盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第六章 フォーチューン国本島

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 パール王子は、自分の周りに泳ぐ水の精霊達を見て、驚きの声を上げた。

「これが、水の精霊」

 パール王子の視線は、しっかりと水の精霊を定めていた。

「すごくきれいだ」
 パール王子は、水の精霊の美しさに目を奪われた。

『これで、汝は、海の加護を得た。
 汝の望み通り、フォーチューン国の島々の結界を強化し、闇の霧を払い始めた。
 だいぶ浸食されているがゆえ、時間はかかるが、闇の霧の脅威は、いずれフォーチューン国から去るであろう』
「有難うございます。海の加神」
『よい。契約を交わした者が、フォーチューン国を想う清く正しい心の持ち主で、我も安心している。
 また何か問題があれば、水の精霊に頼み、我の元へと訪れよ。
 我は、契約を交わした証がある限り、忠誠を尽くそう』

 クジラの言葉が終わると、ラセの持つペンダントが珊瑚色に光り出した。
 クジラは、目を細めた。

『セントミアか。久しいな。娘よ。しばし話をしたい。
 この場に残ってくれるか?』
「はい」

 ラセが、答えると、パール王子とキラーの周りだけに、水の壁が現れた。
 それが消えると、二人の姿はその場には、無くなっていた。
 おそらく、元居た池に戻ったのだろう。
 キラー達が居なくなったのを確認した、ラセはペンダントを開けた。
 中から飛び出すセントミア。

『久しぶり。セントミア。ちゃんと仕事してくれているみたいね』

 海の加神であるクジラの上に女性が突如現れ、足を組んで座った。

『はい。対価の分は、働かないといけませんから』

 セントミアは、女性を見上げて答えた。どうやら二人は知り合いらしい。

『本当に助かっているわ。現在別世界に居るわたしが直接この世界に干渉するわけには、いかないから、困っていたのよね』
「セントミア。こちらの女性は?」
『あら、自己紹介が遅れたわね。わたしは、ブルー水晶。
 まあ、簡単に言えば、水を守護する者。
 水の精霊は、わたしを元として産みだした子孫みたいなものね。
 まあ、力はかなり劣るのだけれども』
「そうなんですか」
『そうなの。エレメンタル大陸の五つの王国の一つ水の国の王族へ水魔法の加護を与えた大精霊の一人。
 まあ、今この世界に残って居るのは、風の大精霊クリア水晶だけなのだけど、風の大精霊の件で、あなたにお願いがあるの』
「私に、ですか?」
『そう。風の大精霊は、闇の霧に取り込まれ、闇の帝国にいるわ。
 だから、風の精霊を扱えるあなたに、風の大精霊を正気に戻してほしいの。
 その為には、闇の帝国の本拠地を知れなければならないのだけれども、ウェイルの活躍で、すでに手がかりを入手したわ』
「ウェイルの活躍って、ウェイルはあなたの指示で、闇の霧の者として活動していたのですか?」
『そうよ。ウェイルは、海の加神の加護を受けているの。
 だから、闇の霧の影響も通常より少なくすんでいたの。
 つまり、闇の霧に寝返ったふりをしていた訳。
 一部の人間そう、ウェイルの親友だったホークは、事情を知っていたわ』

 ブルー水晶の言葉で、ラセはなぜ闇の霧に堕落したウェイルに未だに忠誠を誓っていたのかを理解した。

『風の大精霊を味方に着ければ、闇の帝国を滅ぼすのは、容易なはず。
 だから、お願いね』
「一つだけ、お聞きしてもいいですか?」
『なあに?』
「なぜ、私をフォーチューン国にもっと早く来させなかったのですか?
 なぜ、いつまでも国家の宝である指輪を私に持たせていたのですか?
 私が指輪を持っていたせいで、フォーチューン国の島々を闇の霧の恐怖に陥れました。
 いいえ。一部の李祝などの島は、完全に闇の霧に侵されました。
 住人は、ある者は闇の霧に侵され、あるものは、故郷を惜しみながら、離れるしかありませんでした。
 私がもっと早くお返ししていれば、フォーチューン国に辛い思いをさせずに済みました。
 それなのに、どうして!」

 ラセは、涙を流しながら、訴えかけた。

『確かに、フォーチューン国を危険にさらすのは良くなかったと思っているわ。
 でもね、海の加護を受ける指輪は、王と王妃に与えられるもの。
 増産出来るような品物じゃないの。
 それに、ウェイルの手に指輪が無い状態は危険だった。
 でも、だからと言って、あなたから指輪を取り上げてしまったら、幼かったあなたは、何にすがって生きればいいかわからなかったはず』
「え?」
『ウェイルとの婚約指輪が、ウェイルを闇の霧から解放したいと強く望む動力であり、
 形のある唯一の繋がりだったはず』

 ブルー水晶に言われて、ラセは胸を抑えた。
 そうだ。ウェイルに逢えない時も、婚約指輪という確かな形があったから、頑張ってこられた。
 辛くなったら、指輪を握りしめて、ウェイルに想いをはせ、自分を奮い立たせた。

 もし、婚約指輪が無かったら?
 形として、すがる物が無かったら?
 幼かったラセは、怖い思いをしてまで、闇の霧に立ち向かっただろうか?
 ウェイルを助けたいと思い続けられただろうか?

 ラセは、床に頭を押し付けた。
 声を張り上げて、喉が枯れるまで叫んだ。
 ブルー水晶は、黙って、ラセが泣き止むまで、傍にいた。


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