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海賊編 第三章 ノリ―ア姫
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しおりを挟むラセに飛びつくノーリア姫。
抱き着かれたラセは、ノーリア姫が倒れないように仕方がなく支えた。
「ノーリア姫。ドレスが汚れます。お退き下さい」
「あら、ドレスなど洗えばよいのですわ。けれども、ラセは、すぐに逃げてしまう気まぐれ屋さん。あなたを今離したら、どこへ行ってしまわれるかわかりませんわ」
ノーリア姫の溺愛ぶりに、お供としてやって来た人達は呆気にとられて固まった。
「ノーリア姫。お茶の用意が出来ました。客人の方々もどうぞお入りくださいませ」
昨日出会った老人執事が、助け舟を出すまで、ラセは、ノーリア姫に拘束されたままだった。
「先ほどは、お恥ずかしい所をお見せいたしましたわ」
お茶を飲んで落ち着いた、ノーリア姫は、照れながら謝罪を述べた。
「いや、別によいのだが、姫様とうちのラセとのご関係は?失礼が無ければ教えて頂きたいのだが」
クレイは、役人であるだけあって、言葉遣いの切り替えが出来るらしい。
普段のだらしない口調ではなくなっている。
「ラセは、わたくしを助けて下さった王子様ですわ」
ノーリア姫は、助けてもらった時の事を回想してうっとりとした表情になった。
「王子様?ラセが?確かに、体術はすごいけど」
ルイは、目を真ん丸にして、理解出来ていなさそうだ。
それよりも、先ほどから、トタプとアンナが、老人執事の事を何度もちら見している。
老人執事は、姿勢を正すと、頭を下げてお辞儀をした。
「おひさしぶりで、ございますね。トタプ様。アンナ様。共に大蛇の洞窟に入ってから、何年の月日が、過ぎましたかな?」
「では、やはりあなたは!」
「はい。私は、木の国、第三王女の世話役だった、ジイでございます。今は、ノーリア姫の執事をしております」
顔見知りだと気付くと、トタプとアンナの表情が和らいだ。
「本当に、おひさしぶりね」
「懐かしく、思います。それで、失礼ですが、セイハとロティーラのその後をご存じですか?」
「あの御方達ならば、国民の信頼も厚く、良い君主でいらっしゃいます」
「国民?君主?セイハとロティーラは、どこかで国を立ち上げたのですか?」
トタプの疑問に対して、ジイは、首を振って否定した。
「ご存じなかったのですか?てっきり知っている者かと思っていたのですが?」
ジイの言葉にトタプとアンナは、顔を見合わせた。
二人の顔には、お互いに知らないと書いてあった。
「セイハ様は、この水の国の国王。そして、ロティーラ様は、王妃を務めております」
ジイの衝撃の言葉に、トタプとアンナの口がふさがらない。
「おい、父さんと母さんって、王様と王妃様の知り合いだったのか?」
ルイが、固まったトタプとアンナに向けて、話しかけた。
「待った。いまルイは、トタプさんとアンナさんに向けて、父さんと母さんと言った!?」
「そうだけど?俺の父さんは、トタプで、母さんは、アンナだけど?」
言っていなかったけ?とルイは、首を傾げた。
「トタプ様とアンナ様にこのように大きなお子さんがいらっしゃるとは、ジイも嬉しく思います」
ジイは、のほほんと、紅茶に口を付けた。
ノーリア姫は、話に付いていけていないのか、つまらなそうな顔をしている。
クレイは、興味深げに聞いているが、どこまで理解出来ているのか怪しい。
すくなくとも、ルイが、トタプとアンナの子供であることは知っていたようで、そこには驚きをしめさなかった。
「ところで、ガベル様は、お元気でいらっしゃいますか?」
ジイが話題を変えたことで、トタプとアンナは、何とか復活した。
「ええ。父は、元気でいます」
「ただ、やっぱり海の上は苦手だって言って、今は、とある港町で、お店を開いているわ」
「そうですか。お元気そうでなによりです」
話がひと段落した所で、クレイが、首を挟んだ。
「ところで、話を変えるようで、申し訳ないのだが、昨日ラセに話した隣国の島国の話を詳しく教えてくれるか?」
「はい。隣国の島国は、島の集合体でなりたった国家で、本島の都市フォーチューンから国の名前を取ったそうです。
その中のひとつに李祝と名乗る小さな島があり、そこに、独自の文化を持つ私の故郷があります。
フォーチューン国は、数十年前から、国家の宝が紛失してしまい、海の加護を得られなくなりました。
そのせいで、国家の力が衰えてしまい、闇の帝国が発生させる闇の霧に、領土を奪われ続けております。
その、闇の霧の脅威が、ついに、李祝まで、及んでしまったのです」
「エレメンタル大陸の五つの王国は、フォーチューン国の問題に対して、どのような対応をしている?まさか、知らない訳ではあるまい」
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