上 下
34 / 115
海賊編 第一章 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊

34

しおりを挟む
「おかわり!」

 海賊達が呆れる中、一人平然とした顔で、ラセは、食事の追加をお願いした。

「ラセちゃんは、よく食べるね」

 代わりのスープを入れて来たトタプが、嬉しそうに微笑んだ。

「食費高くなりそうね」

 色気のある気の強そうな女性が、ため息をついた。

「まあ、そう言わないであげてよ。アンナ」
「食費は、国家予算から出ているから、別にかまわないだろ」

 クレイは、既に食べ終わっており、楊枝を口にくわえていた。

「あなた、それでも、国家から派遣された役人?って、そういう問題じゃなくて、船に詰める食料はかぎられているのよ。ただでさえ、大食いの男どもがいるのに、これ以上悪化したら、目的地にたどり着く前に食料が尽きるわよ。
 だいたい、捕虜だった頃は、御かわりなんて要求しなかったじゃない!」

 アンナの言葉に、ラセは、反省したのか、食べ終わった皿を置いた。

「ごめんなさい。トタプさんの料理がおいしくてつい。明日からは、御かわりはしない」

 ごちそうさまと、告げると、ラセは、席を立った。
 皆が食べ終わった食器をテーブルから片付けて、皿洗いを始める。

「ああ。ラセちゃん。僕がやるからいいよ」
「平気。皿洗いはなれているから」

 手慣れた様子で、大量の皿を片付けるラセ。

「終わった」

 短時間で片付けられた皿は、どれも、新品同様の輝きを放っている。
 海賊達が、見惚れていると、ラセは、淡々とした口調で告げた。

「で、次は?」

 ラセは、働き者だった。
 誰よりも丁寧な仕事で、常に完璧。
 教えても居ないのに、大砲の整備や、道具の扱いも達人並。
 それは、全て風の精霊と水の精霊の力を借りてのことだったのだが、誰もラセの手際の良さを疑わなかった。
 ラセに仕事を取られた他の海賊達が、次第に遊びほうけるようになった。
 その事に対して、船長であるデチャニーとクレイは、頭を悩ませた。

「ラセ君」
「はい?」

 いつも通り甲板の掃除をしていると、クレイに呼び止められた。

「仕事の事なのだが、当番制にしよう。正直、君が、他の者の仕事を取ってしまっていて、困っている」
「どうして、他の人の仕事を奪ってはいけないの?
 使用人をしていた時は、皆の仕事を代わりにしたら、喜ばれた」
「君は、使用人だったのか?」
「他にも色々な職種を経験した。
 全ては、闇の霧の手がかりを得る為に」

 真っ直ぐに見上げてくる透き通る黄緑色の瞳は、何が間違っているのかわからないと、クレイに訴えていた。
 この子供は、役割分担の大切さが、よく理解出来ていないようだ。
 全ての事を、一人で出来てしまうがゆえに。

「とにかく、当番制は、この海賊船の規則だ。規則は、守ってもらわなければ困る」

 クレイの言葉に、ラセは、半信半疑ながらも頷いた。

「わかった。当番制。守る」
「いい子だ」

 クレイは、ラセの頭を撫でて立ち去った。
 聞き分けの良い子は扱いやすくて、嫌いではない。
 人とは感性が、すこしずれたところが、難点ではあるが。
 クレイが去った後、ラセは、甲板掃除を終わらせて、道具を片付けた。

 潮風が、心地よい。
 ラセは、塀に身を預けて、潮風を思いっきり浴びた。
 心地よさそうに、舞う精霊達。
 この船を運んでいるのは、潮の流れと、風の精霊達の風圧だ。
 風に揺れるマストを眺めながら、空を眺める。

 いつになったら、ウェイルの元へとたどり着けるのだろうか?

 ラセは、ペンダントを取り出した。
 鎖につながれている、婚約指輪を眺める。
 その時、懐中時計程のペンダントが、淡い珊瑚色の光を放った。

「忘れていた」

 ラセは、甲板に誰も居ないのを確認すると、ペンダントの蓋を開けた。
 中から飛び出す珊瑚色の光は、甲板に着地した。

『ここは、気持ちがいい所ですね』

 出てきた小動物は、珊瑚色の毛並を風になびかせた。

「うん。私もそう思っている」

 ペンダントに封じられていた、魔物に向かってラセは微笑んだ。

『ひさしぶりに、稽古を致しますか?』

 小動物が、そう告げると、ペンダントの中から、光の玉が出てきた。
 それを、ラセが握りしめると、一振りの短槍が現れた。

「そうだね。セントミア」

 ラセは、素振りの稽古を始めた。
 舞うように流れる動きは、精霊達ですら魅了する。
 母から教わった大事な武術。
 厳しい闇の霧との戦いを切り抜けてきた術。
 いつしか、海賊達が、甲板に出てきて、ラセの稽古をまるで、芸でも見るかのように、輝いた顔で見ていた。
 そんな中。人混みの後ろから、ラセの動きを眺めていたトタプは、驚愕の表情を浮かべた。

「あの構えは」

 トタプは、目の前で舞うように短槍を振るうラセと、かつて旅を共にした少女を重ねずには、居られなかった。



 とあるところに、盗賊に拾われた赤子がいました。
 赤子は、りっぱな盗賊少女へと成長しました。
 少女が所属する盗賊は、親分と料理人と、頼りない少年の四人でした。
 料理人の料理は質素ながらもとてもおいしく、少女のお気に入りでした。
 やがて、少女は、旅をするうちに、木の国の第三王女に出会います。
 第三王女の護衛を務めることになった盗賊団は、闇の帝国と次第に敵対していきました。
 そして、闇の帝国の陰謀を妨害した少女は、旅を共にした少年と仲良く暮らしたそうです。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

欲しいものはガチャで引け!~異世界召喚されましたが自由に生きます~

シリウス
ファンタジー
身体能力、頭脳はかなりのものであり、顔も中の上くらい。負け組とは言えなそうな生徒、藤田陸斗には一つのマイナス点があった。それは運であった。その不運さ故に彼は苦しい生活を強いられていた。そんなある日、彼はクラスごと異世界転移された。しかし、彼はステ振りで幸運に全てを振ったためその他のステータスはクラスで最弱となってしまった。 しかし、そのステ振りこそが彼が持っていたスキルを最大限生かすことになったのだった。(軽い復讐要素、内政チートあります。そういうのが嫌いなお方にはお勧めしません)初作品なので更新はかなり不定期になってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。

処理中です...