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盗賊編 第九章 水の国と風の国の結婚式

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「待たせたな。ジョン」

 セイハが、水の国の守護魔神に片手で飛び乗りながら言った。
 ジョンは、バルコニーにしがみついた。

「王子。帰って着てくれたのですね」

 ジョンは、緊張の糸がほどけたせいか、大声で泣き出した。
 セイハは、注目の的になってしまい、恥ずかしくなった。

「王子って恥ずかしいから言うなよ。おれとジョンとの仲じゃないか」

 セイハはジョンに笑いかけたが、ジョンは、頑なに首を振った。

「いいえ。あなた様は、水の国の正真正銘の王子です」

 ジョンの顔には、泣いた後が残って居たが、気にせずに、セイハに向かって心からの笑みを浮かべた。

「お帰りなさいませ。王子」

 セイハは、眉をひそめた。

「どうして、自分勝手に国を捨てて、ジョンに全てを押し付けたおれを笑って出迎えることが出来るのだ?」

 セイハは、まともにジョンの顔を見ることが出来なくなってしまった。
 ジョンは、先ほどと変わらない優しい声で、セイハに話しかける。

「助けてもらったのは、ぼくの方でした。
 王子は、どこの子供だかわからないぼくと仲良くしてくれました。
 そして、王子の身代わりという大事な役目を与えてくれました。
 役目がなかったら、今頃餓死していたでしょう。
 だから、感謝しています」
「ジョン」

 セイハは、ジョンの成長ぶりを見て、まぶしく感じた。
 ジョンに王子の身代わりを託したことは、間違いではなかったと改めて思った。

「国民の皆さん。いままで騙していて申し訳ありませんでした」

 ジョンが国民に対して謝罪すると、国民達は怒り出す事もなく、むしろ笑みを浮かべて、拍手した。
 国王がジョンに近寄り、肩を叩いた。

「君が、私の息子ではないことは、気が付いていたよ」

 ジョンは驚いた。


「では、なぜ、ぼくを王子だということにしておいてくださったのですか?」
「君からは、悪意を感じなかったからだ。それに……」
「それに?」
「試してみたかったのだ。セイハの人を選ぶ目を」

 国王は、固くなっているジョンの緊張をほぐそうと軽く肩を叩いた。

「君は、合格だよ。君は両親がいないのだったね」
「は、はい」
「私の養子になる気はないかい?」

 国王の顔が、父親の顔に変わった。
 ジョンは、落ち着くために深呼吸をした。

「ぼくで、よろしいのならば」

 国王は、ジョンを抱きしめた。
 国民からまた拍手喝さいが送られる。
 セイハは、ジョンと国王とのやりとりを微笑ましげに眺めながら、水の国の守護魔神の力を借りて、バルコニーへと着地した。
 セイハに気付いた国王は、ジョンを離す。


「セイハ。風の国の姫と結婚する気はあるか?」

「あります。父上」


 セイハは、国王に、断言した。
 ローラ姫は、水の国の王子だと思っていたジョンが、実は身代わりだと知り、動揺したが、正式な王子が結婚してくれると知り安堵した。


「ですが、そちらの姫君とは、結婚出来ません」


 セイハは、真っ直ぐに、ローラの方を向いた。
 ローラの何にあった安堵感は、一瞬の内に消え失せた。
 それでも、姫である威厳を失わないように、背筋を伸ばした。

「貴方様は、おかしなことをおっしゃいます。私が、風の国の姫君なのですよ?」
「無理しなくていいのです。火の国の姫」

 ローラは、正体がばれた事に驚愕して動けなかった。
 国民達は、火の国の恐怖を噂で聞いていたため、震えあがった。


「火の国の国民は、ローラ姫を大変心配しています」


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