盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第五章 李祝

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 李祝。
 フォーチューン国の島国に属する小さな島。
 だが、独自の文化を築き上げており、上陸したラセ達は、物珍しさに辺りを見回した。
 所々に、見たことのない柄の刺繍がかけられているのだ。
 どれも神秘的な刺繍で見ている人の心を魅了する。
 手作りのようで、同じものは一つもない。

 道行く人に聞いて回りながら、目的の人物であるチャナを探す。
 チャナはどうやら、領主だけあって一番立派な屋敷に住んでいるらしい。

「李祝の領主チャナ様にお目通りを願いたいのですが」

 巨大な柱に囲まれた門。
 そこにいる武装した門番に、ラセは声をかけた。

「貴殿らは、何者だ。何の用があり、領主と面会を望む?」

 ラセは、ジイから渡されたチャイナ服を取り出した。

「私は、ラセ。チャナ様の祖父から、李祝を闇の霧の脅威から救うように命じられた者達です」

 ラセの言葉に対して、二人の門番は、顔を見合わせて相談し始めた。

「領主様に面会する意思があるかの確認を取る。それまでは、その場を動かぬように」

 一人の門番が、屋敷の中へと入る。
 もう一人の門番は警戒を解かずに、ラセ達を見張っている。

 しばらくして、門番が戻って来た。
 門番の後ろには、赤いチャイナ服を来た少女と、少女の家臣が数人付いてきた。
 少女は、漆色の髪を二つに分けてお団子にした髪型をしている。
 控える家臣も髪を一つに束ねお団子にしていた。

「そちらが、チャナに用のある客人であるか?」

 チャナと名乗った赤いチャイナ服の少女は、堂々としたたたずまいをしている。

「はい。そうです」

 ラセは、チャナに対して頭を垂れた。
 ラセに会わせるように、着いてきたクレイ、アンナ、ルイも同様の動きをした。
 ちなみにこのメンバーになったのには理由がある。

 第一に、大勢で押しかけるのは迷惑になる為。
 第二に、ジイと面識がある人間で、李祝の闇の霧問題を助けることになった経緯を知っている者。
 第三に、李祝の人間と問題を起こした場合、瞬時に自力で海賊船まで逃げ帰る自信のある者。
 これら、三つの考えの結果、トタプは第三項目に当てはまらなかった為、除外された
 残りのジイと面会したラセ、クレイ、アンナ、ルイの四人が訪問することになったのである。

「まあ、立ち話も辛かろう?客間に案内させるゆえ、着いてくるである」

 チャナは踵を返すと、家臣達を伴って歩き出した。
 ラセ達もチャナの言葉に従いついて行く。
 屋敷の中にも、独自の模様が建物の所々に掘られていた。
 それを眺めながら歩いていると、いつの間にか客間に到着していた。

「遠慮せずに座るである。よい茶葉を用意してある」

 チャナが座ると、家臣が人数分のお茶を持ってきた。

「これは?」

 紅茶とも珈琲とも違う緑色の飲み物にクレイ達は困惑した。
 湯呑を持ちながら、チャナは豪快に笑った。

「そちら、茶を知らぬか?茶は、李祝の主な産業である。
 段々畑に並ぶ茶葉は、美しい濃色をしておるぞ」

 チャナが茶を口に含む。
 それを見てラセ達も真似して口に含んだ。

「おいしい」

 紅茶や珈琲とは違った苦みがあるが、濃い味が舌に心地よい。

「そうであるか?気に入ってもらえたようで、チャナもうれしく思うぞ」

 李祝の茶を飲んだ事にチャナは、満足したようだ。
 とりあえず、いまのところは機嫌を損ねてはいない。
 このまま、本題もうまく話が出来ればよいのだが。

「それで、本題の方へと移りたいのですが?」
「そうであるな。そちらは祖父の使いとのことだが、エレメンタル大陸の王国所属部隊か?」
「……いえ、違います。私達は、ジイさんと知り合いの一般人です」

 ラセの言葉を聞いたチャナは落胆した表情を浮かべた。

「そうであるか。以前本島から通知された事実は変わらぬか。

 だが、そちらだけでも、援軍に来てくれたのならば、チャナはうれしく思うぞ」

「それで、具体的にどのような被害状況で?」

 クレイの言葉にチャナは表情を曇らせた。

「あまりよくないである。すでに、隣の島は闇の霧に支配され、助かったわずかな民は、移住したである。
 李祝にも、ときおり闇の霧が出現して、移住を望む民が多くいる。
 だが、チャナは、育ったこの島を諦めたくはないである」
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