盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

文字の大きさ
上 下
62 / 115
海賊編 第六章 フォーチューン国本島

62

しおりを挟む
 フォーチューン国本島へと海賊船は、たどり着いた。
 李祝が闇の霧に奪われたことと、住民の移住願いの為、クレイ達は役場を訪れることにした。

 ラセは、本島に上陸する気はなかったのだが、チャナについてきてほしいと言われて断れなかった。

「李祝は、闇の霧に奪われ、移住を望むと」
「そうである」

 役人の言葉に、チャナは同意を示した。
「そうか。ではこちらに移住する人間の情報を記入してくれ。
 それから、正式な住まいが振り分けられるまでは、使用していないホールを利用してくれ。防寒用に毛布も用意されている。食事は役場にある食堂を利用してくれ。この券を渡せばただで食事をもらえる」

 役人の男は、食券の束を数個チャナに放り投げた。

「それから、文化の違いは多々あると思うが、本島に合わせるように。
 歴史書を一冊支給して置く。以上だ。何か質問は?」
「李祝を闇の霧から助ける為の援軍は出せないであるか?」
「……残念だが、本島には戦力がない。
 正直移住民を養うだけでもきついのだ」

 役人は、話はこれで終わりだと切り上げるかのように席をたった。

「待ってほしいである。精霊。精霊を扱える者がここにいるである!
 その者を本島に差し出すである。それならば、李祝を救ってくれるであろう?」

 差し出すと指を指されたラセは、チャナの突然の提案に困惑した。

「おい。ラセは物じゃねーんだ。ほいほい誰かに渡せるかよ!」

 付いてきたルイが反論した。
 役人の男性は、じっとラセを見つめた後、嘆息した。

「水の精霊が見えると嘘を付く者は、本島には山の数ほどいる。
 その様な嘘に騙されているほど、我々は暇ではない」
「ウェイルが言っていたことって本当だったんだ」

 思わずラセは、感心してつぶやいていた。
 今まで厄介事だとしか思っていなかった役人が驚いた様にラセを見た。

「貴様、ウェイル様にお会いしたことがあるのか?」
「えっ、えっと」

 役人の迫力にラセの方が驚いてしまう。
「ウェイルって闇の霧の者だよな。確かラセの婚」
「わー。わー。わー!」

 ラセは慌てて、ルイの口を塞いだ。
 すっかり忘れていた。ウェイルはこの国にとって重要人物だったのだ。
 婚約者だと知られれば、間違いなくラセの正体がばれる。
 少なくとも、目の前に立つ堅苦しい容姿の深海色の髪をした役人は、知っているだろう。
 ラセは曖昧にごまかし笑いを浮かべた。

「闇の霧を追っている時に、出会ったのです。特に深い関係ではありません」

 ひっしにごまかすラセを、訝しげにクレイは見つめた。
 ルイがラセの腕を叩いている。
 そこでようやくルイの口を塞いでいたことを思いだしたラセは手を離した。

「うはー。息苦しかった。どうしたんだよ。いきなり」
「えっと、ごめんなさい」

 ラセが謝るとルイはこれ以上追及してはこなかった。
 空気が読めていないようで、聞いてほしくないことは聞かないルイの性格が、ラセには居心地がよかった。

「ウェイル様は、お元気でしたか?」

 役人の男性の目が和らぐ。
 少なくとも、ウェイルに悪意を持っているわけではなさそうだ。

「はい。元気そうでした。闇の霧には侵されていましたけど」
「そうか。よかった。ずっと安否を確認したいと思っていた」

 役人の男性は、安堵の表情を浮かべた。

「私は、ホークと言う。貴方の名前は?」

 ホークは、名刺をラセに手渡した。

「あの、ラセです」

 ラセは仕方がなくホークに名を名乗った。

「そうか。ラセか。覚えておこう。
 また今度ウェイル様のお話が聞きたい」

 ホークは、今度こそ席を立つと、事務処理へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...