上 下
26 / 115
盗賊編 第九章 水の国と風の国の結婚式

26

しおりを挟む
「私は……」

 見破られた事に対して、身体が震えて、うまく言葉を紡げなかった。

「闇の帝国に、火の国の守護魔神を奪われて、仕方なく従っていたのですよね」

 セイハは、子供をあやすような響きでローラを諭す。
 ローラの涙腺が緩むのがわかった。


「はい。私は、火の国の姫です」

 ローラは、小さな声だが、はっきりと告げた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。私……」

 ローラの肩が震えている。
 セイハは、ローラを慰めようとしたが、不気味な声が、響き渡った。


『我は、闇の帝国の者なり』

 空を見ると、黒ずくめの男が、ドレスを着た少女を抱えていた。
 特別席に座っていた、エコシェザニーが、捕えられている少女の正体に気付いて、立ち上がった。
 エコシェザニーは、セイハが王子だと知ると、驚いてが、様子見をしていたのだ。

「あれは、ロティーラ!」

 セイハもロティーラが、闇の帝国の者に掴まっているのを、確認していた。
 ローラが恐怖で震える。

「ロティーラ!」

 セイハは、ロティーラに呼びかけた。
 しかし、ロティーラは、虚ろな瞳をしており、セイハの声に反応しない。
 セイハは、黒ずくめの男を睨み付けた。

『セイハ。まさか、おまえが、水の国の王子だとは、思わなかった。
 だが、丁度いい。この娘が大切ならば、火の国の姫と結婚しろ』
「人質を取るなど、卑怯だぞ」
『それが、闇の帝国のやり方。目的のためには、手段は、選ばない』
「……」
「選べ。王子。大切な人を選ぶか。王族の力を選ぶか」
「もう一つ選択肢はある!」
『我を倒すとでも抜かす気か?倒される前に、小娘を殺すぞ』

 セイハは、黒ずくめの男を無視してロティーラに呼びかける。


「ロティーラ!おれは、おまえを愛している!
 親分よりも、トタプよりも、愛しているのだ!」

 セイハの叫び声は、城中に響き渡った。


 黒ずくめの男は、馬鹿にしたように、鼻で嘲笑う。

『最後の別れのあいさつか。結局は、力に目が眩んだのだな』
「皆、おれとロティーラの結婚式を祝うために、集まってくれたのだ」

 ロティーラの目にうっすらと生気が戻る。


「おまえは、本当は、風の国の姫なのだ。
 皆の前で結婚しよう。
 王族属性魔法呪文を唱えてくれ!」


『いくら小娘に呼びかけても無駄だ、
 小娘は、闇の力で心が封じ込めあれているのだからな』

 黒ずくめの男の腕の中で、ロティーラは、呪文を唱え始める。


「風の国。リアロティー王国の姫として、風の精霊よ。従いたまえ」

 呪文を言い終えた、ロティーラは、黒ずくめの男の腕を振りほどいた。


「馬鹿な!」
 驚愕する黒ずくめの男を差し置いて、ロティーラは、風の精霊の力を借りて、セイハの元へと向かう。
 セイハが、両手を広げて、ロティーラを待っている。

「セイハ!」

 ロティーラは、セイハの胸へと飛び込んだ。
 セイハが、やさしく、ロティーラの身体を支える。
 ロティーラは、セイハの身体に抱き着いた。

「セイハ。わたしのこと愛しているって本当?
 結婚式してくれるんだよね?」

 ロティーラのいつもの元気の良さに、セイハは、安堵の笑みを浮かべた。
 そして、上空に取り残された、黒ずくめの男を睨み付ける。

「闇の帝国の者を倒したら、結婚しよう」

 闇の帝国の者は、ローラに怒鳴った。

『火の国の姫。城を焼き尽くせ。
 火は、滅ぼす事しか出来ない力。
 人を惑わす、闇の力と何が違う?
 我らは、同士。闇の帝国に従え!』

 ローラは、困惑していた。

「火は、本当に、滅ぼす事しかできないのならば」
「ちがいます」
「え?」
「ちがいますよ」

 ジョンが、ローラの手を両手で握りしめた。


「火は、人を照らす、温かい明かりです。滅ぼすだけでは、ありません」

「ジョン王子」

しおりを挟む

処理中です...