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海賊編 第七章 昔の名前
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しおりを挟む「ここは?」
ラセは気付いたら、寝台に寝ていた。
質素な家で、外の喧騒が聞こえてくる。
日の光がまぶしくて、目を細めた。
「起きたか?身体痛いところないか?」
机の上で作業をしていた男が、ラセを振り返った。
「特に痛いところはない。ここは、どこ?」
「ここは、俺の店だ。
あんた、近くの砂浜に倒れていたんだぜ」
「そう。助けてくれてありがとう。私の名前は、ラセ」
「そっか。俺はガベル。昔は、けっこう盗賊として暴れ回っていたんだぜ」
ガベルと名乗った中年の男は、にやりと笑みを浮かべた。
「ガベル?もしかして、トタプの父親?」
「お?トタプと会ったのか?あいつ元気にやっていたか?」
「ええ。元気そうだった」
「そうか。ならよかった」
「ねえ。ここから、水の国の都市までは、遠いの?出来れば急いでいかないといけないのだけれども」
「水の国の都市?ああ、それなら、丁度武器を持っていく用事があるんだ。
あんたも来るか?」
「行く」
「なら、決定だな。準備が出来るまで、しばらく休んでいな」
ガベルは、又机に向き直ると、作業の続きを始めた。
ラセは、ガベルの言葉に甘えて眠り直すことにした。
「私は、嘘吐きではない!」
今にも泣き出しそうなのを必死で堪えながら、セラは、目の前に立つ家庭教師に向かって睨み付けた。
「いえ、セラ姫は、嘘吐きです。なぜ、歴史書に書かれた内容が違うなどと言うのですか?」
「だって、精霊達は、この世界には、八人の大精霊の内、一人しかこの世界に残って居ないって言っていた」
「大精霊は、八人ではなく五人で、今もこの地を守っていると歴史書に書いてあるでしょ」
家庭教師は、額をピクピクさせて苛立ちながら、何度も歴史書の一文を示した。
そこには、確かに、五人の精霊王は、五か国に一つずつの属性の加護を王家に連なる血筋に授けた。と記されている。
だが、セラにとって慎重性の高い情報は、人の手でいくらでも書き換えられる歴史書ではない。この目で見て、その時代を生き体験してきた精霊達なのだ。
「セラ姫。いい加減にしろよ。
いつもお前の嘘吐き発言のおかげで、講義が中断されるんだ。
いいかげん、精霊が見えるって嘘付くの辞めろよな」
セラの隣の机で講義を聞いていた釣り目で赤毛の男の子ゲオルグ王子が毎度のやり取りにうんざりした表情を浮かべた。
「私は、本当に……」
セラが、抗議の声を上げようとしたとき、ふんわりとした声が、おだやかにセラの声を遮った。
「セラ姫。セラ姫にとっての真実が精霊さんの言葉だとしても、国の常識は歴史書なの。だから静かに講義を受けましょうね」
ふわりとウェーブした緑の髪からかすかに花の香りを漂わせながら、同じく講義を受けていた女の子ノーリア姫がにっこりと微笑んだ。
おだやかだが、有無を言わせない気迫。そして、けっしてセラが精霊と会話できることを信じ切っていない口調。
いやになって、セラは、部屋を飛び出した。
「セラ姫。講義の時間は、まだ終わってはいませんよ。戻ってきなさい」
家庭教師の怒鳴り声が、王宮の大理石造りの廊下に響いた。
だが、その声に振り返ることなく、セラは、近くの窓から外に飛び出した。
「先生。毎度のことだから、ほっとこうぜ」
「そ、そうね」
セラの居なくなった部屋では、何事もなかったように講義が再開された。
セラは、思いっきり風を感じていた。
足に羽が付いたように軽い。
風の精霊がセラの身体を支えてくれているので、セラは、軽く跳びはねるだけで、空を飛ぶ鳥の気持ちになれた。
城の庭にたどり着いたセラは、人の話し声が聞こえて立ち止まった。
セラの父セイハと見知らぬ少年が池のほとりで話をしていた。
セラは、興味本位で二人を見つめていたが、しばらくすると父が城へと戻って行った。
残された少年は、池の水に手を入れた。
すると、水の精霊が現れて少年と話し始めた。
セラは、自分以外の人間が精霊と対話しているのを初めて見た。
だから、勝手に身体が少年の元へと向かっていた。
精霊と話をしていた少年は、セラに気付くと腰を屈めて挨拶をした。
「ぼくは、フォーチューン王国の王子ウェイル。きみは、どちら様かな?」
優しげに話しかける砂色の髪の少年。
セラは、少年と目を合わせた。
「私は、セラ。
セラ・リアロティー。
ねえ、お兄さんは精霊と会話が出来るの?」
それが、セラとウェイルとの出会いだった。
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