盗賊は風を纏い、海賊は水を纏う。

覗見ユニシア

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海賊編 第一章 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊

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 波の音がする。
 ラセは、薄汚れた布を身体からどかした。
 他の人々は、まだ眠っているみたいだ。
 ラセは、服の下に隠していたペンダントをそっと取り出した。
 魔法陣が刻まれた懐中時計ほどの大きさの飾りと、鎖につながれた指輪。
 この指輪は、彼との婚約の証だ。
 ラセは、闇の霧に襲われてから行方不明になっている彼をずっと探している。
 今回この船に紛れ込んだのも、彼の手がかりを追った結果である。
 突然爆音がした。
 起き出した人々にばれないように、ラセはすばやくペンダントを服の下へと隠した。

「なにごとだ!」
「親方。大変です。海賊が攻めてきました」
「なに!早く対応しろ!」

 上の方で、どたばたと走り去る足音がした。
 目覚めた人々は、何事かと、身を震わせていた。
 しばらく、喧騒に耐えていると、怒鳴り声がしなくなった。
 そして、開け放たれる船室の扉。


「我らは、闇の霧対策部隊、王国所属の海賊。貴君らを助けに来た」


 入って来た青年の声に船室に居た人々は、喜びと安堵の声を上げた。
 中には、嬉しさに泣き出す者もいる。
 この船室に捕らわれていた人々は、闇の霧の者によって、闇市場に人身売買される予定だった者達だ。
 喜びで満ちる中で、一人ラセは、舌打ちした。
 せっかく、闇の霧の手がかりをつかんだのに、これでは台無しである。

「お前、出てこいよ。もしかして、怪我をしていて歩けないのか?」

 金髪を一つ結びにした少年が、ラセに手を差し伸べて来た。
 その手をラセは、握らずに、立ち上がった。

「大丈夫。なんともない」
「そっか。坊主、無事でよかったな」

 金髪の少年は、歯を見せながら笑った。
 坊主と呼ばれた事に対して、ラセは苛立ったが、あえて何も言わなかった。
 男と間違えられるのにはなれている。
 ラセは、かぶっていた帽子をさらに深くかぶり直した。

 少年の指示に従い、甲板に出た。
 ひさしぶりに感じた潮風に、身体を大きく伸ばす。
 時折視線の端に見える姿を無視しながら、隣接された海賊船に乗り込む。
 このまま、この海賊船は、近場の港街へ向かうのだそうだ。

 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊。
 王国に従う代わりに、海賊稼業を続けることを許された海賊の事を示す。
 水の国、ウォーターランド王国に嫁いだ、風の国、リアロティー王国の姫様が盗賊・海賊の生活保護及び、闇の霧対策として立ち上げた部隊である。
 王国所属の役人が一人監督者として乗り込んでいること以外は、ほぼ、規律はない。
 よって、荒くれ者達の集団である。


「飯出来たぞ」

 先ほどの金髪の少年が、食事の乗ったお盆を持ってきた。

「俺は、お前らの世話をすることになる、ルイだ。
 まあ、港街に付くまでは、よろしくな」

 ルイと名乗った少年は、屈託のない笑みを浮かべた。
 ひさしぶりにありつけた、まともな食事に、ラセは、手を伸ばした。
 パンとスープの組み合わせは、この地方ではありきたりな食事だ。
 だが、一口含むと、素朴ながらも、愛情のこもった温かみのある味がした。

(どこかの貴族の食事よりもずっとおいしい)

 ラセは、一口ずつかみしめて食べた。

 子供の頃。
 憧れている食事があった。
 決して豪華な食事ではないけれど、とてもおいしそうに食べていたと聞いて育ったから。
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