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海賊編 第一章 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊

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 けれど、ラセには、通常時で見えて、会話を交わすことが出来た。
 彼女達から聞いた冒険物語は心躍る物だった。
 彼女達から教わった知識は、真実のみで、人間が簡単に書き換えられる歴史書とは異なっていた。

 幼い頃、姿が見えない者を見えると言い、歴史書を否定したラセは、嘘吐き扱いされた。
 嘘吐き扱いしなかったのは、ラセと同じように、水の精霊を認識出来たウェイルだけだった。
 ウェイルの傍は、心地よかった。
 ありのままの自分で居られた。
 ウェイルが居なくなって、自分の居場所が無くなって、生き残る為に、ラセは、嘘をつくこと覚えた。
 そしたら、誰もラセを嘘吐きと呼ばなくなった。





「今回は、惜しかったね」

 暗闇から声が、聞こえた。
 聞き覚えのあり過ぎる声に、ラセは、足を止めた。
 辺りには、うっすらと闇の霧が満ちていた。

「その声、ウェイル?」

 ラセは、喜びに頬を緩ませた。

「うん。そうだよ」
「ねえ、姿を見せて」
「まだ、駄目だよ。もう少し僕のお姫様が、がんばったらね」

 ウェイルは、時々意地悪だ。
 ラセが、闇の霧に対抗した分しか、姿を見せてくれないし、一緒に居てくれない。
 それでも、ラセは、ウェイルが、生きていてくれるだけで、時々言葉を交わせるだけでうれしかった。

「だから、諦めずに、僕を追ってきてね」

 わずかに、手のひらが頭を撫でてくれた感覚がした。
 その感覚が、心地よくもあり、すぐに離れてしまったことが寂しくもあった。

「私は、闇の霧を倒す。そして、ウェイルを解放するから」

 ラセの力強い言葉に、ウェイルは、うれしそうな声を上げた。

「うん。待っているよ。僕の勇敢なお姫様」

 闇の霧が、薄くなって、姿をかき消した。
 ウェイルの存在も感じられなくなり、ラセは、心細くなった。
 




「ラセ!」

 霧が晴れた頃、ルイが走って来た。

「ルイ?」
「今、このへんに闇の霧が発生していただろ!闇の者に会って居たり、被害に会ったりしてないだろうな」

 ルイは、怪我をしていないか、ラセの身体を触って確かめ始めた。

「ちょっと」

 ラセは、ルイの拘束から逃れようと身じろぎした。

「大丈夫だから!」

 ラセが、ルイを突き放そうとした時、ラセの胸にルイの手が触れた。

「!」

 ルイは、慌てて手を離すと、ラセを指差して、驚愕していた。

「お前、女だったのか!」

 今更気付いたルイに、ラセは、どう答えてよいのかわからない。
 ただ、一言、ラセは、顔を真っ赤に染めて呟いた。

「変態」
「変態って!」
「変態は、変態。私に触らないで」

 ラセは、身を守るように身体を抱えた。
 じっと睨み付けるラセに、ルイは一歩離れた。

「わかったよ。悪かった。もう触ったりしないから、だから、付いてきてくれるか?」
「施設にならば、一人でも戻れる」
「施設じゃねーよ」
「?」

 不思議そうに立ち尽くすラセに対して、ルイは、言いづらそうに告げた。

「船。俺達の海賊船にこい。その、船長とクレイは俺が説得するから」
「どういう、風の吹き回し?」
「そのままの意味だよ。お前このまま大人しく施設に居そうになさそうだし、目的が同じなら、一緒に行動した方が、効率もいいだろ」

 照れているのだろうか?
 ルイの耳がわずかに赤い。

「それに、ラセに言われて、思い直したんだ。
 確かに今までは、海賊船の皆が、闇の霧に立ち向かうから、俺もなんとなく付き合ってきた。けど、それじゃ、駄目なんだって事。
 今は、闇の霧に立ち向かう明確な理由は、無いけれど、闇の霧に困っている人々を助けたいって気持ちは確かにあるし、ガキのおまえが、頑張っているのに、放置しておけないだろう」
「私は、そこまで、ガキではない。でも」
「でも?」
「どうしても、一緒に行動してほしいと望むのならば、付き合ってあげてもいい」
「ずいぶんと上から目線だな」
「嫌なら」
「いや」

 ルイは、ラセに向き合うと、優しい笑みを浮かべた。


「嫌じゃない」


 なぜ、彼は、こんなにも、笑えるのだろうか?
 私は、あの日を境に笑えなくなってしまったのに。


「なら、決まり。さっさと、私を船まで連れて行きなさい」
「本当に上から目線だな」

 ラセの態度に、ルイはまた笑った。
 おかしなところなど、人に馬鹿にされることなど、一言も言っていないつもりなのに。
 ルイの後に続いて歩く。
 いつのまにか、日が明けて、朝日が出ていた。
 
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