ姫だけは知っているのだ。
憎まずにはいられただろうか?
セラ姫さえいなければ、親の愛情は自分達に向いたのではないかと望まずにはいられただろうか?
セラ姫が死んで内心喜んだイハとティーラだったが、王と王妃は、死んだはずのセラ姫の事を未だに思い続けている。
王と王妃の心から、セラ姫が消え去るまで、憎しみの炎は消えることはないのだ。
「開かない」
黒い棺を前にして、ラセはため息をついた。
ラセがルイの励ましによって落ち着いた後。
ルイ達からは、海賊船に戻ってこないかと誘われたが、クレイと顔を会わせるのが怖くて断った。
ノーリア姫からも屋敷に来ないかと言われたが、チャナがいるからと、同じような理由で遠慮した。
棺が開かない以上、どこにも行く宛てがなかったラセは、結局マムの情報屋にしばらくの間滞在することになった。
そして、さまざまな方法を試したが、黒い棺はいまだに開く気配がない。
ちなみに、棺を預けていた研究所では何もわからなかったそうだ。
ラセは、棺を開けるのを諦めて、寝台に横になった。
「早く闇の帝国のアジトを探し出して、風の大精霊を助けにいかないといけないのに、どうして開かないのだろう?そもそも何が入っているのだろう?」
ラセは寝台に横になりながら、黒い棺を眺めた。
「おやすみなさい」
ラセは、隣に横たわる黒い棺に向かって、語りかけた。
ラセが、すやすやと眠りに付くと、棺が音を立てて動いたような気がした。
「う~ん」
ラセは、寝苦しさを感じて、身体を動かした。
何かが身体に張り付いているような感覚がして重たい。
かけ布団でも身体に巻きついたのだろうか?と思い眠い目を無理やり開けると……。
「え?え~!」
ラセの叫び声が、部屋に響いた。
「何朝っぱらから騒いでいるのだい?」
ラセの叫び声を聞いて、マムがやって来た。
「マ、マム~」
ラセは、情けない声を上げて、自分の身体に張り付く者を指差した。
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