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海賊編 第三章 ノリ―ア姫

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 船へと向かう道を、クレイが城の方から歩いてきた。

「別に遊び歩いてねーし」
「じゃあ、闇の霧に関する情報は手に入ったのか?」

 クレイが、ルイをからかうと、何も情報を手に入れられなかったルイは、そっぽを向いて拗ねた。
 クレイの言葉で、先ほど、ノーリア姫の執事より言付かった用件をラセは思い出した。

「クレイこれ」
「なんだ?この見たことない服は?はては、お土産か。まあラセには、似合いそうだけど」
「違う。闇の霧と領土争いをしているから助けてって言われた」
「は?誰から」
「とある執事から」

 ラセは、クレイに先程出会った執事の話を伝えた。
 ただし、ノーリア姫と知り合いであることは、隠した。
 まだ、海賊団の人達には、知られたくなかったから。

「なるほど」

 海賊船に戻った三人は、トタプの作った夕飯を食べながら、先ほどの話の続きをしていた。

「いくらこちらから聞いたとはいえ、見ず知らずの人間に対して、故郷の品を渡して、助けてほしいと言ってきたと。ちょっと話が妖しすぎないか?」

 見ず知らずの人間ではないのだが、ラセは、ごまかすために頷いた。

「でも、闇の帝国の領土問題の話は、本当らしいよ」

 エプロン姿のトタプが通り掛かって教えてくれた。

「今日、食材の買い出しにアンナと行ってきたのだけど、隣国の島国の人が、領土を闇の帝国に取られて移住して来たって話を耳にしたんだ」
「街に店を出している商人達も、最近よく見かけるようになったって証言していたし、現にわたしも見たわよ。それと似た服装をした人々を」

 同じテーブルに座っていたアンナも、口を挟んで情報を提供してくれた。

「と言うことは、少なくとも、闇の霧が、隣国の島国と争っているって話は本当ってことか?役場では、一度も話題にならなかったけどな」
「調べてみる必要性がありそうだね」
「そうだな。棺の件も、しばらく調べるのに時間ほしいって言われているし、その間ただ待っているのも勿体無いからな。おいラセ。明日その執事の所へ案内しろ」
「え!えっと?」

 ノーリア姫の事を隠して話した手前、どうやってその執事だけを呼び出したらよいのか、ラセには、考え付かなかった。



 リンゴーン。
 屋敷のベルを鳴らす。
 付いてきてしまったルイ、クレイ、トタプ、アンナを恨めし気に思いながら、ラセは、執事だけが、出てくるのを期待した。

「どなたで、ございますか?」

 出て来たのは、ノーリア姫の使用人だった。
 取りあえず、ノーリア姫自身でなくて良かったと安堵しかけて、使用人の女性は、ラセを嘲笑った。

「あら、雑用係だった、小娘じゃない。なに?黙って出て行ったくせに、やっぱり雇い手が無くて、いまさら、ノーリア姫様の元へ戻って来たの?嫌らしい女」

 使用人の女は、ラセ達が客人であることも忘れて、嘲笑い続けた。

「ノーリア姫って、木の国の第三王女であるエコシェーザニ―姫の娘、ノーリア姫の事か?」

 役人であるクレイは、王族であるノーリア姫の身分をすぐさま言い当てた。

「あら、そのお方以外にどなたがいらして?
 貴方達のような貧相な服装の方とは、ノーリア姫は、お会いにはなりませんわ」

 使用人の言葉に、ラセは、納得して後悔した。
あの時は、たまたま街中で出会ったから、貧相な恰好をしたラセでも屋敷へと招いてくれたのだ。でも、普通に考えたら、貴族のましてや、王族の屋敷を訪ねるのならば、正装でなければ駄目だ。
なぜ、こんな常識的なことも忘れていたのだろうか?
それは、ノーリア姫が、ラセの服装のことについても、無礼な口の聞き方についても、何も咎めなかったからだ。
慈愛深き乙女。そう国民から唄われるだけのことはある。
近くにいすぎて気付けなかった。
何も、ノーリア姫の良さを理解出来ていなかったのだと、今になって後悔した。

「ごめんなさい。この屋敷ではなかったみたい。どこだったか思い出すから」

 ラセは、慌ててノーリア姫の屋敷から、ルイ達を連れて離れようとした。
 これ以上、一緒に居るルイ達まで、不愉快な言葉を浴びせられ続ける必要はない。

「あら、何か門の方が騒がしいようですけれども、なにか問題でも?」

 家臣達の停止を押し切って、ノーリア姫が、門に姿を現した。
 美しいウェーブした濃緑の長い髪。落ち着いた色合いのドレス。
 逃げ出そうとしていた、ラセとノーリア姫の視線が合った。
 ノーリア姫の表情が、みるみると緩んでいく。

「まあ、ラセの方からいらして下さるなんて、わたくしは、とても幸せ者ですわ」
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