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海賊編 第六章 フォーチューン国本島

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「喉は乾いていないか?」
「すこし乾いたかも」
「そうか。では、一度会場に戻って何かのど越しのよい飲み物をもらってくる。
 それまで、ここで待っていてほしい」

 ホークは、会場へと戻って行った。
 ホークの姿が見えなくなり、ぼんやりとしていると、水の精霊が、ラセを呼んだ。

『あなたに会ってほしい人がいます。一緒に来ていただけますか?』
「でも、ホークに待っていてほしいって言われたから」
『あまり、時間は取りません。向こうの人にも時間がありませんから』

 水の精霊のひっしさに負けて、ラセはベンチから立ち上がった。
 水の精霊に導かれて、ラセは、城の中に作られた池にやって来た。
 池の周りでは、水の精霊達が、優雅に泳いでいる。
 そして、ラセを導いた水の精霊は、池を覗き込む少年の前まで連れて来た。

『あちらにいるのは、フォーチューン国第二王子パール。
 パール王子の悩みを聞いてもらえますか?』

 ラセに気付いたパール王子は、ラセを見るとおびえた表情をした。

「そちは、誰だ?余に何か用か?」

 震えながらも威厳を保とうと必死だ。
 ラセは、パール王子と目線を合わせる為、片膝を地面に付けた。

「初めまして、パール王子。私の名前は、ラセ。
 水の精霊より、あなたの悩みを聞くようにと承った者です」
「水の精霊!そち水の精霊が見えるのか!」
「ええ」
「嘘ではないな!ホークより精霊が見えると嘘づく者が、山のようにいると聞いているぞ!」

 ラセの隣には、まだ水の精霊が寄り添っていた。
 パール王子の周りにも、パール王子を守るかのように、水の精霊達が傍に控えている。
 でも、パール王子は、目の前を水の精霊が通り過ぎても、見向きもしなかった。
 ラセの耳に水の精霊が耳打ちする。

『パール王子には、精霊がお見えにならないのです』

 水の精霊の言葉を聞いて、ラセは納得した。
「パール王子は、水の精霊を見ることが出来ないことを悩んでいらっしゃるのですか?」

 ラセの適切すぎる言葉に、パールは驚いて後ろに下がった。

「どうして、そのことを」
「今さっき水の精霊が教えてくれました。今もここにいます」

 ラセは、水の精霊がいる辺りを指差した。
 だがやはりパール王子には、見えていないのか、焦点が合わない。

「余には見えぬ。ウェイル兄様には、水の精霊が見えて扱うことも出来たと聞いて育ったから、余は、自身がなさけない。せめて国家の宝があれば、余でも、水の精霊を見ることが出来たであろうに」
「え?国家の宝には、水の精霊を見る事が出来る力があるのですか?」
「ある。少なくとも、余の様に、水の精霊を見ることが出来なかった者でも、指輪に選ばれ、海の加護を受ける儀式をして認めた者には、加護の証として、水の精霊を見ることが出来るようになるのだ」
「ならば、パール王子は、もし、国家の宝である指輪を手に入れ、海の加護を宿したのならば、フォーチューン国本島と属する島々、李祝を闇の霧より救う為に力を使っていただけますか?」

「王になる者として、当然であろう」

 パール王子は、躊躇いなく答えた。
 小さな身体には、確かに次期王としての器が備わっている。

「だが、キラーは、どう思っているのかは、わからぬ」
「キラーが何か関係が?」
「キラーは、余が水の精霊を扱えない代わりに、水の精霊を扱い、余が扱っているようにみせてくれている。
 水の精霊が見えない多くの国民は、キラーの術に騙されている。
 余はキラーには、逆らえない。
 自分の嘘がばれるのだ、怖いのだ。
 余は、情けないであろう」
「そんなことはありません!」

 ラセは、パール王子の片手を握りしめた。

「嘘がばれるのは、誰だって怖いです。
 嘘を付かなければ、生きていけないことだって、たくさんあります」
「ラセ。そなたは、優しいのだな」
「違います。私も嘘を付いて生きていますから」

 パール王子は、ラセと繋いだ手に、もう片方の手を重ねた。

「たとえ嘘を付いていても、ラセのぬくもりは、余には心地よい」

 目を細めたパール王子は、穏やかな表情を浮かべていた。

「ラセ~。どこだ~」

 ラセを探す、ホークの声が聞こえた。
 ラセは、パール王子から離れる。

「申し訳ありません。連れが呼んでいますので」
「ホークを味方につけているのか。ラセは、只者ではなさそうだ」
「ご謙遜を」
「いや、本心だ。余もそろそろキラーが迎えにくる頃合いだ。
 余は、舞踏会で演説をする。
 その際キラーが術を使う。
 ラセの目には、どのような滑稽な光景になっているのか、見ていてほしい」
「パール王子。舞踏会が終わって、皆が寝静まってから、もう一度ここに来ます。
 あなたを、真の王にする為に」

 ラセは、ホークの方へと駈け出した。

「おかしなことを言う娘だ。だが気に入った。余もいつまでも、キラーに頼ってばかりはいられない」

 パール王子は、水の精霊が居るで、あろう場所を眺めた。

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