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海賊編 第二章 義賊テール
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「テールが現れたぞ!」
「また、テールにやられたぞ!」
王都では、貴族、商人の悪事をあばく髪の長いポニーテールの女性。テールの話題で持ちきりだった。
別に、悪事を暴いて、善人になろうとか考えていた訳ではなかった。
ただ、闇の霧の事を捜索している過程で起こった出来事に過ぎなかった。
闇の霧に近づいた時、かならずウェイルが現れてくれた。
それは、ラセにとって、生きる希望となった。
いつか、きっと、あなたを助けるからと。
「使用人。床が汚れているわ。片付けなさい」
「水が無いわ。汲んできなさい」
ラセは、貴族の館の使用人をしていた。
主、使用人にかかわらず、ラセは仕事を言いつけられて、逆らわなかった。
今の館の主が、何度目の主かなどと、もう覚えてはいない。
ただ、潜入した屋敷が、闇の帝国の者とかかわりがないか、調べるだけだ。
基本的に、活動は夜に行うことにしていた。
その為、正体を見破られることのなかったラセは、人々に勝手にテールとの名を付けられた。
ある日。
一仕事終えたラセは、闇の霧捜索部隊情報部にスカウトされた。
丁度次の行き先を探していたラセは、その部隊に所属する事にした。
表向きは、情報屋。
裏は、闇の霧捜索部隊情報部。
昼は、使用人。
夜は義賊テールの生活をしていたラセにとっては、特に違和感のない環境だった。
情報屋の隊長は女性だった。
名前は、マム。
実名かは、わからなかったが、人々はそう呼んだので、ラセもそう呼ぶことにした。
マムは、母親の様に抱擁欲のある人物で、部下からの信頼も厚かった。
マムから指導を受けたラセの体術は、さらに磨きがかかった。
どんなところに潜入しても、対応出来るように、あらゆる知識・技術を叩き込んでくれたのもマムだ。
ラセは、マムに感謝してもしきれないほどの恩を感じていた。
しばらくして、ラセは、水の王国に滞在する、木の王国の第三王女の娘である、ノーリアの使用人兼、護衛を任された。
ラセは、ノーリア姫が苦手だった。
それでも、マムの命令だったから、従った。
ノーリア姫には、ラセ以外にも、大勢の使用人がいた。
ラセは、いままで通り、地味な使用人として仕事をこなし、ノーリアに危険が迫った時だけ守ればよいと安易に考えていた。
だが、ノーリアの方は違ったようで、新しく入った使用人が、自分と年が近いと知ると、仲良くなりたがった。
ラセからしたら、はた迷惑な話である。
「貴方が、新しい使用人ね。お名前を窺っても宜しいかしら?」
ウェーブした濃森色の髪を伸ばしたノーリアは、同色の瞳でラセを覗き込んだ。
ノーリア姫の噂は、決して悪い方ではない。むしろ良い方だ。
気品があり、おしとやかで、慈愛に満ちた大人びた乙女。
一度その人柄にふれたら、誰もが彼女を愛さずにはいられないだろう。
だが、ラセは、作り笑顔しか浮かべられない。この姫君の前では。
「ラセと申します。しがない使用人でございます」
「まあ、謙虚でいらっしゃるのね」
ノーリアは、何が可笑しいのかくすくすと笑いだした。
「ねえ。もっと近くに来て。その透き通る風のような、黄緑色の瞳を見せて」
ラセは、ノーリアの言葉に頭を下げて、あえて目を伏せた。
「いくら、姫君の命令でも、卑しい者をこれ以上おそばに寄せるのは、いかがなものかと。
あなた様の美が穢れてしまいます」
「また、テールにやられたぞ!」
王都では、貴族、商人の悪事をあばく髪の長いポニーテールの女性。テールの話題で持ちきりだった。
別に、悪事を暴いて、善人になろうとか考えていた訳ではなかった。
ただ、闇の霧の事を捜索している過程で起こった出来事に過ぎなかった。
闇の霧に近づいた時、かならずウェイルが現れてくれた。
それは、ラセにとって、生きる希望となった。
いつか、きっと、あなたを助けるからと。
「使用人。床が汚れているわ。片付けなさい」
「水が無いわ。汲んできなさい」
ラセは、貴族の館の使用人をしていた。
主、使用人にかかわらず、ラセは仕事を言いつけられて、逆らわなかった。
今の館の主が、何度目の主かなどと、もう覚えてはいない。
ただ、潜入した屋敷が、闇の帝国の者とかかわりがないか、調べるだけだ。
基本的に、活動は夜に行うことにしていた。
その為、正体を見破られることのなかったラセは、人々に勝手にテールとの名を付けられた。
ある日。
一仕事終えたラセは、闇の霧捜索部隊情報部にスカウトされた。
丁度次の行き先を探していたラセは、その部隊に所属する事にした。
表向きは、情報屋。
裏は、闇の霧捜索部隊情報部。
昼は、使用人。
夜は義賊テールの生活をしていたラセにとっては、特に違和感のない環境だった。
情報屋の隊長は女性だった。
名前は、マム。
実名かは、わからなかったが、人々はそう呼んだので、ラセもそう呼ぶことにした。
マムは、母親の様に抱擁欲のある人物で、部下からの信頼も厚かった。
マムから指導を受けたラセの体術は、さらに磨きがかかった。
どんなところに潜入しても、対応出来るように、あらゆる知識・技術を叩き込んでくれたのもマムだ。
ラセは、マムに感謝してもしきれないほどの恩を感じていた。
しばらくして、ラセは、水の王国に滞在する、木の王国の第三王女の娘である、ノーリアの使用人兼、護衛を任された。
ラセは、ノーリア姫が苦手だった。
それでも、マムの命令だったから、従った。
ノーリア姫には、ラセ以外にも、大勢の使用人がいた。
ラセは、いままで通り、地味な使用人として仕事をこなし、ノーリアに危険が迫った時だけ守ればよいと安易に考えていた。
だが、ノーリアの方は違ったようで、新しく入った使用人が、自分と年が近いと知ると、仲良くなりたがった。
ラセからしたら、はた迷惑な話である。
「貴方が、新しい使用人ね。お名前を窺っても宜しいかしら?」
ウェーブした濃森色の髪を伸ばしたノーリアは、同色の瞳でラセを覗き込んだ。
ノーリア姫の噂は、決して悪い方ではない。むしろ良い方だ。
気品があり、おしとやかで、慈愛に満ちた大人びた乙女。
一度その人柄にふれたら、誰もが彼女を愛さずにはいられないだろう。
だが、ラセは、作り笑顔しか浮かべられない。この姫君の前では。
「ラセと申します。しがない使用人でございます」
「まあ、謙虚でいらっしゃるのね」
ノーリアは、何が可笑しいのかくすくすと笑いだした。
「ねえ。もっと近くに来て。その透き通る風のような、黄緑色の瞳を見せて」
ラセは、ノーリアの言葉に頭を下げて、あえて目を伏せた。
「いくら、姫君の命令でも、卑しい者をこれ以上おそばに寄せるのは、いかがなものかと。
あなた様の美が穢れてしまいます」
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