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海賊編 第二章 義賊テール
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「う、うっ」
声を殺して、泣きつくラセをウェイルは、抱きしめ返した。
「まったく。僕のお姫様は、本当に無茶ばかりなさる」
「だって、ウェイルに会いたいから」
ウェイルは、ラセの頭を優しくなでた。
「君を攫っていければ、よかったのにね」
「ウェイル?」
ラセは、涙でぬれた瞳で見上げた。
ウェイルは、ラセの涙を指で拭う。
抱きしめていた、身体を離すと立ち上がった。
「ウェイル?どこへ行くの?」
「仕事へ」
「待って!」
ウェイルは、ラセの停止の声を聞かずに、闇に溶け込むようにして、姿を消してしまった。
「いつまでも、泣いてばかりは居られない」
ラセは、自分を奮い立たせて立ち上がった。
ウェイルが仕事をすると言ったら、ひとつしかない。
「きゃー!闇の霧だわ!」
貴婦人の悲鳴が舞踏会会場から聞こえた。
ラセは、ウェイルを止める為に、駈け出した。
舞踏会会場は、混乱に包まれていた。
闇の霧のせいで、シャンデリアの光が、地上まで届かず薄暗い。
闇雲に走り回って、周りは大参事だ。
「皆さん。落ち着いて下さい」
王妃のひっしの呼びかけも、周りの人々には届かない。
ラセは、会場の窓を開けて回りながら、風の精霊を探した。
窓を開けたことにより、入り込んでくる新鮮な空気。
その中に風の精霊達も居た。
「風の精霊。お願い。闇の霧を会場から追い払って!」
ラセの声が聞こえたのか、風の精霊達は、闇の霧を外へと追い出し始めた。
闇が薄れゆく中。黒いフードをかぶった怪しげな人影を見つけた。
その人影は、戸惑っているノーリア姫達に近づいていた。
手に光るのは、刃物だろうか?
ラセは、ノーリア姫の元へと急ぐ。
闇の霧が、晴れた。
ノーリア姫の目の前には、刃物を振り上げた人物。
ノーリア姫は、恐怖に震えて動けない。
もちろん、ノーリア姫のお供をしていた侍女達もだ。
騎士たちは異変に気付いたが、遠すぎて間に合わない。
「風よ!」
ラセは、風の精霊の力を借りてさらに加速する。
そして、加速しながら、ペンダントを開けて、愛用の短槍を取り出すと、ノーリア姫と、黒いフードの人物との間に割ってはいり、刃物を押さえつけた。
「く!」
黒いフードの人物が、ラセから、間合いを取る。
ラセは、ノーリア姫を背後に庇いながら、得意の突きを繰り出す。
ラセの突きは、黒いフードの人物に突き刺さった。
だが、刺した感覚がない。
黒いフードの人物は、闇の霧となり、姿を消してしまった。
「取り逃がしたか」
ラセは悔しげに、顔を歪めた。
「ラセ?」
庇われていたノーリア姫が、ラセの顔を覗き込む。
「やっぱり、ラセですわ。助けに来てくださったのですね」
ノーリア姫の言葉に、ラセは、向き直り頭を垂れて膝を付いた。
「ノーリア姫。ご無事でなによりでございます」
「それは、ラセが、守って下さったからですわ」
ノーリア姫は、ラセの手を掴んだ。
「本当に、ありがとう」
ノーリア姫の心からの感謝の言葉にラセは、顔を上げた。
しゃがみこんだノーリア姫は、ラセと視線が合うと、花が咲いたかのように微笑んだ。
なぜ、避けていたのだろうか?この美しすぎる姫君を。
ラセの心が、ふと軽くなるのを感じた。
過去の事は、過去の事。
あの頃の自分は、もうどこにもいない。
そして、今日の自分も明日には居ない。
「ノーリア姫。いままで、冷たい態度を取った事、お詫び申し上げます」
「では、これからは、仲良くしてくださるのですね」
ノーリア姫は、嬉しそうに微笑んだ。
けれど、ラセが告げた言葉は、ノーリア姫の期待を裏切るものだった。
「はい。いつかまた巡り会えたその日には」
ラセは、ノーリア姫の手袋がはめられた可憐な手に口付けを交わすと、不敵に立ち上がった。
「え?」
ノーリア姫は、ラセの告げた言葉の意味がわからずに、困惑した。
その間に、ラセは、出口へと駈け出した。
「待って!」
ノーリア姫が、言葉の意味に気付いた時には、既にラセの姿を見失っていた。
「どうして……」
去ってしまった、ラセの後を、ノーリア姫は、じっと見つめた。
「ノーリア姫。このような所に座り込んで、どうなさったのですか?」
ノーリア姫に話しかけて来たのは、王妃だった。
ノーリア姫は、恥ずかしそうに立ち上がると、ドレスを整えた。
「その、友達が、旅立ってしまいまして」
「そう。それは、とても残念ね。向こうでお茶を飲みながら聞かせてくれるかしら?」
ノーリア姫は、王妃に進められて、席に着いた。
そして、先ほど助けてくれた友の話をするのであった。
その後。ラセは、気まずくて、闇の霧捜索部隊情報部の誰にも告げずに、王都を離れた。
マムには、悪い事をしたと思っている。
それでも、これ以上ノーリア姫の傍に居たら、自分の過去がばれそうで怖かった。
こうして、転々とエレメンタル大陸を彷徨っている内に、人身売買が、闇の霧につながっているとの情報を掴んで、潜り込んだが、ルイ達の海賊団に助けられて、苦労が水の泡になってしまったのである。
でも、闇の帝国が、大切にしている棺を手に入れたことで、手がかりがすぐにとだえてしまう、前の状態よりは、ましになったのだろうか?
ひさしぶりに訪れる、水の国の王都に、緊張しながらも、ラセは与えられた船室で眠りについた。
声を殺して、泣きつくラセをウェイルは、抱きしめ返した。
「まったく。僕のお姫様は、本当に無茶ばかりなさる」
「だって、ウェイルに会いたいから」
ウェイルは、ラセの頭を優しくなでた。
「君を攫っていければ、よかったのにね」
「ウェイル?」
ラセは、涙でぬれた瞳で見上げた。
ウェイルは、ラセの涙を指で拭う。
抱きしめていた、身体を離すと立ち上がった。
「ウェイル?どこへ行くの?」
「仕事へ」
「待って!」
ウェイルは、ラセの停止の声を聞かずに、闇に溶け込むようにして、姿を消してしまった。
「いつまでも、泣いてばかりは居られない」
ラセは、自分を奮い立たせて立ち上がった。
ウェイルが仕事をすると言ったら、ひとつしかない。
「きゃー!闇の霧だわ!」
貴婦人の悲鳴が舞踏会会場から聞こえた。
ラセは、ウェイルを止める為に、駈け出した。
舞踏会会場は、混乱に包まれていた。
闇の霧のせいで、シャンデリアの光が、地上まで届かず薄暗い。
闇雲に走り回って、周りは大参事だ。
「皆さん。落ち着いて下さい」
王妃のひっしの呼びかけも、周りの人々には届かない。
ラセは、会場の窓を開けて回りながら、風の精霊を探した。
窓を開けたことにより、入り込んでくる新鮮な空気。
その中に風の精霊達も居た。
「風の精霊。お願い。闇の霧を会場から追い払って!」
ラセの声が聞こえたのか、風の精霊達は、闇の霧を外へと追い出し始めた。
闇が薄れゆく中。黒いフードをかぶった怪しげな人影を見つけた。
その人影は、戸惑っているノーリア姫達に近づいていた。
手に光るのは、刃物だろうか?
ラセは、ノーリア姫の元へと急ぐ。
闇の霧が、晴れた。
ノーリア姫の目の前には、刃物を振り上げた人物。
ノーリア姫は、恐怖に震えて動けない。
もちろん、ノーリア姫のお供をしていた侍女達もだ。
騎士たちは異変に気付いたが、遠すぎて間に合わない。
「風よ!」
ラセは、風の精霊の力を借りてさらに加速する。
そして、加速しながら、ペンダントを開けて、愛用の短槍を取り出すと、ノーリア姫と、黒いフードの人物との間に割ってはいり、刃物を押さえつけた。
「く!」
黒いフードの人物が、ラセから、間合いを取る。
ラセは、ノーリア姫を背後に庇いながら、得意の突きを繰り出す。
ラセの突きは、黒いフードの人物に突き刺さった。
だが、刺した感覚がない。
黒いフードの人物は、闇の霧となり、姿を消してしまった。
「取り逃がしたか」
ラセは悔しげに、顔を歪めた。
「ラセ?」
庇われていたノーリア姫が、ラセの顔を覗き込む。
「やっぱり、ラセですわ。助けに来てくださったのですね」
ノーリア姫の言葉に、ラセは、向き直り頭を垂れて膝を付いた。
「ノーリア姫。ご無事でなによりでございます」
「それは、ラセが、守って下さったからですわ」
ノーリア姫は、ラセの手を掴んだ。
「本当に、ありがとう」
ノーリア姫の心からの感謝の言葉にラセは、顔を上げた。
しゃがみこんだノーリア姫は、ラセと視線が合うと、花が咲いたかのように微笑んだ。
なぜ、避けていたのだろうか?この美しすぎる姫君を。
ラセの心が、ふと軽くなるのを感じた。
過去の事は、過去の事。
あの頃の自分は、もうどこにもいない。
そして、今日の自分も明日には居ない。
「ノーリア姫。いままで、冷たい態度を取った事、お詫び申し上げます」
「では、これからは、仲良くしてくださるのですね」
ノーリア姫は、嬉しそうに微笑んだ。
けれど、ラセが告げた言葉は、ノーリア姫の期待を裏切るものだった。
「はい。いつかまた巡り会えたその日には」
ラセは、ノーリア姫の手袋がはめられた可憐な手に口付けを交わすと、不敵に立ち上がった。
「え?」
ノーリア姫は、ラセの告げた言葉の意味がわからずに、困惑した。
その間に、ラセは、出口へと駈け出した。
「待って!」
ノーリア姫が、言葉の意味に気付いた時には、既にラセの姿を見失っていた。
「どうして……」
去ってしまった、ラセの後を、ノーリア姫は、じっと見つめた。
「ノーリア姫。このような所に座り込んで、どうなさったのですか?」
ノーリア姫に話しかけて来たのは、王妃だった。
ノーリア姫は、恥ずかしそうに立ち上がると、ドレスを整えた。
「その、友達が、旅立ってしまいまして」
「そう。それは、とても残念ね。向こうでお茶を飲みながら聞かせてくれるかしら?」
ノーリア姫は、王妃に進められて、席に着いた。
そして、先ほど助けてくれた友の話をするのであった。
その後。ラセは、気まずくて、闇の霧捜索部隊情報部の誰にも告げずに、王都を離れた。
マムには、悪い事をしたと思っている。
それでも、これ以上ノーリア姫の傍に居たら、自分の過去がばれそうで怖かった。
こうして、転々とエレメンタル大陸を彷徨っている内に、人身売買が、闇の霧につながっているとの情報を掴んで、潜り込んだが、ルイ達の海賊団に助けられて、苦労が水の泡になってしまったのである。
でも、闇の帝国が、大切にしている棺を手に入れたことで、手がかりがすぐにとだえてしまう、前の状態よりは、ましになったのだろうか?
ひさしぶりに訪れる、水の国の王都に、緊張しながらも、ラセは与えられた船室で眠りについた。
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