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海賊編 第五章 李祝

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「なるほど。闇の霧と戦っていると聞きましたが、どのような対応をされているのですか?」
「闇の霧は、闇の霧を作り出す根源を叩けば、消滅することがわかっている」
「つまり、私達がしなければいけないことは、闇の霧の根源の破壊か」

 クレイは、顎に手を当てて考え込んだ。

「闇の霧を長時間浴びると、闇の霧に精神も肉体も取り込まれることは、ご存じで?」
「知っているである。意気地がないのであれば、はじめから援軍になど来るでない!」

 チャナが、机を叩いた。
 怒りで震えるチャナをなだめるように落ち着いた声音で、ラセは話した。

「チャナ様。私達はただ現状確認をしているだけです。ご機嫌を損なわせてしまったのでしたら、お詫び致します」
「そうか。そうであるな」

 チャナは頭に血が上った自分を恥じるように、怒りを収めた。
 その様子にラセ達は安堵した。

「そちら、宿はあるのか?なんなら、滞在の間は、こちらで手配するが?」
「いえ。お気遣いは、無用です。私達には船がありますので」
「寝泊まりできるほどの船か?それは大きいのか?」
「ああ。古いが、手入れさえ怠らなければ、良く働く船だ」
「そうであるか。ならば、チャナも見てみたいである。そちらの船を」
「「「「え?」」」」

 四人は顔を見合わせた。
 そして、なぜかチャナを連れて海賊船の前まで来ていた。

「随分とぼろい船であるな」
「まあ、ぼろいのは認めますが」

 客人を連れて来たクレイ達を海賊達がひやかした。

「それが、領主か。随分とべっぴんじゃねーか」
「なあ、今夜おれと一夜を共にしねーか」

 海賊達が下品な笑い方をする。
 ラセが今まで、海賊達に冷やかされなかったのは、ただ単に女として魅力がなかったからだろう。いや、いまだに、女だと気付いていない者もいるし。
 下品な男達を見て、チャナが怒りに震えている。

「おめーら。静かにしろ!」

 クレイが、海賊達をなだめようとするが、興奮した荒くれ者達は簡単には収まらない。

「不潔である!」
「チャナ様!」

 チャナは、海賊達についていけず、領主の屋敷の方へと家臣を連れて戻って行く。
 それを慌ててクレイが追いかける。

「申し訳ありません。すぐに黙らせますので」
「もう、よいである。チャナは、不潔は嫌いである」

 チャナは、クレイを振り返ると告げた。

「とにかく、闇の霧の件は、まかせたである」

 そのまま、苛立ちを隠さずに、チャナは歩いて行ってしまった。

「なんなの?あの高飛車な態度は?」

 いままで黙って従っていたアンナが、チャナを見つめながらつぶやいた。

「領主としての使命が、あの娘を高飛車にしているのだろうさ」

 多くの貴族を見て来たクレイは、そう判断した。

「闇の霧が発生したぞ!」

 男性民の叫び声に辺りがざわめいた。

「領主様に知らせねーと」
「闇の霧はどこで発生した」

 クレイは、闇の霧の発生を告げた男の腕をつかんだ。

「なんだ?あんたらは?」
「俺達は、チャナ領主より、闇の霧の破壊を命じられた者だ。
 闇の霧は、どこで発生している!」
「茶畑で発生していた。あたり一面が闇の霧に包まれていて」
「わかった。茶畑だな。おい、海賊達を叩き起こせ。闇の霧狩りに向かう!」
「待ってクレイ」

 ラセは、クレイの袖を掴んで止めた。

「闇の霧は、茶畑だけに発生している訳ではない。
 ここと反対側の砂浜と、領主の屋敷の裏手にも」

 ラセは、風の精霊と水の精霊が運んできた情報を正確にクレイに告げた。

「どうして、見てきてないのにわかるんだ?」

 クレイの疑問はもっともである。
 それでも、ラセは言葉を続けた。

「海賊達は、海賊船に乗せたままにして、いつでも船を出せる準備をさせて。
 李祝の住民は、出来るだけ、船に乗せて保護して」
「闇の霧はどうする?」
「私一人で叩く」

 ラセの無謀すぎる提案に、クレイは怒鳴った。

「ふざけるな。子供一人で闇の霧に対抗できるわけがないだろ!」
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