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海賊編 第一章 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊
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それからの日々は、平和だった。
無事に、港町へとたどり着いた。
「では、身元の確認を行う」
役員の男は、施設に連れて来た後、捕えられていた人々に告げた。
王国所属の者に保護された者は、かならず、身元の確認をされる。
身元がはっきりしている者は、国家予算で親元または、住んでいた里まで送還される。
ただし、身元のはっきりしない者。孤児、賊などは、施設に入れられ、りっぱな社会人として生きていけるように、仕事を与えられ、公正させられるのだ。
ラセは、逃げ出せる機会を窺っていた。
こんな所で施設に入れられて、闇の霧捜索を中断されるわけには、いかないのだ。
「では、次おまえ。名前は」
「ラセ」
「家は、どこだ」
「家は……ない」
「では孤児か?」
役人の言葉に首を縦に振った。
「そうか。では次」
役人は、簡潔に用件だけを聞くと、次の人へと移って行った。
逃げ出すのならば、やはり、人が居なくなる時間帯を見計らった方がいいか?
気付いた時には、身寄りのない者だけが、施設に残されていた。
施設を案内されて、一通りの説明を受けて、その日は終わった。
部屋は、相部屋だった。
相部屋の人間は、疲れ切ってすぐに眠りについた。
それを見計らって、ラセは、部屋を出た。
「どこに行くんだよ?」
ラセが部屋を出ると、待ち構えていたかのように、ルイが壁に寄り掛かって腕を組んでいた。
「えっと。夜のお散歩?」
「なら、俺も着いて行く。ガキだけじゃあぶないからな」
ルイは、ラセの返事を聞かずにすたすたと歩きだした。
ラセは、逃げ出す機会を失ってしまい、仕方なくルイに着いて行った。
「まだ、海賊船に戻らなくてもいいの?」
「しばらくは、滞在するらしい。決めるのは俺じゃなくて船長とクレイだから」
「クレイ?」
「王国所属の役人で、俺達の海賊船の担当者。
昔、王都の騎士団に所属していただけあって腕は立つし、荒くれ者の態度にも口うるさくないし、気が楽な人なんだ。俺は結構気に入っている」
「そう…なんだ」
しばらく、二人は無言で歩いた。
「お前が?」
「?」
「ラセが、施設から逃げ出すんじゃないかって、クレイに注意されて、本当は監視していたんだ」
「……そんなことするわけ」
「そうだよな。クレイの思い過ごしだよな」
ルイは、気まずそうに笑った。
「そろそろ、帰るか?」
「一つだけ聞いてもいい?」
ルイが帰ろうとしたのを引き留めて、ラセは問いかけた。
「どうして、闇の霧対策部隊の海賊船に乗っているの?
その、君まだ若いでしょ?」
「どうしてって言われても、あの海賊船は、俺の家みたいな者で、家族が闇の霧と戦うのならば、俺も戦う?みたいな感じ?」
ルイは、意味もなく笑った。
「そんな、適当な理由で、闇の霧と戦っているの?」
ルイの笑い声に苛立ちを覚えた。
ラセは、もっと深刻な理由で、闇の霧を追っているのに、家族が戦うから戦う?
そんな曖昧な動機で、戦いを挑んでいいほど敵は甘くないのに。
「適当って、まあ、あんまり深く考えて事はなかったけど」
「だったら、今すぐに、やめた方がいい。
真剣な気持ちが無いのならば、命取りになる」
ラセは、真っ直ぐにルイを見据えた。
「私は、闇の霧を滅ぼすことに、人生をかけている!
遊び半分のあなたとは、違う!」
ラセは、言い放つと、路地を駆けだした。
「おい!」
ルイの停止の声も無視して、走り去る。
ラセが、本気を出せば、誰も追いつけないことを知っていた。
ラセは、隣に寄り添う、姿を見た。
舞うように、飛ぶ美しい乙女達。
透明な衣を纏ったうす黄緑色の彼女達は、風の精霊だ。
風の精霊は、本来魔法発動時のみしか、人間には、見えない。
無事に、港町へとたどり着いた。
「では、身元の確認を行う」
役員の男は、施設に連れて来た後、捕えられていた人々に告げた。
王国所属の者に保護された者は、かならず、身元の確認をされる。
身元がはっきりしている者は、国家予算で親元または、住んでいた里まで送還される。
ただし、身元のはっきりしない者。孤児、賊などは、施設に入れられ、りっぱな社会人として生きていけるように、仕事を与えられ、公正させられるのだ。
ラセは、逃げ出せる機会を窺っていた。
こんな所で施設に入れられて、闇の霧捜索を中断されるわけには、いかないのだ。
「では、次おまえ。名前は」
「ラセ」
「家は、どこだ」
「家は……ない」
「では孤児か?」
役人の言葉に首を縦に振った。
「そうか。では次」
役人は、簡潔に用件だけを聞くと、次の人へと移って行った。
逃げ出すのならば、やはり、人が居なくなる時間帯を見計らった方がいいか?
気付いた時には、身寄りのない者だけが、施設に残されていた。
施設を案内されて、一通りの説明を受けて、その日は終わった。
部屋は、相部屋だった。
相部屋の人間は、疲れ切ってすぐに眠りについた。
それを見計らって、ラセは、部屋を出た。
「どこに行くんだよ?」
ラセが部屋を出ると、待ち構えていたかのように、ルイが壁に寄り掛かって腕を組んでいた。
「えっと。夜のお散歩?」
「なら、俺も着いて行く。ガキだけじゃあぶないからな」
ルイは、ラセの返事を聞かずにすたすたと歩きだした。
ラセは、逃げ出す機会を失ってしまい、仕方なくルイに着いて行った。
「まだ、海賊船に戻らなくてもいいの?」
「しばらくは、滞在するらしい。決めるのは俺じゃなくて船長とクレイだから」
「クレイ?」
「王国所属の役人で、俺達の海賊船の担当者。
昔、王都の騎士団に所属していただけあって腕は立つし、荒くれ者の態度にも口うるさくないし、気が楽な人なんだ。俺は結構気に入っている」
「そう…なんだ」
しばらく、二人は無言で歩いた。
「お前が?」
「?」
「ラセが、施設から逃げ出すんじゃないかって、クレイに注意されて、本当は監視していたんだ」
「……そんなことするわけ」
「そうだよな。クレイの思い過ごしだよな」
ルイは、気まずそうに笑った。
「そろそろ、帰るか?」
「一つだけ聞いてもいい?」
ルイが帰ろうとしたのを引き留めて、ラセは問いかけた。
「どうして、闇の霧対策部隊の海賊船に乗っているの?
その、君まだ若いでしょ?」
「どうしてって言われても、あの海賊船は、俺の家みたいな者で、家族が闇の霧と戦うのならば、俺も戦う?みたいな感じ?」
ルイは、意味もなく笑った。
「そんな、適当な理由で、闇の霧と戦っているの?」
ルイの笑い声に苛立ちを覚えた。
ラセは、もっと深刻な理由で、闇の霧を追っているのに、家族が戦うから戦う?
そんな曖昧な動機で、戦いを挑んでいいほど敵は甘くないのに。
「適当って、まあ、あんまり深く考えて事はなかったけど」
「だったら、今すぐに、やめた方がいい。
真剣な気持ちが無いのならば、命取りになる」
ラセは、真っ直ぐにルイを見据えた。
「私は、闇の霧を滅ぼすことに、人生をかけている!
遊び半分のあなたとは、違う!」
ラセは、言い放つと、路地を駆けだした。
「おい!」
ルイの停止の声も無視して、走り去る。
ラセが、本気を出せば、誰も追いつけないことを知っていた。
ラセは、隣に寄り添う、姿を見た。
舞うように、飛ぶ美しい乙女達。
透明な衣を纏ったうす黄緑色の彼女達は、風の精霊だ。
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