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海賊編 第五章 李祝
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しおりを挟む「対抗してみせる。むしろ、闇の霧に侵される恐れのある人々は足手まとい」
ラセの言葉にクレイは血が上ってしまった。
ラセの肩を乱暴に揺らす。
「足手まといだと!俺は、お前の事を家族だと思っていたのに、それなのに!」
「クレイ!それ以上ラセを責めたらだめだ」
ラセとクレイが揉めていることに気付いたルイは二人の間に入って止めた。
「止めるな。ルイ。ラセは、俺達を蔑んだんだ。許せる訳がないだろう!」
クレイの怒りは収まらない。
「ラセは、俺達の安全を考えて言っているんだと思う。
そうだよな。ラセ」
ルイの言葉に、ラセは頷いた。
「私には、セントミアがいる。だから、闇の霧には侵されない。
でも、もしもの時を考えて住民を避難させてほしい。
それは、クレイ。あなたにしかお願い出来ないことだから」
「セントミアは、ラセのペットでさ。普段はラセのペンダントに宿っているんだけど、闇の霧の効果を無効化させたり、属性魔法を使えたりする、すげー奴なんだ。だから、ラセは大丈夫だから」
「ルイの言葉は、本当なのだろうな?」
クレイの質問に対して、ラセは頷いた。
かつて、闇の霧の者であるウェイルとの戦闘を思い出したクレイは、もうラセを止める気になれなかった。
頭に上っていた血が下がって行く。
それと同時に、自分に出来ることをしておかなければと、クレイは顔を引き締めた。
「わかった。住民の避難は、俺達にまかせておけ」
「ありがとう。クレイ」
「ただし」
クレイは言葉を切ると、ラセに真剣な眼差しを向けた。
「絶対に戻ってこい。でないと海賊船は出発しない」
これだけは、譲れないからなと告げると、クレイは住民の保護へと移った。
ラセは、クレイの言葉に胸を打たれた。
仕事や役割の関係で居なければいけない所はあったが、全て一時的な場所で、帰る場所などなかった。
帰りたいなどと、思うことすら忘れていたのに。
どうしてだろう?
今は、家族だと言ってくれた人達が待つ海賊船に帰りたくてしかたがない。
「ラセ」
ルイの声で、ラセは思考から現実へと引き戻される。
「いくらラセが強くても、セントミアが闇の霧を防げても、俺はラセが心配だよ。
きっとクレイも同じ気持ちだったから、怒ったんだと思う」
「ルイ」
「俺も待っているよ。ラセが戻ってくるのを」
ルイの言葉が純粋にうれしかった。
「ありがとう。送り出してくれて。闇の霧を倒して帰ってくるから」
ラセは、セントミアを呼び出した。
召喚に応じたセントミアが、ラセの肩に飛び乗る。
「行ってきます」
ラセは、風の精霊の力を借りて駈け出す。
あっという間に見えなくなった、ラセを見送りながら、ルイは唇を噛んだ。
「どうして、力になってあげられないんだろうな」
ルイは、無力な自分を嘆いた。
ラセは最初に、領主の屋敷へと向かった。
既に屋敷の辺りは、闇の霧に覆われている。
「風よ!」
ラセが風の精霊にお願いすると、辺り一面に広がっていた闇の霧が吹き飛ばされる。
視界が晴れる。
門には、誰も居なかった。
ラセは、身軽さと風の精霊の力を借りて門を乗り越える。
「うっうっ」
呻き声を上げる男性が居た。
男性は焦点の合わない目をしており、ラセを視界に入れると、ふらつく足取りで襲い掛かって来た。
ラセは華麗に男性をよけて、手に出現させた短槍の角をぶつけて、男を気絶させた。
男は闇の霧となり、消えて行った。
「すでに、闇の霧に侵されている!」
ラセは、警戒しながら、チャナを探すことにした。
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