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海賊編 第四章 凪

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「それからは、闇の霧を追ってセントミアと旅をしていた」
「そっか」

 思いがけない形でラセの過去を知ったルイは、うまい言葉が思いつかず、返事をするだけで精一杯だった。

「誰かに、自分の話をしたのは、初めてかも」

 ラセは、照れたように笑った。
 いままで、ウェイルだけが、自分を知っていてくれればいいと思っていた。
 他の人間など、闇の霧の情報を手に入れる為の手段でしかないと、軽んじて深い付き合いはしてこなかった。

 でも、ルイに話して、重荷が降りた気がした。
 全ては、まだ語れないけれど、ルイにすこしずつ、心を許し始めている自分が居ることに気付いた。

 セントミアは、得意げな顔をした。
 ちょっと悔しくなって、ラセはセントミアの頬を突っつく。

「あれ?二人とも、夕飯出来たよ?」

 夕飯に来ないラセとルイを探しにトタプが来てくれたみたいだ。
 話し込んでいたらいつのまにか辺りは夕日に包まれていた。

「は~い。いま行く!」

 ご飯と聞いて頬を緩ませて、駈け出すラセ。
 いまだセントミアを肩に乗せたままのルイは、なさけない顔でトタプを見た。

「どうしたの?元気がないようだけど?」
「俺、ラセの事、何もわかってなかったんだな」


 ラセがウェイルを想う強い気持ち。
 ウェイルを助ける事だけを目的として闇の霧に立ち向かい続けるラセ。
 人よりも、体術が得意なのも、仕事を完璧にこなせるのも、
 誰よりも努力をして生きて来たからなのだと実感させられた。

「知らないのならば、これから知って行けばいいよ。
 ラセちゃんは、僕達海賊団の家族なのだから」

 トタプの言葉に、ルイは励まされた。

「そうだよな。俺、ラセを守れるように強い男になるよ」
「その調子だよ。ルイ」

 元気を取り戻したルイを安心した様子でトタプは眺めた。
 目線をルイの肩に乗るセントミアに移した。

「ラセちゃんのペットだったよね。ミルクでも飲む?」
「ミア~」

 トタプの問いかけに対して、セントミアは、鳴き声で答えた。
 どうやらトタプには、人語を話せることを隠しておいた方が得策と考えたのだろう。

「わかった。すぐに持ってくるね」

 トタプは、ミルクを取りに船内へと戻って行った。

「お前しゃべれたはずだよな?」

 塀へと移ったセントミアにルイは問いかける。

『人語を発せられることは、どうか御内密に』

 風に珊瑚色の毛をなびかせながら、セントミアは、笑みを浮かべた。
 逆らうことをゆるさないと訴える笑みに、ルイは苦笑した。

「わかった。お前の事は、誰にも言わないよ」

 セントミアは、ルイの回答に対して満足したのか、嬉しそうな鳴き声を発した。

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