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海賊編 第三章 ノリ―ア姫
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クレイは、去って行ったラセの事を忘れようと悪態を付いた。
「……ラセならば、どんな軍隊でも打倒してみせるでしょう。
彼女の言葉が偽りではなく、真実ならば」
「ラセの言葉?」
ノーリア姫は、頷いた。
「ラセは、風の精霊と、水の精霊の恩恵を受けし子。
本来ならば、一つの属性しか宿せぬ人間に宿った二つの属性を持つ選ばれた存在。
それが、彼女ですわ」
ノーリア姫は、昔を思い出す。
精霊が見えると嘘を付く彼女。
歴史書の内容が、精霊の話と違っているから、間違っていると述べた彼女。
大人に都合の悪い嘘を付く彼女は、悪い子で。
誰からも、信じてもらえなくて、わたくし自身信じてあげられなくて。
彼女が居なくなって、自分が犯した罪に気付いた。
彼女が再び、自分の前に現れて、不可能な状態で助けられて初めて、彼女の言葉を信じられた。
今度、もし出会えたら、彼女の全てを信じてあげたかった。
それなのに、口からこぼれる言葉は、懺悔の言葉ばかり。
自分の心の傷を救ってほしくて、だから、彼女に許してほしくてすがってばかり。
そんな、わたくしを許してくれた彼女は、誰よりも強いのだと思う。
「ラセが、二属性所持者」
クレイが、驚きで目を見開いた。
「なあ、俺、ラセが何者でも、どんなに強くても、一人になんかさせたくないよ。
だって、ラセは、俺よりも年下の女の子なのだから」
ルイの言葉に、アンナが、寄り添った。
トタプも家族を守るように包み込む。
「クレイ。悪いけど、僕達も今日から、王国所属の海賊をやめるね」
トタプの言葉を、クレイは黙って聞く。
「利害が一致したから、いままで王国に仕えて来たし、正しい事をしているんだって優越感も味わえた。でも」
トタプは、アンナの手を握りしめる。
アンナもトタプの手を握り返した。
言葉を発しなくても、想いは同じだから。
「ラセちゃんは、もう僕達海賊団の家族で、家族を守れないのは辛いから、だから行くね。クレイ」
「たっく。やってられるかよ」
クレイは、胸元に付けた、王国所属である、役人の証を投げ捨てた。
「クレイ?」
「俺も行くよ。役人なんて堅苦しい役職辞めてやる」
「えっと、でもクレイ家族は?」
「いねーよ。とっくの昔に両親は、闇の帝国に殺された。
育ててくれたじっちゃんも、病気で数年前に死んだ」
帰る家なんて、どこにもなかった。
どんなに、剣の腕を磨いても、褒めてくれる人は居なくて、守りたい人も、もうこの世に居ないんだって気付いた時、
何のための剣なのだろうと思っていた。
そんな時、王妃自ら、迷っている俺に手を差し伸べてくれた。
元々堅苦しいのが似合わなかった俺は、海賊船に配属されて、荒くれ者達と大騒ぎして、いつのまにか、寂しさとか、虚しさとか、意味とかいろいろ考えなくなって、
すごく気が楽になっていたんだ。
家族みたいに包み込んでくれる温かさが、羨ましかったんだ。
「さあ、迎えにいこうぜ。俺達の大切な家族」
クレイの不敵な笑みに、調子のいい奴と思いながらもトタプは、安堵していた。
本当は、クレイを敵に回してしまいたくはなかったから。
「ラセ」
地図をジイから受け取り、玄関から出て行こうとしたラセを引き留めた。
「なに?」
ラセは、平常心を保ちながら、そっけなく聞こえるように答えた。
ラセが出て行った後の部屋の中での会話を、風の精霊を通して、全て聞いていたなど、言えるわけがない。
「俺達もラセと一緒に行くから。
だから、一人で行ったりするなよ」
ルイが、ラセに手を差し伸べる。
「そう。なら、私を連れて行ってくれる?フォーチューン国の李祝へ」
照れくさそうに、目をそらすラセに向かって、
「ああ」
ルイは、微笑んだ。
「良い仲間をお持ちになりましたね」
ジイは目を細めて、ラセに微笑みかけた。
「別に……」
ラセは、どう対応していいかわからずに、そっけなく返した。
「……ラセならば、どんな軍隊でも打倒してみせるでしょう。
彼女の言葉が偽りではなく、真実ならば」
「ラセの言葉?」
ノーリア姫は、頷いた。
「ラセは、風の精霊と、水の精霊の恩恵を受けし子。
本来ならば、一つの属性しか宿せぬ人間に宿った二つの属性を持つ選ばれた存在。
それが、彼女ですわ」
ノーリア姫は、昔を思い出す。
精霊が見えると嘘を付く彼女。
歴史書の内容が、精霊の話と違っているから、間違っていると述べた彼女。
大人に都合の悪い嘘を付く彼女は、悪い子で。
誰からも、信じてもらえなくて、わたくし自身信じてあげられなくて。
彼女が居なくなって、自分が犯した罪に気付いた。
彼女が再び、自分の前に現れて、不可能な状態で助けられて初めて、彼女の言葉を信じられた。
今度、もし出会えたら、彼女の全てを信じてあげたかった。
それなのに、口からこぼれる言葉は、懺悔の言葉ばかり。
自分の心の傷を救ってほしくて、だから、彼女に許してほしくてすがってばかり。
そんな、わたくしを許してくれた彼女は、誰よりも強いのだと思う。
「ラセが、二属性所持者」
クレイが、驚きで目を見開いた。
「なあ、俺、ラセが何者でも、どんなに強くても、一人になんかさせたくないよ。
だって、ラセは、俺よりも年下の女の子なのだから」
ルイの言葉に、アンナが、寄り添った。
トタプも家族を守るように包み込む。
「クレイ。悪いけど、僕達も今日から、王国所属の海賊をやめるね」
トタプの言葉を、クレイは黙って聞く。
「利害が一致したから、いままで王国に仕えて来たし、正しい事をしているんだって優越感も味わえた。でも」
トタプは、アンナの手を握りしめる。
アンナもトタプの手を握り返した。
言葉を発しなくても、想いは同じだから。
「ラセちゃんは、もう僕達海賊団の家族で、家族を守れないのは辛いから、だから行くね。クレイ」
「たっく。やってられるかよ」
クレイは、胸元に付けた、王国所属である、役人の証を投げ捨てた。
「クレイ?」
「俺も行くよ。役人なんて堅苦しい役職辞めてやる」
「えっと、でもクレイ家族は?」
「いねーよ。とっくの昔に両親は、闇の帝国に殺された。
育ててくれたじっちゃんも、病気で数年前に死んだ」
帰る家なんて、どこにもなかった。
どんなに、剣の腕を磨いても、褒めてくれる人は居なくて、守りたい人も、もうこの世に居ないんだって気付いた時、
何のための剣なのだろうと思っていた。
そんな時、王妃自ら、迷っている俺に手を差し伸べてくれた。
元々堅苦しいのが似合わなかった俺は、海賊船に配属されて、荒くれ者達と大騒ぎして、いつのまにか、寂しさとか、虚しさとか、意味とかいろいろ考えなくなって、
すごく気が楽になっていたんだ。
家族みたいに包み込んでくれる温かさが、羨ましかったんだ。
「さあ、迎えにいこうぜ。俺達の大切な家族」
クレイの不敵な笑みに、調子のいい奴と思いながらもトタプは、安堵していた。
本当は、クレイを敵に回してしまいたくはなかったから。
「ラセ」
地図をジイから受け取り、玄関から出て行こうとしたラセを引き留めた。
「なに?」
ラセは、平常心を保ちながら、そっけなく聞こえるように答えた。
ラセが出て行った後の部屋の中での会話を、風の精霊を通して、全て聞いていたなど、言えるわけがない。
「俺達もラセと一緒に行くから。
だから、一人で行ったりするなよ」
ルイが、ラセに手を差し伸べる。
「そう。なら、私を連れて行ってくれる?フォーチューン国の李祝へ」
照れくさそうに、目をそらすラセに向かって、
「ああ」
ルイは、微笑んだ。
「良い仲間をお持ちになりましたね」
ジイは目を細めて、ラセに微笑みかけた。
「別に……」
ラセは、どう対応していいかわからずに、そっけなく返した。
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